不意打ちはズルイ



 湘北高校は、負けた。
 熱戦の中、最後に回った湘北逆転のチャンスだったのだが、それは花道のパスミスによって全ての幕が閉じた。湧き上がる海南勝利の歓声の中で、花道は静かに涙を流した。
 だが、これで終わりではない、決勝リーグはまだ始まったばかりなのだから。けれどもこの戦いは、花道の中で大きな影響を与えただろう。

「ごちそうさま」
「え!もう終わり!?」

 その日の夜、もちろん私達は家に帰って普段の生活を送る。酷くショボくれた花道と一緒に帰宅し、さっそく夕飯の準備をした。今日は試合だったから沢山食べるだろうと思って食材を買い込んでいたので、それはもう沢山作ったのだが……花道はいつもの半分で箸を止めた。

「食欲ない…」
「花道からそんな言葉が出るなんて!!明日世界滅亡だよ!」
「お前なぁ…」

 いつもは5合は食べるお米も、今日は3合で終了。あとのお米はとりあえずおにぎりにでもして明日使おう、なんてもう次のことを考える私の脳内は完全に主婦。
 花道は相当ショックだったみたいだ。そりゃまあ、あんな大舞台であんな終わり方を自分でしてしまえば、そう思うのも仕方がない。案外マニュアル通りな考えをする花道に、私は思わず笑ってしまった。

「名前おまえ!笑うんじゃねえ!俺がどんな気持ちで…ッ!」
「今日の花道は、誰よりも凄いと思ったよ」
「なんだ!それは最後のことか!」
「バーカ」

 頭をペシっと叩いてやれば、ヌッ!?なんて言ってプンスカ怒っていて、やっぱり理解していない。花道は自分のこと天才っていうわりに、その才能をよくわかってない。ほんと、面白い。

「花道はずっとそのままでいてね!」
「ムキーーー!!そりゃどういう意味だコラー!名前テメーちょっとこっち来い!」
「キャーー!」

 私達は狭い部屋でトタバタと暴れた。
 変わらない花道を見て、心底心配して不安になっていた今日の私がバカのように思える。変わらない。花道は、ずっと変わらないまま、前に進んでいくんだ。



▼△▼




 次の日、花道は学校を休んだ。
 なにせかなりのショックだったから。私といえば、そんな花道のケアをすることなく、私は慰めのつもりで言った言葉は追い打ちという効果しか発揮しなかった。バカな花道のためにわかりやすく言ってあげることもできたが、そんなことはしない。落ち込むのもまた大事!ということで、家を出てこない花道を放っておいて私は学校へと行った。

「花道は休みか?」
「さあねー、起こしても起きないから放っておいた!」
「そっか、ショックで寝込んじまってんのかなぁ」
「そーかもねー」
「慰めてやんなかったんだ?」
「まあ、可愛い子には旅をさせよってやつかな」
「ちょっと意味ちげぇな」

 洋平もやっぱり気にしていたみたいで、朝会ってすぐに尋ねてきた。でも洋平も私と同じで、心配しているというよりは子を見守る親のような感じだ。お互い、花道大好きは変わらないのね。
 その後はいつも通り授業を受けて学生らしく過ごすのだが、隣の席の流川くんはそれはもういつも以上に爆睡だった。ああもうヨダレたれまくってるよ汚いなぁ。

「え、今日もバイト?」
「おう、わりーな」
「働くことはいいことだけど、ここ最近詰め込み過ぎてない?花道の応援だって欠かさず行ってるし…休めてる?ちゃんと、」
「お前はいい女だなほんと…、さんきゅな、心配してくれて」

 放課後になって洋平に会いに行けば、今日もバイトだからと帰る仕度をしていた。ここ最近バイトを詰めすぎているような気がして、思い出してみればあまり遊んだりできていない。普通なら、もう!バイトと私どっちがだいじなの!?ってキレてるところなのだろうけど、働く気のある若者を止める権利など私にはないと思っている。確かに寂しいし、行かないで…とか思ったりするけど、そんなの言うわけない。洋平を困らせることは言いたくない。

「今は詰め込んでるけど、あともうちょいしたら減るから、な?そん時にでも遊びにいこーぜ」
「うん、大丈夫だよ、体調崩さないようにね、無理しないで…」

 寂しさもあるけど、それよりも私は洋平の体が心配。無理に頑張って体調崩したりしないといいけど。
 ギリギリまで一緒にいたいから、私は洋平の原付のある駐輪所までついていくことにした。駐輪所は校舎裏にあって、原付などは一番端っこに設置されている。そのため、自転車のある駐輪所よりは少し人が少なくなっていた。

「名前、ちょっとこっち」
「ん?なになに?」

 洋平の原付のところまで行くと、洋平が駐輪所の屋根の角になっているところに私を手招きして呼んだ。洋平に、おいで、と手招きされれば行かないわけがない。ホイホイと近寄る私の手を引き、洋平はその角に埋めるように私を追いやって目の前に覆いかぶさった。私は、完全に包囲されている。

「洋平?」
「しっ、黙って」

 上にある洋平の顔を見上げれば、洋平はそう言って静かに顔を落とした。いつの間にか洋平の右手は私の下顎を抑えていて、深く何度も唇を落とした。夜のベッドの上でするような激しすぎるものではなかったけど、柔らかく舌を絡めた優しい口づけだった。その背景では野球部やサッカー部の走り回る音や、別れの挨拶をする生徒たちの声、けれども次第にそれはなにも聞こえなくなって、私と洋平の世界になってしまう。口が離れた時には、もう私はポーっと半分とろけていた。

「んじゃ、行ってくっから」

 私の頭をポンと撫で、彼は原付にまたがって行ってしまった。私はただ惚けた顔で手を振るばかりである。やめて、不意打ちやめて、心臓壊れる、なくなる、ほんと、

「心臓に悪い…」

 顔は真っ赤っか。






 

hanamichi


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