王様だーれだ


「お願い!」

 ますますバスケットに打ち込むようになった花道は、前よりも一緒に居られる時間が少なくなった。
 家に帰ってきてもご飯を大量にお腹にかきこんであとはもう電池切れのように爆睡。洋平はバイトが忙しいのか中々一緒に居る時間が取れず、デートなんて最近じゃまったくできてない。私の生活はほとんどがアイツ等と一緒だったから、遊びたい盛りの女子高生な私からしたら、暇で仕方なかった。私もやっぱりバイトかなにか始めようかなーなんて、パラパラと求人広告を眺めていた時、クラスの女の子が話しかけてきた。

「え、合コン?」

 合同コンパ。
 見知らぬ男女が親睦を深めるために行う飲み会。――そんな私とは縁遠い会に、今まさに縁が近寄ってきている。目の前で手を合わされてまるでお地蔵さんかなにかだ。数人の仲良くしている女の子にいきなり誘われ、私はキョトンとした。当然だ、だって私は――

「彼氏いるんだけど…」
「知ってる!ラブラブなのも知ってる!」

 じゃあなぜ誘うんだ。そうだよ、私には生涯ただひとりの愛する人と思えるほどのマイダーリンが居るんだよ。もう、ミジンコぐらいにも興味がないそのお誘いに、物凄く眉を寄せた。

「ひとり行けなくなっちゃったの!他に誘える人もいなくて…ねえ名前お願い!今日の放課後来て!」
「え、今日!?」
「そうなの!結構頑張って取り付けたやつだから場の空気壊したくなくて…ねえ一生のお願い!」
「えー…」

 なるほど、いわゆるドタキャンってやつね。そういうことなら私を誘った理由は分かった。しかも結構気合入ってるみたいで、今回の会はなしにしたくないらしい。

「ちなみに名前は今回タダでいいよ!」
「え!まじ!行く!」

 タダと聞いて節約する主婦魂が…。すっごい軽いノリでOKしてしまった。女子たちは物凄く喜んでいて、逆に彼氏のいる私が参加することで敵がひとり減るとでも思っているのだろう。女の子って怖い。
 まあいいよ、友達だから協力しましょう。それに、最近ちょっと暇だったし、普通に遊ぶ分にはいいかもしれない。

「じゃあ、18時に駅前集合ね!」

 なんて完全に約束してしまった私は、自分の席に座ってフゥと静かに息を漏らした。
 さて、今の私はとある選択を迫られている。それはもちろん…“彼氏に合コンへ行くことを報告すべきか、否か”――だ。別にやましいことが無いのであれば言うべきだろう。そしてもちろんやましいことなどない。それに洋平だって、私がそんな気全くないってわかっているだろうから普通に行くことをOKしてくれるだろう。だって洋平は誰よりも大人で、カッコよくて優しくて強くてカッコよくて…ああまた反れた。

「とりあえず言っておこう」

 うん、とりあえず言おう。大事、それ大事。


▼△



 こうしてあっという間に放課後となり、私は洋平のクラスへと向かった。休み時間に言うもなにも、誘われたのは最後の授業前の休み時間だったから言う場はもうここしかない。
 ということでカバンを持って洋平のクラスへ行ったのだが…洋平は居なかった。洋平たちのクラスは早めにHRが終わったみたいで、もう教室には生徒がちらほらと数名しかいない。私が教室のドアでぼーっと立っていると、たかみん達が声をかけてきて「洋平ならバイトだから先帰るって、名前ちゃんに伝えてくれって」と言われた。
 ああ、そうか、今日もバイトかー、なら仕方ないか。ということで、私は普通に家へと帰った。

「名前ー!こっちこっち!」

 制服から私服に着替えてそれなりにお化粧もしてお出かけの準備はばっちりです。駅前に行けば、既に数名の女子たちがきゃっきゃとそれはもう可愛らしくおめかしして集まっていた。まあ私もしばらく遊んでなくて着れていなかったお気に入りのワンピースとか引っ張り出してきましたよ。だってここ最近はこんな服着るイベントもなかったしね。
 こうして女子たちに言われるがままついて行くと、定番というかなんというか、そこはカラオケボックス。まあ、高校生の行ける場所なんてそんなもんよね。そしてそこに居たのは、これまた遊びそうな男子高校生たちだった。

「じゃあまず自己紹介からいこ!」

 テンション高く相手側の男子たちにそう言われて、私達は順番に自己紹介をした。まあさすがにここでは彼氏いるってことは公言せず、当たり障りのない普通の女子高生なことをいう。本当は言いたいけど彼氏持ちが合コン来てる…なんて場が白けてしまうからここはグっと我慢。

「名前ちゃんって、可愛いよね」
「あはは、ありがとうございます…」
「いやいや本当だって!ちょう俺の好み!」

 私の正面にいる彼は、確か高校3年生の先輩っぽい。ここに居る男子メンツは学年がバラバラみたいで、1年生はひとりだけしか居なかった気がする。女子高生は年上好みっていう男子の年齢チョイスも、さすがですね友人A子ちゃん。
 そんな目の前の彼、えーと…上田?中田?下田?さんは、突然そんなことを言ってきた。こういうのは笑って過ごそうかと思ったのだけど、案外向こうが本気だったので私は少し驚く。どうしよう、久々に正面切って口説かれてる。

「てか名前ちゃんモテそうだよね、彼氏いないんでしょ?意外だなー」

 いますよ、意外でもなんでもなく。
 でもそんなこと言えないので、「先輩こそモテそうじゃないですか、彼女いないんですか?」なんて言ってやれば、ちょっとご機嫌そうにしたあと、彼は「俺はこの前別れたばっか!今はフリー!」と言った。
 いつもなら好意を寄せてくれても「彼氏いるんで!」という魔法の言葉で一瞬で終わったのだけど、今回はそれが使えない。うーん、まあ、好かれていることは嫌悪することでもないので、とりあえずこれは乗り切ろう。そもそも彼氏いる私が合コンに来ているのが悪い。

「じゃあここで、王様ゲーム!」

 ひゅーひゅー!いえーい!なんて、その一言で場がドっと盛り上がった。だけど私はそれを聞いた瞬間、それはもうぱっくりと口を開いて、え??という顔をする。ちょっとまって、それ聞いてないやつ。
 なんていう私の焦りは誰も気にもとめず、いつから仕込んでいたのか王様ゲーム定番の数字が書かれた割り箸が飛び出してきた。まあ、所詮高校生のするゲームだし、そんな酷いものはないでしょう。
 全員に割り箸が行き渡り、「王様だーれだ!」なんていうお決まりの掛け声で一番奥に居たテンションの高い男子が「はーい!おれー!」なんて手を上げて主張する。あ、なんか変なこと言いそうだなコイツ。

「じゃあ2番と5番がチューね!」

えー!いきなりかよー!まじでー!なんて大盛り上がりするボックス内。でも皆の表情は本気で嫌がっているというよりは全然楽しそうである。でも私は、顔からサーっと血の気が引いていた。だって、手元にある私の番号は…

「え!名前ちゃん5番!?まじ?俺、2番なんだけど」
「え…」

 ひゅー!ひゅー!なんて、ほんと高校生どもめ、遊人どもめ!私は自分の番号を酷く恨んだ。しかも相手はさっきから私を口説いてくる上田か中田か下田かよく分からない3年の先輩だ。さすがにこれは、あまりいい展開ではない気がするんですが…。
 チラリと横目で女子たちを見ても、手を合わせてごめんね!というポーズをするだけ。いやいやちょっと、私彼氏いるんですけど!洋平以外の男とキス?ちょっとちょっと、それってさ、それって世間に言う浮…

「ン"ッ"」

 うおーー!先輩ダイターン!!!
 キャーなんていう悲鳴か歓声かよくわからない声がボックス内に響き、私は騒然としていた。え、いきなりすぎじゃないですか先輩…?私まだOKも何も言ってませんが……。うばっちゃったーじゃないですよ、テヘペロみたいな顔されても全然可愛くないですよ。
 キスは、あっという間に奪われた。

「えぇーー…」






 

hanamichi


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