花道のリバウンドは、凄いなんてものでは無かった。 後半戦に入り、花道は次々とリバウンドを取っていく。自分よりも大きな選手たちを相手に、花道は臆することなく取って取って取りまくった。バカの一つ覚え見たいに。…でも、そのバカがこのコート内では脅威となっていた。 そして遂に翔陽へと逆転を期した湘北高校は、ここから一機きに追い上げる…と思ったのだが、あの男がコートへと入ってきた。藤真健司だ。 藤真先輩が入ったことによって翔陽高校はまったく別物のチームへと変わり、点数もあっという間に取り戻されてしまう。そして着々と花道もファウルを取っていき、それはもうすぐでまた退場となりそうなほど。だが今の湘北チームに、花道が欠けてしまうのはかなりの痛手だった。 「花道ー!ゲプッ!がんば…ゲプッ!ボエエエエエ!!」 「ちょっとたかみん黙って!!あと汚い!!!」 観客席で応援する私たちは、今現在このバカたちの応援妨害ともいえる応援に耳を塞いでいた。どうやら向こうに居る翔陽高校の応援団の持っているペットボトル応援グッズを見て、自分たちも持って応援しようと思ったらしい。いつの間にか居なくなっていたチュウが2リットルのペットボトルを持って帰ってきたのだけれど、そのペットボトルにはガッツリとドリンクが入っていた。これじゃあ今日は叩けないねーなんて思っていたら…だ、あろうことかアホ軍団たちはそれを一気飲みし出した。私も洋平も「マジかよ!?」と驚いてその光景を見つめた。特にコーラを担当したたかみんは、それはもう下品すぎるくらいに吹き出していた。やめてこっち飛ばさないで! 「ほら洋平も飲めって!」 「いやー無理だろ…」 「男を見せろ洋平!!」 「そうだそうだー!」 「ちょっと洋平に変なことさせないでよ!」 いつの間にか飲み干した大楠とチュウとたかみんはガシャガシャとペットボトルを打ち付けながら応援を開始していて、残るは洋平のポカリの入ったペットボトルだけだ。3人に飲め飲めと押される洋平に私が止めに入るも、洋平は腹をくくったようにペットボトルのキャップを空けた。 「え、洋平マジで飲むの!?」 「俺の雄姿、しっかり見とけよ名前!」 「いやいやいや私たちが今見なきゃなのは試合だから!」 なんてツッコミを入れている間に、洋平は男気と言わんばかりにグイっとペットボトルを逆さに口へ突っ込んだ。そしてグビグビと飲んでいく洋平を見て、私は「ハァ…これだから男ってヤツは…」と盛大な溜息を吐いた。 私たちがバカ騒ぎしている間に、試合はどこか雲行きが怪しくなってきた。三井さんの疲れが少し目立ってくるようになり、シュートが上手く入らなくなってしまう。そして花道も遂に、4つめのファウルを取ってしまったのだ。次ファウルをとったら……退場。 もうここまでかと思われた湘北だったが、三井さんがスリーポイントシュートを決めた。しかも、1つだけではない。何度も、何度も、ヘロヘロに死にそうになりながらも、三井さんは決して諦めずに限界まで投げ続けた。こんな姿、ついこの間までの彼とは…全然違う。こうして、湘北は再び持ち直したのだった。 だが対称に花道のリバウンドは完全に萎縮してしまい、いつものような強引な飛びはなくなってしまった。次で退場ということがかなり堪えているようで、花道らしくない。 そして最後まで力を振り絞って戦った三井さんが、コートの中から去っていく。彼は十分にチームを救った。称賛の拍手が三井さんを優しく包んだ。 そんな中、なんだか不穏な空気で睨みあう…花道と流川君。 「ふんぬーーー!!!」 ゴンッ その瞬間、花道の声と鈍い打撃音が、会場内に響いた。それは、花道が地面に向かって思い切り頭突きをかました音だ。まさかの花道のわけのわからぬ行動に、会場内は一瞬シーン…と静まり返る。 「あはは、花道ってほんとバカ」 私は笑った。周りからすればまったく意味の分からない花道の奇行も、私にはそれがどういう意味を表すのか、なんとなく分かってしまった。本当に、桜木花道という男はバカで、真っすぐで、不器用なんだろう。そんな彼が、私はどうしようもなく好きだ。そう思った。 「この土壇場で湘北が逆転したぞー!!!」 残り2分を切った。湘北高校はまだ終わっていない。力を取り戻した花道は再びリバウンドへと挑戦し、そのボールを何度もキャッチする。そして流川君が得点をする……この二人のコンビ、中々に強いかもしれない。 「花道にパスが回った!」 花道がカットしたボールが小暮先輩の手に渡り、そして再び花道の手に渡った。けれども花道はほとんどと言っていいほどシュートを決めておらず、アイツにシュートを託すのは些か不安である。それでも花道は必死に走り、そしてそのボールを高く掲げて…… ―――飛んだ。 ドカッ ボールはネットをすり抜け、地面へと落ちて行った。 その瞬間、湧き上がる歓声…叫ばれる花道の名前。けれど次の瞬間ホイッスルが鳴り響き、審判の“チャージング”という言葉で、会場はブーイングの嵐が吹き荒れる。 花道は、退場となった。 この日一番の歓声は、花道へと送られた。 残り1分50秒、なんとしてでも点を取らせてはならない。湘北高校は最後の気力を振り絞って戦い、そして1点も翔陽に譲ることなく……試合は幕を閉じた。 湘北高校の、勝利だ。 試合が終わり、私たちは会場を後にした。 最後の挨拶の時…藤真先輩、泣いていた。だって、先輩にとっては今日が高校最後の試合となったのだから。とても悔しい想いをしただろう。勝つのは湘北ですなんて言っちゃったけど、そんな軽々しく言える言葉では…無かった。今まで触れなかったスポーツという熱い戦いを見せるものに、私はさらにその存在を遠く感じてしまう。 そんな世界に、花道は――…いるのだ。 |