隣の席の流川くん



「ハルコさん!!!なんて可愛いんだ!!!」

 花道に春が訪れた。
 高校生活が始まって数日、お互いのことを徐々に知ってくる頃合い。私に彼氏が居るということもさっそく知れ渡ったので、女子達の恋愛沙汰には巻き込まれずに逆に恋愛マスター的扱いをされて相談相手になったりするポジションをゲット。ただ、洋平たちはどこからどう見ても不良の類なので最初は少し警戒されていた。そこは私の庶民的な愛嬌でカバー。
 そんな不良の中のバカの中の不良でバカな男、桜木花道が恋をした。
中学最後に――「私、バスケット部の小田君が好きなの」とフラれて以降の花道の気は落ちる一方で、それは高校に入ってからも同じだった。それと同時に“バスケット”という単語を聞くと酷く荒れていたのだが、その新たな恋のキッカケになったのは――「バスケットはお好きですか?」という台詞からだったそうな。なんとも皮肉な。
 そんな桜木花道へと春の風を呼んだその相手は、1年1組の赤木晴子という女の子。

「わ!!血まみれオバケ!!!」
「?」

 放課後になって洋平に会いに行こうと7組へ行ったのだが、どうも洋平だけでなく花道たちも見つからない。目立つ集団だからすぐ見つかるはずなのだが、一体どこをほっつき歩いているのだか…。念のため屋上も見てこようとその道のりを歩いていると、角を曲がった時に大きな壁にぶつかった。そしてその壁はよろよろとフラついて、見上げるとそこには頭から血を流している一人の男子生徒。

「って、流川くん?」
「………」

 一瞬血まみれオバケかと思ったが、よく見るとその整った顔は流川楓だ。どうしてこんなに血まみれなのかと不思議に思ったが、今はそれどころではない。どう見ても重症患者だ。けれど流川くんは私を見下ろして何も言わず黙ったままで、唖然と見上げていると……その体がフラっとこっちに倒れ掛かってきた。

「ちょ、ちょ、え!?」
「……眠い」
「ちょ、今寝たらだめ!!多分一生目覚ませなくなるよ!!!」

 この出血量じゃ頭に血が回らなくて意識が薄れるのも仕方がない。倒れ掛かってきた体を必死に受け止めて、私は保健室へと急いだ。幸い意識は完全にプッツンしていないので流川くんもなんとか足を動かしてくれる。こんな血まみれ大男抱えて歩いてたらかなり注目浴びそうだったけど、ここから保健室まではそう遠くなかったし人も居なかったのでなんとか注目度は抑えられた。

「せんせー重症患者!」

 ガラッ
 保健室のドアを開けてそう言えば、返事はまったくのNOで無音だけが返ってきた。教室のドアをよく見ると『先生不在。何かあったら勝手に使ってね』なんて無責任な張り紙があり、私はハァとため息を吐いて流川くん共々保健室へ入った。その時に流川くんの身長があまりにも高くてゴンとドアの淵に頭をぶつけていたが、もうどっちも同じなので気にしない。「オイ…」なんて言葉聞こえたけど、気にしない気にしない。

「あーあー結構やられたね、前髪上げるよ」
「………」

 片方の手で彼の前髪をサっと上げると、かなり目つきの悪い細い目がハッキリとこちらを見つめていた。流川くんは相変わらず黙っていて抵抗する気もないらしいので、私は保健室を物色して止血に必要なものをテキパキと揃える。再び彼のもとへ戻ると、清潔な水と手ぬぐいのような生地のもので血を拭き、ガーゼを傷口に宛てがう。幸いもう血はそこまで出ていないみたいで傷口を抑えて包帯を巻いた。

「はい応急処置出来た!念のため病院にも行ったほうがいいよ」
「……慣れてるな」

 流川くんという青年は本当に無口だ。
 数日隣の席で見てて思ったけど、ほぼ寝てるとこしか見たことない。女の子に話しかけられても無視だし、自分のやりたいこと以外はやる気がなくてめんどくさがっているように見える。きっと中学の時からモテまくりで女の子にキャーキャー言われて、何か一言でも発すれば周りが騒いでいたのだろう。そういったことがめんどうで無視するのが一番だと思うようになったのではないだろうか。私の推理だと、ね。
 だから今、彼に普通に話しかけられて少しびっくりしている。

「あーうん、友達がよく怪我するから必然的にね」
「………」

 自分で聞いたくせに無視かい。とは思ったけど、これだけ血を流していたのだから早めに休んでもらおう。

「帰れる?ここで休んでいく?」
「…帰る」
「そっか、じゃあ気をつけてね」
「……うす」

 応急処置はできたのだからこれ以上一緒に居る必要もなく、私はそのまま背を向けて保健室から出ていこうとした。と、その前に…

「あ、流川くん多分覚えてないと思うけど、私隣の席の苗字名前っていうの、よろしくね」
「……流川楓」
「うん、知ってる!」

半笑いで私は答えた。






 

hanamichi


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