遂に、決勝リーグ海南大付属との試合が始まる。 私は洋平とその他たちと一緒に会場へと行き、彼らのガラの悪さを利用して最前列の席を確保。しばらくして晴子ちゃんたちも到着し、いつもの3人は私の隣へと座った。右隣はもちろん洋平。今までの試合よりもやたらと活気のある会場に、それだけこの試合が注目されているのだと分かる。海南は常勝ということもあって注目の理由は分かるが、湘北もここ最近の試合は目立っていて負けじと注目を浴びていた。 「私ちょっとお手洗い行ってくるね!」 「おう、いってら」 試合が始まる前にと、私はそう言って席を立った。前も来た会場だからトイレの場所は把握している…と思って向かったのだが、そこには目眩がするほどの長蛇の列。今日の観客は今までの倍以上ということもあってか、トイレも大人気だった。こんなのに並んでいたら試合が開始してしまう…それはちょっと避けたい。私は仕方なく、ほかの空いているトイレを探すため旅に出るのだった。 「あれ、やばい…ここどこだろう」 完璧に迷った。県の代表を決める試合とあって、会場は広くて初心者には優しくない。なんとかトイレは見つけられて用は済ませたのだけど、戻り方が分からなくなってしまった。誰か居ればいいのだが、何故か周りには人っ子一人いなくて、さっきまでいたあの観客は一体いずこへ。 「あれ!名前ちゃん!?」 「えっ?」 突然名前を呼ばれてビクリと肩が反応する。振り返ってみると、そこにはつい最近出会ったばかりの清田信長くんがいた。 「信長くんたすけて!」 「え!?ええ!?名前ちゃん!?」 シンと静まり返った薄暗い長い廊下に立ち尽くしていた私は、やっと人に出会えたことで嬉しくなって思わず信長くんに駆け寄って手を掴んだ。信長くんはすごく驚いていて手が若干震えている。 「ノブ…彼女いたのか?」 「え!?じ、神さん!?いやちがっ…!」 そんな信長くんの後ろからひょこっと顔を出したのは、大人しそうな顔をした黒髪短髪の男性だった。きっと信長くんのチームメンバーなのだろう。信長くんがさん付けで呼んでいるから先輩かな? 「それより名前ちゃん、なんでこんなとこに居んの!?」 「そう!そうなの!トイレ探してたら道に迷っちゃってね!たすけて欲しいの!」 「え?」 「ぷっ…クク…」 え!笑われた!!!失礼!! 「君、凄いね…ここは関係者以外立ち入り禁止なのに迷い込むなんて…」 え、一般人禁止なの?じゃあ私どうやって入ってきたの?自分の行動の不思議に頭を抱えていると、神さんと呼ばれた彼はさらに吹き出して笑った。恥ずかしいので笑わないでください。 「いいよ、俺が案内してあげる」 ポンと頭に手を乗せられてそう言われた。失礼な人だと思ったけど、その表情はまるでお兄ちゃんのように優しくて、意外にいい人なのかもしれない。 「君はー…名前ちゃん?俺は神宗一郎だよ」 「神さん!ありがとうございます!」 お兄ちゃんがいたらこんな感じかなーなんて思いながら、私は神さんの後をついていく。その後ろで「ああ!俺も行く!!」と信長くんの声が聞こえてパタパタと犬のようにかけてきた。 「…苗字?」 「え?…あ、流川くん!」 「なに!ルカワ!?」 神さんに案内されて歩いていると、正面の方から流川くんが歩いて来るのが見えた。関係者以外立ち入り禁止区域に居ることもあってか、流川くんは普通に驚いている。いつもの細い目が少しだけ開いている気がした。 「…………」 「あ、あのね、なんか道に迷っちゃって、いま神さんと信長くんに案内してもらってるの」 「じん……のぶなが……」 無言で訴えてくるものだから、とりあえず今の状況を説明すると、流川くんは親しく呼ぶその名前に今度は疑問を抱いているようだった。ああえっと、説明がめんどくさい。 「とりあえず私行くね、試合がんばってね!」 「…待て、」 もうここはこのまま去るが一番だ。そう思って流川くんに手を振って通り過ぎようとしたら、すれ違い様に手を掴まれた。進んでいた足は止まり、私は手を掴んでいる流川くんを見上げる。 「俺が、連れてく」 「え?」 「なっ!!」 驚いた。あのめんどくさがり屋な流川くんがそんなこと言うだなんて。だけど私よりも驚いている人物が、なぜかすぐそこに居た。 「流川てめェ…ッ!!ハッ!!もしかして名前ちゃんの彼氏って、お前か!!!」 「ええ!?」 怒りが爆発したように荒げた声をあげる信長くんの発言に、私は思い切り声を上げて驚いた。いや、え、ええ!?なんでそうなった!? 「許さねぇ!顔がちょーーっと良くてバスケがちょーーっと上手いからって!!ナメてんじゃねーぞ!!」 「信長くん!?いや!えっ、いやちょっとまって!!」 「………」 「いや流川くんも否定してよ!!」 信長くんの意味の分からない勘違い発言にまったく動じず否定しない流川くんに、焦るのはただ私だけ。神さんはいつの間にか離れてこっち見てるし。いやたすけてくださいよ。 「うるせぇ…、おい行くぞ」 「あ、ちょ、流川くん…!?」 「オイ流川テメー待ちやがれコノー!!」 何事もなかったかのように、というか逆に気にしなさすぎて怖い。流川くんは私の手を引いて、そのままスタスタと歩いて行った。私は振り向いてペコリと頭を下げると、信長くんはまだぷんすかと怒っていたが、神さんはにっこり手を振ってくれた。 「ね、ねえ流川くん…信長くん私達が付き合ってるって勘違いしたままだよ?いいの?」 「………」 「訂正しないと流川くんに迷惑かかっちゃうよ…」 「……別に」 「え?」 「…別に、いい」 え!よくないよ!? |