海南大付属とわたし



 インターハイ最後の枠を決める試合が始まった。
 今日は死んでも勝ちたい、陵南VS湘北の試合だ。そんな試合当日、私はちょーーっとだけ遅刻している。朝は花道のご飯を用意しなければいけないのでちゃんと起きれたし準備もしていたのだが、せっかくだからとクッキーを作り始めてしまったのが良くなかった。丁度焼いている時に出かける時間となってしまい、洋平が迎えにきてくれたのはいいのだけど、クッキーを放って行くことは出来ない。エトセトラたちも居たから先に行ってもらうことにして、私は今小走りでやっと到着した会場へと駆け込んでいた。

「げっ!なにこの人!」

 最終決戦ということもあってか、会場は恐ろしく湧き上がっていた。連絡もとれない今の時代、この会場から洋平たちを探すのは難しい。かといってひとり寂しく座るのも嫌なので、私は必死になってあたりを見回した。すると、

「名前ちゃん!?」
「へっ?」

 突然誰かに名前を呼ばれた。でもその声は愛するマイダーリンのものではなく、もっと元気なつい最近会ったような男の子の声で…と思いながら見渡していると、手をブンブンと振る清田信長くんの姿が見えた。

「あ、信長くん!っと、神さんも……って、」

 見慣れた顔にホっと近寄ってみれば、そこは海南高校の生徒たちの集まりだった。常勝校のあまりの迫力にギョっとしていると、神さんが「また迷子?」なんてクスクス笑って話しかけてきて、少しだけ緊張が解れる。

「友達の居る席探してるんですけど、わかんなくて」
「あ、じゃあココ!俺の隣!どうぞ!」
「えっ、いやでも…ここ、海南さんたちの席っぽいから部外者はー…」
「いいじゃん、一緒に見ようよ、名前ちゃんも」

 信長くんに続いて神さんにまでそう言われて、信長くんは隣の席をポンポンと叩かれる。そして見られる、海南の生徒の視線…。

「あー、じゃあ、ちょっとだけ…お邪魔しようかな」
「やっったー!!」

 なぜか無駄に喜ぶ信長くんに、ニッコリ笑う神さん。そんなに海南の人たちとは仲良くもないんだけど、なぜか私は今…観客席の最前列、海南レギュラーメンバーの中心に座っている。というか、今気づいたけど、私の隣に座っている人って神奈川ナンバー1プレイヤーと言われる牧紳一じゃないのだろうか。チラリと横目で見上げると、彼もわたしを見ていてヒィっとなった。

「牧さん、そんな睨んだら名前ちゃん怯えちゃいますよ」
「む…睨んでないぞ」
「牧さん威圧感あるんですから、睨んでなくてもそう見えますよ」

 牧さんの隣にいる神さんが私を気遣ってそう言ってくれて、睨んだつもりはなかったらしい牧さんは少し焦っていた。とりあえずこの女はなんだ、という目で見られているので、私は軽く「えと、湘北高校の苗字名前です…」と自己紹介をした。

「湘北?マネージャーか?」
「あ、いや、マネージャーとかじゃないんですけど…まあ、知り合いが居て…」
「名前ちゃん、そんな俺に気を使わなくていいんだ…!流川のヤローと付き合ってるならそうと…!!」
「いやあのだから、流川くんとは…」
「あ、流川だ」

 え?――と神さんの台詞でコートを見れば、丁度湘北高校と陵南高校が登場してコートに集まっていた。皆がウォームアップをする中、流川くんを探すと……って、

「うわ!めちゃくちゃこっち見てる!!」

 何故だか分からないけど物凄いこっちを見ていた。最前列ということもあって結構すぐそこに流川くんが居て、こっちを見ているのは完全に間違いない。てか、すごい睨んでるんですけど。

「名前ちゃん居るからかな、すごい怒ってるね」
「ヌヌヌ!彼氏ヅラしやがって…!!」
「いやだから彼氏じゃ…」
「ひっこめ流川ー!!」

 聞いちゃくれない。
 結局信長くんたちの中で、私の彼氏は流川くんのまま話が進んでいる。私はハァとため息を吐いてパっと顔を上げると、真正面の観客席の方に見知った顔が並んでいた。

「(あ、洋平!)」

 見つけた!!大きなペットボトルを両手に持って、応援する気満々なエトセトラと晴子ちゃんたちがそこには居た。
 ……そして気づいてしまった。洋平がめちゃくちゃこっち見て睨んでいることを。

「(ご、ごめん洋平!ちょっと、今は、抜け出せない!)」

 必死にジェスチャーで今の状況を伝えるけど、やっぱり睨んでいる。下では流川くん、正面には洋平が睨んでいて、いやもうどういう状況ですかコレ。とりあえず隙を見計らって戻ろう、そうしよう。

「名前ちゃん!そういやさっきの俺のダンク見てくれた!?」
「いや、今来たばっかだから全然見てないよ!」
「ズッコーーーーン!!」

 そういえばついさっきまでは海南と武里の試合だったんだっけ。どうやらそこで信長くんは大活躍したみたいで、誇らしげな顔をしているのだけど、ごめんね見てないよ。あまりにショックを受けているので頭を撫でてあげると、それは嬉しそうに目を細めた。あ、犬みたい。

「名前ちゃん、ハイ飲み物」
「わっ、神さん優しい!ありがとうございます!」
「あー!神さん株上げ禁止!!」
「はいはい、ノブのはコレね」
「わーい!」

 なんだか意外とここの席、楽しいかもしれない。






 

hanamichi


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