「うわ!!!あぶねーー!!!!」 「へ?」 ドンッ 一瞬で世界が回った。 今日はちょっと電車に乗って品揃えのいいスーパーで買い物をすることに。本当は洋平と一緒にが良かったのだけど、生憎今日もバイトで無理だった。そしてその帰り道に散歩がてら海沿いを歩いていると、さっきの声と共に私の世界は一転した。 「ひゃ!?ちょ、うぇっ!?くすぐったっ!」 わふわふ!ぺろぺろ! 顔一面に広がるけもの臭とふさふさの毛としっとりとした感触が頬をくすぐる。意味がわからなくて混乱していたが、よーく見ればそこには大口を開けて舌を出し、はぁはぁと荒い息を吐く大きな……犬がいた。 「あ!小太郎!!やめろ!!」 そんな声と共に急いでこちらへ走って来た人物は、その犬のリードを取ってぐっと引っ張った。そこから見えたのは、1人の高校生くらいの男の子。肩ギリギリまで伸びた黒髪をかきあげた彼の表情はそれはもう焦っている。小太郎と呼ばれた大きな犬はまだ元気に尻尾を振ってわふわふとしていた。 「悪い!アンタ、大丈夫か!?」 「え、あ……うん、」 「つっても、荷物全部ぶちまけちまったな…」 「へ?……って、あー…」 そう言った彼が申し訳なさそうに私の後ろを見ているので振り返ると、そこには大量に買った荷物が四方八方へと転がっていた。幸い買ったものは日用品ばかりで食材は無く、ダメになってしまったものはない。ただ単に、拾うのがもの凄くめんどくさそう。 「拾うの手伝う!」 「あ、ありがとう…」 ちょっと生意気そうな顔をしているわりには、意外といい人っぽい。犬のリードを近くの街灯に括りつけ、少年は素早い動きで落ちたものを拾っていく。私も同じく屈んで拾い、あっという間に荷物は元通りとなった。 「ほんと悪かった!怪我とかねーよな!?」 「うん、大丈夫、荷物も無事だったし」 「小太郎のやつ、女の子見ると飛びついちまうんだよな…まったく、エロ犬め」 「あはは、そうだったんだ!いいよ、可愛いから許してあげる!」 荷物を拾い、一息吐くといった感じで、私達は近くのベンチに隣同士になって座った。犬の小太郎は相変わらず舌を出してわふわふとしていて、今も少年がずっと抑えている。別に犬は嫌いじゃない、というかむしろ好きな方なので、私は笑って小太郎の頭を撫でてやった。 「てか、こんな大荷物でアンタ大丈夫か?」 「うん、ちょっと重いけどね」 「女の子1人にこんな重いの持たせるわけにはいかねー!俺が持つよ!!」 「え!?い、いいよ…大丈夫だよ?」 「いいや俺が持つ!アンタ名前は!?」 「え、苗字名前…です…」 「名前ちゃん!俺は神奈川1ルーキー清田信長だ!」 この少年はどこかの誰かによく似た雰囲気を持っている。そしてドーンと構えたその立ち姿に、私はポカーンとしてしまった。いや、あまりに自信満々にいうものだから…まず何を言われているのかよくわかってない。とりあえず清田信長くんね、覚えた。 「駅までで大丈夫だからね?」 「駅までってーことは、名前ちゃんここら辺に住んでねーんだ」 「うん、ちなみに湘北高校1年生だよ」 「ナニ!?湘北!?」 「知ってるの?」 両手に下げていた荷物は信長くんの手にいき、私は代わりに小太郎のリードを持つことになった。リードを持つのはちょっと心配だったけど、根は利口な犬だったので普通に横にならんで散歩してくれている。 信長くんに高校のことを話すと、どうやら湘北高校を知っているみたいで、顔が少し険しくなった。なんだろうか、嫌いな人でもいるのだろうか…。 「知ってるもなにも、湘北は次の対戦相手なんだよ!」 「え、対戦相手?柔道かなにか?」 「バスケだよバスケ!神奈川海南大付属!」 「え、じゃあ君が次の…あー、そっかそっか!」 まさかの、バスケ部だった信長くん。ここ最近思うんだけど…私、バスケ部員との偶然の出会い、多くない?最初は流川くんから始まり、リョータ先輩、三井さん…も一応、そして仙道さん、藤真先輩、信長くん……ちょっと逆に怖いんだけど。しかも、今度は決勝リーグの対戦相手である王者海南大付属のバスケ部員だとは。 話を聞けば、信長くんは今年入った1年生でレギュラー入りしている(自称)天才…らしい。インターハイ出場を目指す試合とあって、信長くんは「悪いけど俺らが勝つ!」と言って自信満々なご様子。 「名前ちゃんも試合見に来る!?」 「うん、そのつもりだよ」 「じゃあ俺の活躍!十分に期待しててくれな!!かっかっかっ!」 ああ、すっごい見たことある、この雰囲気。 信長くんは元気いっぱいで自信家で、ちょっと話しただけだけど大体は理解した。これで裏表があると言われたら、人間信じられなくなりそうなくらい素直100%な彼である。騒がしくてうるさいけど、そんな彼が私には妙な安心感があった。 「じゃあ信長くんの活躍、楽しみにしてるね」 「っ!…お、おう!!」 そう言ってにっこり笑うと、信長くんは照れた表情で元気いっぱいにまた返事をした。自分で言ったくせに照れるところが、あの自信家よりも少しうぶで可愛い気がする。 そうこうしている内に、駅へと到着した。信長くんに荷物を受け取り、改札前で私達は向き合う。 「名前ちゃん!」 「は、はいっ」 突然両方を掴まれ、びっくりした私はついかしこまった返事をしてしまう。ガッチリと信長くんと目と目が合い、ジっと見つめられた。 「湘北に勝ったら、俺とデートしてくれ!!」 「ごめんね、私彼氏いるから」 「ズッコーーーン!!」 うん、ごめんね? |