試合が始まった。 流川くんの案内によってなんとか席に戻ることのできた私は、無事試合開始に間に合った。ギリギリに戻ってきた私になんかあったのか?と洋平に尋ねられ、私は先ほどの出来事を掻い摘んで説明する。と、洋平はなんともいえない表情をして見せた。 ――視線をコートへと向けると、試合前だというのに花道と信長くんがなぜか喧嘩になっていてハラハラする。同族嫌悪ってやつかな。 試合開始のブザーが鳴り、会場の客は圧倒された。どう見ても、高校生同士の試合とは思えないほどの迫力だからだ。私はバスケのことはよくわからないけど、バスケを初めて3ヶ月であの場に立っている花道を、心底凄いと思った。 花道は昔から奇想天外支離滅裂な問題児で、ある意味凄かったのだけど、こうして世間から認められる場所でその才能を発揮する彼に……私は、胸が締め付けられた。 「名前?どーかしたか?」 「………」 「…?名前?」 「えっ?あ、うん、すごいなーって見てただけだよ!」 「…そっか」 あれ、私そんなに気にされるほどの表情してたかな。不思議そうに私を見つめる洋平に、慌てていつものように顔を明るくさせた。どうかした、なんて言われても、私だってこの今の気持ちに説明ができない。私は再び応援に力を込めた。 前半戦の中盤に差し掛かった頃、赤木さんが足のダメージで交代となってしまった。大きな大黒柱の抜けた湘北を、誰もが“もう終わりだ”と思う。けれどもそんな状況で花道は、必死にコートで暴れた。 その後の花道の活躍で湘北の空気が変わり、次に流川くんが前へと出る。流川くんの活躍は信じられないほどで、彼一人が独走して点を海南に追いつかせてしまった。後ろで聞こえる流川ファンの声が、それはもう響く響く。 「私、飲み物買ってこようかな…」 「じゃあ俺も行く」 「おれコーラ!」 「ファンタ!」 「ポカリ!」 「へいへい」 前半戦が終わって選手は一旦控え室に戻る。私たちもしばしの休憩ということで、席から立ち上がって財布を手に持った。洋平も同じく立ち上がると、いつものおバカトリオが意気揚々と飲みたいものを伝えてきて、洋平は流すように笑って返事をする。ちょっと、今回ばかりは一人で行きたかったかな…なんて思うけど、そんなの言うわけない。 「寂しいか?」 「へっ?」 「花道のこと」 「え……」 二人で自動販売機の方へと歩いていると、ふと隣にいた洋平が突然前触れもなくそう言った。あまりに自分を突いてくるその台詞に、私はただ驚いて目を見開く。少し視線の高い洋平を見上げると、洋平こそなんだか寂しそうな表情で私を見ている。 「なんで…?」 「顔に書いてる」 「うそ!私そんな…」 「俺には分かる」 ハっと顔を両手で隠すけど、きっとなんの意味もない。本当に水戸洋平という男は察しがよく、気遣いができ、優しくてカッコよくて強くて私の事をいつも……って、ああ逸れてきた。とにかく洋平のその洞察力に、私は彼にはなにも誤魔化せないのだなと思った。だって私、そんなに分かりやすいタイプではないはずなのだけど。 「私、自分がこんなに卑しいなんて思わなかった……、ずっとそこにいるのが当たり前で、私のこと名前!名前!って呼んで、バカみたいに笑ってるのが…毎日続くとか、勝手に思ってた。はぁ……嬉しいことなに、凄いことなのに、なんでこんなに胸が苦しいんだろう……いつか、なくなるっていうのが、見えちゃったから…かな」 いつの間にか、私は口に縫い付けられた糸が解けるように、沢山の言葉を吐き出していた。言葉にすればするほど、自分のモヤモヤとしていた感情がハッキリと、鮮明に現れていくようで、どんどんと心が沈んでいく。洋平はただ、黙って聞いてくれていた。 「アイツはお前を置いてどっかに行ったりしねぇよ。確かに永遠なんてのは無理かもしれねぇ……けど、お前のことは、絶対に置いていったりしねぇ」 「……洋平、」 その言葉に、私はキュっと下唇を噛んで溢れるなにかを必死で止めた。こんなところで、こんな時になにバカなことを考えているんだろう。いま、コートの中では、アイツが必死に頑張っているというのに…。 優しく撫でられた頭は、私の全てを癒してくれるようだった。 「あーあ、名前ちゃんはひでーよな、こんなにイイ男が横にいるってのによォ。花道に妬けるぜ」 「なに言ってるの?洋平に限っては、蚊だって近づくの許さないんだからね?」 「ハハ、そりゃ安心した」 当たり前だよ。 洋平に関してはもう別枠。花道とは次元が違う。そうまた付け加えて言うと、洋平は嬉しそうに頬を緩めて笑った。普通ならこんなの引かれてしまうかもしれない。でも洋平は、そんな私の汚い独占欲を、嬉しそうに笑ってくれる。 「今日帰ったらぎゅーってしてもいい?」 「バカ言え、俺がする」 わたしたち相当、バカだよね。 |