勝つのは湘北



「名前、準備できたかー?」
「あ、うん!今行く!」

 遂に今日は、湘北高校VS翔陽高校の試合の日。
 花道は早々に学校に集まって会場へと向かい、私たち観戦者は少し遅れて会場へと向かう。洋平の原付に乗せてもらって行くことになった私は、身支度を整えて部屋を出た。
 既にアパートの入口に洋平が原付に乗って待っていて、私は急ぎ足で階段を降りていく。そんなに焦んなくても置いていきゃしねーよ、と洋平は静かに笑った。

「ほい、メット」
「ありがとー」

 いつの間にか用意してくれた私専用だというヘルメットをかぶって、私と洋平はいざインターハイ予選会場へと向かった。ちなみに“その他”達は自力で会場へと向かっている。前みたいに皆で原付に乗られて三輪車に越されるようなノロマになられたら困るし。というか、洋平の原付が壊れちゃうから追い払った。

「今日の試合、どうだろうねー?」
「なんかスゲー強ぇとこなんだろ?よくわかんねーけど」
「さすがの湘北も、今日はかなり厳しいかもねー」
「花道の朝の様子どうだったよ?」
「なんかあんまり眠れなかったみたい」
「へー、あの花道が、めずらしーな」

 そう、試合の朝だからいつもより少し多めに朝ごはんを作って花道を起こしに行ったら、それはもう目覚めが悪かった。すごい形相で睨みつけられ、きっと普通の子だったら泣いてたと思うくらい目つきが悪かったのだ。目の下にクマもできていて、眠れなかったの?と聞けば、ずっと今日の試合の作戦を考えていたのだと言い出す。一体どんな作戦なのか…、聞いて呆れそうだけど。

 しばらくのツーリングを楽しんだ私と洋平は、会場へと到着した。入口の方でその他たちと待ち合わせしているので軽く探してみるけど、どうやら私たちの方が先に到着したらしい。しばらくしてガラの悪い歩き方の男3人組がこちらに歩いてくるのが見え、遠くからだがアイツ等だということがすぐ分かった。フォルムが完全に見分けつくくらい特徴あるのよね。
 こうして合流した私たちは、いざ会場の中へと入っていく。中には既に晴子ちゃんたちがいて、こっちこっち!と可愛い笑顔で手招きしてくれた。

「すごい人だね!前の試合と大違い!」
「うん!今日はシード枠の4校が揃ってる試合だからね、見物客が多いのよ」

 なるほど、強者揃いの試合ってわけなのか今日は…。ただ、ひと際凄まじさを見せていたのは、反対側の応援席にいる翔陽高校の生徒たちだった。ベンチ入りできない生徒が大勢いて、皆ペットボトルを応援グッズに大きな声で翔陽の名を叫んでいる。そんな高校と今日戦うというのだから、湘北高校の行く末が不安になった。

「(ていうか藤真先輩、この学校の監督兼選手してるんだよね…?え、凄くない?)」

 私は、先日の翔陽高校の文化祭で出会った藤真先輩のことを思い出した。あの時だって普通に肩書と、知っていた情報だけで十分凄いというのが分かったけれど、実際翔陽高校バスケ部の応援を目の当たりにして実感した。そんな人の彼女に一瞬でもなったとか…いや、これ、死刑レベルでしょ。
 そう思っていたら、会場に歓声が湧き上がった。選手入場だ。まずは湘北高校が入ってきて、先頭にいた花道はなんだかソワソワしているようだった。きっと観客が多いんで活躍の見せ場だとか思っているんだろう…。そしてさっそく花道の姿を捕らえた洋平たちは、すぐに大きな声で「今日は何分持つだろうなぁ!」などと応援者とは思えないヤジを飛ばす。これも何度見たことだろうか…。

「翔陽がきたぞ!!」

 観客の誰かの声で、会場はさらに湧き上がる。優勝候補の翔陽の登場だ。視線をそちらへ向ければ、怖ろしいほどの威圧感で彼らはコートへと入ってきた。その威圧感の正体は、なんといっても彼らの身長にある。ほとんどの人たちが赤木先輩に並びそうな長身ばかりで、彼らを見ると花道や流川くんが小さく見えてしまうほどだ。けれどその中に、一人異様な存在感を放つメンバーがいた。

「(藤真先輩だ…)」

 本当にいた。しかも、チームを仕切っている。本当に監督兼選手なんだ…。それに文化祭で会った時とは雰囲気が全然違って、物凄くクールで落ち着いている。確かにあまりはしゃぐような人ではなかったけれど、あれほどまでに落ち着いた目線で指示をしている姿は、あの時と全然違った。これは……モテますわ。

『それでは、湘北高校対翔陽高校の試合を始めます!』

 試合が始まった。
 湘北高校はまさかの花道をスタメンに入れてきて、花道にとっては初めてのスタメンとなる。安西先生の作戦はどうなっているのか、素人の私にはさっぱり分からない。ただ、花道という存在が湘北高校バスケ部にかかせない存在になっている…それだけは十分理解できた。
 だが、スタートはあまり調子がよくなかった。キャプテンの赤木さんまでも動きがなんだかぎこちなく、点はどんどんと翔陽へと持っていかれてしまう。翔陽高校のスタメンに藤真先輩はおらず、彼はベンチに腕組みをしてじっとその試合を見ていた。対して花形さんは翔陽の応援からは絶大な人気を誇っており、その声援に圧倒されてしまう。
 湘北と翔陽の差は11点にいきなり開いてしまい、このままペースが上がらない状況が続くのかと思った時――、それを変えたのは流川くんだった。
 それをキッカケに湘北メンバーに火が付いたのか、皆はいつもの調子を取り戻して得点を増やしていく。赤木さんのハエ叩き、リョータ先輩の高さをもろともしない電光石火、流川くんの巧みなる動き、そして三井さんのスリーポイントシュート、個々の実力が湘北のメンバーにはある。そして…花道も。

「ついに同点!」
「でももう前半が終わるわ、ここで点を抑えられたらいいんだけど…!」

 晴子ちゃんが言うには、前半のうちに点差が開いてしまうと、後半の試合に多大な負荷をかけることになるらしい。それは選手たちの体力にもあって、精神的にも、点差がないまま始められるのがベストなのだとか。
 でも前半終了のブザーが鳴るのはあと30秒もない。攻めてくる翔陽に必死にディフェンスする湘北だけれど、最後のラスト5秒で花形さんがシュートを決めようとボールを投げた。だがそうはさせまいと赤木さんがジャンプし、ボールにかすかにだが指が当たる。そうなった今、願うのは……

「リバウンド王桜木!!!」

 ブーーーーーー
 まさかの、花道がボールを取った。その瞬間終了のブザーがなり、前半戦は終了となる。花道のあのリバウンドからのキャッチは、チームを勝利へと導く大きな一歩となったのだ。

「名前ちゃん!桜木くんの所行きましょ!」
「え、行っていいの!?」
「ギリギリまでなら行けるわよ!ほら、早く早く!」

 まだ興奮が冷めない晴子ちゃんに強引に腕を引かれ、私たちは観客席を降りて選手のいる控室の近くまで向かう。そして丁度あの赤頭が見えたので、晴子ちゃんは私の手を放して勢いよく花道の方へと駆けて行った。そんな無邪気に花道に笑顔振りまいちゃだめだよ晴子ちゃん、またあのバカ勘違いするんだから。
 続いてついてきた洋平たちも花道に駆け寄っていく後ろ姿を見て、私も後を追う。けれどその時、丁度分かれ道の廊下に、緑と白のユニフォームが見えた。そしてその人には十分見覚えがあり、そんな彼と私の視線がバッチリと合ってしまう。

「あ、お前…」
「どうもー…藤真先輩」

 そう、藤真先輩だった。
 あの試合を見た後だと、なんだか非常に気まずい。確かにまた会うかもしれませんねーなんて軽口叩いていたけど、あの監督の藤真先輩を見てからだと…少し緊張してしまう。

「湘北も、意外とやるじゃないか」
「そ、そうでしょう!湘北だって、負けてませんよっ」
「だが、勝つのは俺たちだ」

 怖い!藤真監督怖い!!
 けれど思ったよりも藤真先輩は涼しい顔をしていて、いかに翔陽という学校が強いのか知らしめられるかのようだった。湘北メンバーとの表情の差を考えると、明らかに翔陽の方が余裕があるように見える。

「ああそうだ、お前のお陰で静かに過ごせたよ。試合にむけて集中できたぜ」
「うわー…、そう言われるとなんか…強力しなければよかった」
「ははっ、まあマジで感謝してる。またなんかあったら頼むわ」
「いやもう絶対やりませんから!」

 つれないこと言うなよ。なんて軽く笑って頭をガシガシとされ、なんだか拍子抜けてしまった。だって、あの文化祭の時の先輩と同じ表情をしている。

「おい名前ー?あ、お前なにしてんだよ、花道もう行っちまったぜ……って、」
「あ、洋平っ…!」
「?」

 なんというタイミングだろうか…。私がちょうど藤真先輩に頭を撫でられている所に、洋平がやってきたのだ。あまりのタイミングの悪さに、私はピキッと石のように固まってしまう。そして、みるみるうちに洋平の顔が不機嫌になっていくのが分かった。

「なに、してんだ…?」
「あーあー…えっと、藤真先輩!勝つのはうちですから!じゃっ!!
「あ、おい苗字っ?」

 そういうことで!!ということで、私は急いで洋平の方へと駆けて行き、そして強引に腕を引いて藤真先輩の前から立ち去って行った。

「お前、また男たぶらかして…しかも今度は翔陽の藤真ってどういうことだよ?」
「た、たぶらかしてないもん!」
「よくゆーぜ」

 ガッと強引に肩を抱かれ、私は洋平に詰め寄られる。洋平のかっこいい顔が近くてドキドキするよ!なんて、今言ってもきっと「ほー」と目を棒にしながら流されてしまうんだろうな。

「こ、この前みっちゃんに翔陽の文化祭チケット貰ってさ、私誘ったでしょ!?」
「あー…そういや、そんなこともあったっけか」
「洋平あの時バイトで来れないって言って、一人で行ったの…そしたら迷子になっちゃって、そこで藤真さんが助けてくれたの!なんもやましいことないって!」
「……なるほどねぇ」

 彼女のフリして手つないでデートしたってことはさすがに言わないでおこうと思った。でもまあ、話すキッカケとかは嘘じゃないし、いいよね!

「でもなぁ…」
「どうしたの?連絡先も別に交換してないし、藤真先輩とはあれきりだよ?」
「まあお前が浮気しねーのは分かってんだよ」
「やだ洋平、私のこと分かってるぅ!」

 そんな風に言われたらドキっとするじゃない!と、もう既にドキドキな私は、どこまでも洋平ラブな女だ。確かに藤真先輩はかなりのイケメンだし監督もやってて好きになるのも分かる…けど、私には洋平以外は好きになる気がまったく起きない。それは洋平も、十分知っていることで…。だとしたら、なにが引っかかるのだろうか?

「去り際になんか睨まれたよーな気がしたんだよなァ…」
「洋平が怖い顔してたからじゃない?」

 洋平みたいな見た目不良があんな不機嫌な顔してれば、そりゃ藤真先輩だって睨みの1つや2つするでしょうよ。なんて言って、とりあえず事は収まった。
 はぁー、良かった。

 さあ、後半戦だ。






 

hanamichi


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