インターハイ出場をかけた県大会決勝リーグへと勝ち進んだ湘北高校は、日々練習に明け暮れていた。もちろん花道も。 つい先日、対戦相手である海南大付属の自称1ルーキー清田信長くんと偶然出会い、何故か気に入られてデートを申し込まれた。もちろん愛するダーリンが居るので断ったけど、信長くんは嫌いじゃないのでお友達に…ということで電話番号を交換。まあ、電話なんてなかなか使うものじゃないんだけどね。 「あ、ミッチー先輩」 「だれがミッチーだ!!って、あ…」 今日も無事学校が終わって、一旦家に帰って洗濯物を取り込んだあと、着替えてスーパーに買い物へと出かけた。花道の食欲は本当に酷く、バスケを始めたことによってもはや人間の域を超えている。なので3日に1回はスーパーに買い物へ行かないといけないのだ。 それなりにのんびりと仕度をして出かけたので、買い物が終わったあとはすっかり暗くなっていた。もうすぐで花道が帰って来るから早く帰ってご飯の準備をしなきゃいけない。そう思って急ぎ足になるも、毎度のことながら荷物が重くて速度は上がらなかった。そんな時、三井さんの後ろ姿を見つけて思わず花道がよく言う呼び方で声をかけてしまった。 「お前、桜木の…」 「いつも花道がお世話になってますー…」 「お、おう…」 正直、三井さんとちゃんと喋るのは、例のあの事件以来だ。私はいつも洋平たちとバスケ部の練習を見ているから身近に感じていたけど、彼からしたらそこまで近しい存在でもないのだと今更ながらに気づく。だから三井さんも、若干気まずそうな反応をしていた。 「部活終わったんですか?」 「ああ、」 「今日もおつかれさまです。もうすぐ試合ですもんね、ゆっくり休んでください、じゃあ…」 「あ、おい待て」 なんか微妙な空気なので、とりあえず普通に先輩と接すように話をして立ち去ろうとしたのだが、まさかの呼び止められた。不思議そうに首をかしげて三井さんを見ると、三井さんはさっきよりも気まずそうに目線をそらして頬をポリっとかいた。 「こんな時間に女1人じゃあぶねーだろ、…送ってやるよ」 「え?」 そんな三井さんの言葉に、私はさらにキョトンとしてしまった。暗くてよく表情は見えないが、たぶん照れたような顔をしている。元々出会いが不良の彼だったため、あの時からと想像すると確かに照れてしまうのも分かるかもしれない。ただ、根は優しい人なんだなと、理解した。 「それも、貸せ」 「あっ…、ありがとうございます!」 そんな三井さんのご好意を無碍にすることなんてできるわけがなく、私は甘えることにした。笑ってお礼を言うと、三井さんは小さく「おう」と返事をして二人歩き出す。 「重かったんで、正直助かりました」 「確かにこれは重めーな、何日分の食料だよ」 「それで3日分ですよ」 「は!?これでか!?お前どんだけ…」 「違います!花道ですよ!!」 若干引いた目で見られたので慌てて訂正すれば、三井さんは一瞬驚いた顔をしてすぐに「あー…」と思い出したかのように声を漏らす。特に説明したわけではないけど、花道と私のことはそれなりに知っていたのか察した表情をした。まあ、普通に隠さないで花道と会話してればすぐにバレることだから。 「よくアイツの世話出来るな…」 「幼馴染なので、もう慣れっこですよ」 意外にも三井先輩との会話はさっきまでの気まずい空気のようになることはなく、弾んでいるとまでは言わないが続いていた。軽くなった手元をブラブラとしてふと横目で三井先輩を見ると、以前の長髪姿を思い出す。そういえばあの時は手を掴まれて、こうやって横に並んでいたっけな…なんて。 「な、なんだよ…」 「短髪の方が似合いますね」 「はっ?」 「私、こっちの方が好きですよ」 「なっ!?」 長髪の印象が強かったので短髪の姿は見慣れなくて思わず凝視していると、その視線に気づかれてしまい、私は素直に思ったことを言った。すると三井さんは何故かすごく驚いた表情をして手で顔を隠してしまう。けれど丁度街灯の下へ来て照らされた三井さんの顔は、とても赤くなっていた。 「…お前、モテんだろ」 「え、私がですか?えーと、それなりに?」 「意外に潔いいな」 「まあ私彼氏いるんで、一瞬で終わりますよ」 「あー、水戸か…お前の彼氏」 「はい!」 “モテる”と言われて、正直ちょっと驚いた。まったくそんな気はしなかった私だけど、思い返してみると、好意を寄せられたことはいくつかあるかもしれない。でもいつも一瞬でバッサリいってるので、まったくそんな気がしていなかった。でもあれってモテるって言うのだろうか…だっていつも出会ってすぐだから。 「別れねーの?」 「は?別れませんよ?何言ってるんですか?」 「おいマジな顔すんなよこえーよ」 だって三井さんが変なこと言うものだから真顔で返しちゃったじゃんね。洋平のこととなると色々と豹変してしまうところがあり、最近ちょっと反省している。でも、絶対、別れない。 「でもよ、彼氏いんのに他の男と二人きりで居ていーわけ?」 「こんなんで私と洋平の仲は終わりませんよー」 「えれー自信だな」 「はい!余裕のよっちゃんです!」 「ふーん」 そう言った三井さんの顔は、どこかつまらなそうだった。 でも話をするにつれ最初よりどことなく打ち解けてきた気がして、私は少し嬉しかった。 「まあ、疑われないにしてもよ、他の男の方は信用していいのか?」 「どういうことですか?三井さんのことは信用してますよ?」 「そーゆーのが、あめーんだよ」 「いたっ」 ピンと、デコピンされた。 三井さんの言っている意味がまったく理解できず、私は首をかしげる。だって、前の三井さんならともかく、今の三井さんは警戒する必要性をまったく感じない。 「あ、ここが家です」 そうこうしている内に、家の前へと到着した。三井さんは立ち止まってそれを見上げると、なんとも言えない表情で、 「………あー…まあ、随分な」 「クッソボロアパートですよ」 「お、おう」 そっか、気まずかったのか。私からしたら長年ずっと住んでるアパートなので気にしていなかったけど、他人から見たらこんなボロアパートに住んでる女の子っていうのは、気を遣うのかもしれない。 「花道の部屋は外観に負けず酷いですけど、私の部屋は綺麗ですよ」 「へー…」 「上がって行きます?」 「は?いや…お前、さっきの話聞いてたか?」 「三井さんはいい人」 「………」 ニッコリ笑って言うと、三井さんは口をぎゅっと紡いで静かに私を見下ろした。そしてポンと私の頭に手を乗せて口を開く。 「また今度な、今日は帰るわ」 「お疲れですもんね」 「そーだな」 「ありがとうございます、今度なんかお礼させてくださいね」 「別にいいんだけどな……あーまあ、なんかうまい差し入れでもくれ」 「はい!まかせてください!」 グシャグシャと撫でられ、三井さんから荷物を受け取った私は彼へと背を向けた。もう家の目の前なのだから見送りだけでも、と言ったのだが、三井さんは私が部屋に入るまで動かないというので渋々背を向ける。 「名前!」 丁度ドアに鍵を差し込んだ時、三井さんが私の名を呼んだ。突然の名前を呼ばれて少しだけ驚いたけど、よく考えれば三井さんは私の苗字を知らないのだと思う。花道もみんなも、名前で呼んでいたから。 「あのよ、あの時は…悪かったな!」 “あの時” それは、“あの時”のことなのだろうか。ちょっと照れくさそうに言う三井さんに、私は口元が緩んでいくのが分かった。彼みたいな人は、きっと謝るということが苦手な人だろう。そんな人がこうやって言ってくれている。私はただ単純に、嬉しかった。 「わたし、三井さん好きですよ!」 |