男女の壁が憎い



 安西先生が倒れたと聞いた。
 その時居合わせた花道の的確な行動のお陰で、最悪の結果は免れたらしい。それを聞いた皆は驚いていたけど、私はその理由を知っているので少し胸が痛くなった。
 ――中学の時、喧嘩に明け暮れていた花道には沢山の敵がいた。ある日の喧嘩帰りに家に帰ると、花道の父親が玄関先で倒れていた。病院は近いからと急いで家を駆け出した花道だったが、例の喧嘩した相手が大人数を引き連れて花道を攻撃する。刻々と時間は過ぎて行き、あの時の花道は、本当に…本当に辛かったと思う。あの時があってこそ、今回の安西先生が倒れた時は必死に頑張ったんだろう。
 その日の花道は少し、元気がなかった。

「ほいっ」
「え?」
「行くよ、花道」
「ハ?」

 二人分のカバンを花道の手に乗せ、私は玄関のドアを開けた。ポカンとする花道に、「早くしなさいよ」というと、頭からハテナを飛ばしながら後ろをついてくる。家を出てよく通る道を歩いていても、花道はまだ首をかしげていた。それでも私の後ろをしっかり歩く花道に、笑うしかない。

「はいとーちゃく」
「あ!!」

 到着してやっと理解できた花道は、大口を開けてその大きな天にまでの登る煙突を見上げた。そう、ここは昔からよく通っている銭湯だ。

「明日試合なんでしょ?大きいお風呂入って疲れ吹っ飛ばさなきゃね」
「名前、お前…」
「おーーい!名前ちゃーん!花道ーー!」
「ヌ?」

 なんだか言いたげな花道の背後から、元気な男どもの声が聞こえてくる。私たちの名前を呼んだのは金髪頭が目立つ大楠。手を大きく上げてこちらへ歩いてきた。大楠と一緒にチュウとたかみん、そして洋平も居る。

「おめーら、何しにきたんだ!?」
「何しにって、風呂入りに来たんだよ!」

 そう、せっかくだしと、私はいつもの皆に電話して誘っておいたのだ。なんだかんだ花道がいつも気兼ねなく笑ってつるめるのって、コイツらだから。

「いやー名前ちゃんに風呂誘われた時にゃあ驚いたぜ、そしたらバカ道のお守りかよ!ってな」
「当たり前じゃない何言ってんの大楠」

 バカじゃないのって言って自慢のリーゼントをぐしゃぐしゃにしてやった。怒ってたけど、どうせ今から崩れるんだからいいじゃない。

「じゃ、花道のことよろしく〜」
「「「「おう!」」」」
「おうってなんだよオウ!」

 こうして、番台で私達は別れた。
 本当は私も一緒に〜ってなりたいところだけど、男女の壁っていうのはやっぱり厚い。こういう時だけ、男じゃない自分が悲しくなる。
 結構昔ながらの銭湯だから、男女の仕切りは本当に壁しかなく、彼らのわいわいする声は脱衣所から筒抜けだった。とりあえず、裸になる場所とあって下品な言葉が飛び交っている。

「アンタ達くだらないこと言ってないでさっさと風呂入りなさいよ!!」
「名前ちゃんはどこまで脱いだのかなーー??」
「もうスッポンポンで今から入るとこ!!」
「ひゅーーーう!」

 ひゅーう!じゃねーよ。まだまだ青い男子高校生に、私はタオル一枚持ってさっさと風呂へのドアをくぐった。その時に向こう側の壁から「バカかお前ら、さっさと行くぞ」なんて言う冷静で大人な洋平の声が聞こえて、洋平はもう裸かな!きゃッ!というアイツらに何も言えない自分がいた。

「うお!相変わらずチ●コでけーな!!花道!」
「よ!デカチン!!」
「ヌハハハハハハ!」

アイツ等と銭湯行くのもうやめよう。
連れてきても花道と洋平だけにしよう。


▼△



 すっかりひとっ風呂浴びてスッキリとした私達は、銭湯の共有スペースでコーヒー牛乳を一気飲みした。もちろん由緒正しき正当なポーズで。
 こうして私達は銭湯で解散し、今は花道と家まで歩いている。洋平ともう少し一緒に居たかったけど、会えない時間がお互いの愛を深めるって信じてる…!と思いつつやっぱり寂しい。だって髪下ろした洋平かっこよすぎてずっと見てられるよ。

「名前…、ありがとな」

 実際私の横に居るのは、無駄にでかくて赤頭で幼稚園児と変わらないくらいの思考回路で、バカで素直で、私の大切な人。

「明日、がんばってね」
「おう!!」

 愛する人との時間も大切だけど、私にとってはコイツとの時間も、同じくらいに大切なのだ。

「勝ったらチューしてあげよう!」
「やめろ!ハルコさんの為にとってあるんだ!!」






 

hanamichi


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