「あ、結構人通り増えてきた…!」 「そうだな、あとは1階に降りれば正面玄関だ」 「本当にありがとうございます!」 「いいって」 藤真先輩に深々と頭を下げると、そんな大したことじゃないと少し照れたように笑って返す。それでも私からしたら救世主様だったので、それはもう感謝しまくった。 とりあえず1階までは送ると言われ、私と藤真先輩は階段を下りていく。…と、その時、下から女の子たちの賑やかな声が聞こえてきた。 「きゃ!藤真先輩!」 「わぁっ、藤真先輩よ!」 そして私たちと彼女たちの姿がお互いに見えた時、女の子たちが藤真先輩を見上げて急に可愛らしい声をあげた。その時、藤真先輩をチラ見すると、“げっ”という顔をしていた。 「藤真先輩、どこ行ってたんですか?全然見当たらないから探したんですよ!」 「い、いやぁ…」 「藤真先輩っ、良かったら一緒に文化祭っ……あれ、その人…」 「えっ…?」 獲物を逃がさまいという速さで駆け寄ってきた女子達は、頬を赤らめながら藤真先輩を誘う。まあ、藤真先輩のこの顔なら確かにモテるのは目に見えている。女子たちのうっとりした表情を見て、私は隣の席のあのキツネ目の男をふと思い出した。 そしてそんな彼女たちの視線は私の方へと向けられる…。ああ、この視線も知っている。つい最近に校舎裏で見たあの女の子たちと同じ目をしている。 「ああ、コイツは…」 「も、もしかして先輩の彼女、ですかッ!?」 「え、いや…あーー………」 女子組は少しショックを受けた表情でそう尋ねると、何故か藤真先輩は否定を即答しなかった。なぜか言葉を詰まらせているけど、なんだか嫌な予感……。 「そう、コイツ俺の彼女」 「はぁ!?」 「「「ええーー!?」」」 いや、ええー!?はこっちの台詞だよ!!と言いたくなるも、私の肩にはしっかりと藤真先輩の腕が回っている。しかも逃がさねぇとでも言うような力の込めようだ。 いやいやどういうことですか先輩、ちゃんと説明してくれますよね?…と視線を送れば、藤真先輩は苦笑いでハハッと笑ってみせた。 「つーわけで、文化祭はコイツと回るから、悪いな!」 えーん先輩〜!嘘だと言って〜!あの女だれぇ!? と背後で女子たちの騒ぐ声が聞こえるが、私は藤真先輩に肩を抱かれたまま先へと歩いていった。そして一度藤真先輩がキョロキョロと辺りを見回して誰もいないと確認すると、ひと気の少ない廊下の角へと連れて行かれた。 「いやー、悪い」 「なんで嘘ついたんですか?」 「実はああいう女子、あれだけじゃないんだよ…」 「まあ、先輩モテそうですもんね…なんとなく苦労お察しします」 「今日俺が体育館居たのもそれが理由でさ、おちおち文化祭楽しんでらんねーの」 だからせっかくの文化祭だというのにわざわざ一人で体育館に居たのか…。モテる男の辛さをなんとなく察せてしまった私は、怒るよりも同情の意が勝ってしまった。 「で、ここからはお願いなんだけどー…」 「?」 「頼む!今日だけ彼女のフリしてくれねぇか!?」 「ええっ!」 やっぱりそうきたか!そもそも私には洋平という立派な彼氏がいるし、というか藤真先輩とは今日会ったばっかりだし、そしてこんなこの学校1のイケメンと云えそうな彼の彼女のフリをするなんて…色々と重たすぎる。 「む、無理ですっ」 「頼む!一人でいると文化祭も楽しめねーし、それに彼女がいるって思わせられたらしばらくは部活に集中できるしよ」 「うっ……」 「それにお前他校だろ?校内の女子には絶対頼めないし…」 そんな風に言われたら、私の良心が反応してしまうじゃない…!なんてずるい人だろう。しかも捨てられた子犬のような目で見てお願いしないで!こっちが悪いみたいになってくる!本当に3年なのかこの人は…。 「今日だけですよ」 「助かる!」 …というわけで、何故か私は藤真先輩の1日限定彼女(フリ)になることとなった。そうと決まった藤真先輩は堂々と校舎内を歩き回り、私はというと彼の隣について並んで歩く。するとすれ違う女子たちが私たちを交互に見てはひそひそとしているのが見える。まあ、察するに藤真先輩の隣の女はなんなんだと言っているのだろう。 思ったよりこの彼女のフリ、ヘビィだわ…。 「あ、そうだ」 「え、なんです…カッ!?」 「付き合ってるんなら手、繋がねーとな」 と言ってさっきから軽く触れていた藤真先輩の指が私の指に絡められた。そのことにまず悲鳴をあげたのは私ではなく周りの女子たちで、この行為によって私が藤真先輩の彼女だということが確定されてしまった。でもそれよりも繋がれた藤真先輩のその手の感触に、私はふと思った。 「そういえば先輩の言ってた部活って、バスケですか?」 「え、ああそうだけど、言ってなかったか?」 「まあなんとなく察しはついてましたけど、手の感じが球技してる人っぽかったので」 手の内側にタコができていて、見た目からは想像できないとてもゴツゴツとした男性らしさのある手をしていた。こういう手は球技をしている人に多いのはなんとなく察していたし、出会った時もバスケの話をしていたのですぐに分かった。 「先輩これだけモテるってことは、相当バスケ上手いですね?」 「なんだよその推理……。まあ、監督兼選手もやってるから、若干目立つのかもな」 そうサラっと言った藤真先輩に、私は驚いた。だって、翔陽高校といえば去年のインターハイ出場校で神奈川2位を取った学校だ。そこの監督と選手を両方やっているだなんて、普通に考えて凄い人っていうのがよく分かる。そしてそれは湘北高校の、次の対戦相手となるのだから…。私は今、とんでもない人と手を繋いでいるだと自覚して萎縮しそうになった。 その後、私たちは模擬店を練り歩いて藤真先輩の奢りでクレープや焼きそばなどを食べたり、体育館でやってる催し物などを見たりと、普通に文化祭を楽しんだ。でもやっぱり注目度はナンバーワンで、その視線も次第にどうでもよくなってきて慣れてしまったのだけど。 「お前の幼馴染って、バスケ部なんだっけ?」 「そうですよ、つい最近始めたばっかなんですけどね」 「そういえば、苗字って学校どこなんだ?」 「あー……えーっと、」 まさかの次の対戦相手ですなんて今この人のスペックを知ってしまってからは言いづらくなってしまい、私は目を泳がせた。 「藤真、ここに居たのか」 「おう、花形じゃないか」 とその時、私たちの前に巨人が現れた。…と言ったら失礼だが、それでもこれは巨人クラスだ。湘北高校バスケ部のあの赤木キャプテンと同等のその長身の男に、私は圧倒される。 花形と呼ばれた彼は、体格に似合わず眼鏡で大人しそうな外見をしていて、どうやら藤真先輩の知り合いらしい。というか、絶対にバスケ部のチームメイトだ。この身長でバスケやってなかったらおかしい。 「午後の店番の時間とっくに過ぎているぞ」 「あ、そうだった!悪い悪い!」 「………」 「ん?どうした…って、あー、コイツは…」 「藤真…お前、彼女いたのか」 「え!あー……いや、まあ…おう、」 花形という人がやっと私に気づくと、少し驚いた眼で私を見ていた。“彼女”という言葉に、藤真先輩は大変気まずそうに返していて、彼ら二人はそれなりに仲の良い間柄らしい。それでも藤真先輩は否定はせず、苦笑して見せた。 「じゃあ俺は先に行く、藤真も後で来るんだぞ」 「おー、悪いな…」 そう言って花形さんは行ってしまい、私と藤真先輩は再び二人となる。 「あー、さっきのは同じバスケ部のヤツ」 「でしょうね、あの大きさでバスケしてなかったら天罰下りますよ」 「ははっ、言えてる」 「ていうか先輩、行かなくていいんですか?」 「あーそうだな、タイムリミットか」 さっきの話から察するに、藤真先輩のクラスも模擬店を出しているみたいで、どうやら店番の時間がこれかららしい。ということは、この疑似デートも終了ということだ。 「今日は悪かったな、付き合わせて」 「道案内のお代がかなりぼったくりでしたけど、まあ色々ご馳走なりましたし、許してあげましょう!」 「お前、まあまあいい根性してるよなぁ…」 「いえそれほどでも〜」 「まあでもお陰で楽しかったよ、サンキュな」 ポンと頭に乗せられたその手は、それはもう男らしくガシガシと撫でられた。藤真先輩って顔は結構綺麗で少し中性的なのに、口調とか行動は結構男らしいんだよなぁ…。こういうのがモテるのか。 「じゃあまたな、…って、もう会わないのかもしれないのか」 「うーーん……まあ、もしかしたらまた会うかもですよ?」 私と藤真さんは違う高校で、3年と1年で、確かにもう会うことはないのかもしれない。けれども私は、笑ってそう言った。 「私の学校、湘北高校って言うんです」 「え、湘北って…」 「なので先輩、次会った時は敵ですね。負けませんよ」 コツン…と、藤真先輩の胸に自分の拳を軽くぶつけ、私はニヤリと笑った。 「そりゃ、楽しみだ」 こうして私たちは、お互い背を向けさようならをした。 後日、一本の電話が部屋に鳴り響く。 『ねえ聞いて名前!藤真先輩、彼女いたんだって!もー信じらんない!』 「へ、へぇ……それは、残念だったね…」 この時やっと、私はみっちゃんが言っていた憧れの先輩が藤真先輩のことだという事を、思い出したのだった。 みっちゃんに見られなくてよかったぁああ…!! |