試合が始まった。 試合前に決勝戦では選手のコールをするらしく、選手それぞれの名前が呼ばれるたびにそれはもう湧き立った。特に花道のコールのときは、ある意味注目を浴びている問題児とあって誰よりも歓声が凄かった。花道、いつの間にこんなに大きくなって…!私はもう母の気持ちです。 安西監督のいないこの試合はチームの大黒柱である赤木さんが鍵となる。でも赤木さんはずっと足を負傷していて、今回の試合もそこが気がかりで仕方がない。それでも試合のブザーは鳴り、両者は激しく飛び交った。そこでもやはり花道の活躍は凄くて、ファウルをとってはいるものの、周りを圧倒していた。 「赤木らしくないな…、おそらく魚住に倒されたときだ。集中して試合には挑んだはずだ。だがあの時、足の怪我のことがちらっと頭に入ってしまった。忘れたはずの足を気にし始めた。もう頭から離れないぞ……、ヘタすりゃこの試合が終わるまでな―」 この席、案外かなりの特等席かもしれない。なにせ周りは王者海南大付属、バスケに関しては熟知しているメンバーたちだ。さっきからコートで繰り広げられる接戦を物凄く冷静な言葉で解説してくれて、素人からしたらかなり分かりやすくて見ていておもしろい。 と、そんなことを考えている場合ではなかった。やはり赤木さんの足はまだ完治しているにしても気がかりな喉の骨状態。ペースを崩し始めた湘北がどんどんと陵南に押されていくところで、湘北にタイムが出た。一旦ベンチに戻る湘北を目で追っていると、赤木さんが崩れかけていることもあってチームに亀裂が走っているのが見える。それを不安げに見ていたら、花道が突然赤木さんに…とんでもなく本気な頭突きを一発カマしているところを、見てしまった。 「な!赤毛猿のヤツなにしてんだ!!喧嘩か!?」 「しかも思い切り殴られてる」 それを目撃した選手や観客席の客たちは騒然としている。信長くんも「正気を失ったか!?」なんて言って驚いていたが、私には驚きよりも先に、 「ぶっ…くく、あは…あははは!」 「ちょ!名前ちゃんまで壊れた!?」 「あはははっ!もうっ、最っ高!バカ!」 花道らしいその行動に、笑いがこみ上げてきた。 昔からアイツの行動は奇想天外七転八倒、私も散々振り回されてきた。けど、それでも今もずっと一緒に居るのは、アイツがそれだけ私の支えと光になっているから。太陽のように眩しい桜木花道に、私はずっと憧れている。 その後、再びペースを取り戻した湘北は接戦を…と思ったのだが、花道がはりきってダンクに行こうとした時、魚住さんに圧倒的力の差でそれはもう恐ろしく地面に叩きつけられてしまった。そして私と、私の正面にいる洋平たちは青ざめた顔でゴクリと生唾を飲み込む。 「やばい…アイツ、キレる」 「え?キレるってなにが?」 「洋平!エトセトラ!GO!!」 「「「「イエッサー!!」」」」 私は正面の観客席に向かって大声で叫ぶと、アラホラサッサーとでも言うように彼らは一瞬にしてコートに潜り込んだ。ムクリと起き上がった花道は、我を忘れてただ怒りに満ちた顔をしている。このままでは大乱闘が起きてしまうこの展開で、洋平たちがいつ作ったのか分からない魚住さんのお面を付けて花道を誘導した。そして見事ずっこけたお陰でなんとか花道は正気に戻る……なにこの茶番。 そして思わず大声で叫んでしまった私はハッとして真顔で席に座るのだった。 「名前チャン…?」 「あーほらほら信長くん始まるよーミマショウネー」 「ハ、ハイ…」 よしよーーしと言いながら頭を撫でれば、信長くんは大人しく再びコートを眺めた。 その後の花道のフリースローは見事決まり、また試合が始まる。やっと全員の起動が乗ってきたというのに、流れはまだ陵南の方に傾いていた。そして福田というプレイヤーとの戦いで、花道は屈辱に至るほどの負けが確定される。とても悔しそうな花道の顔に、私はギュっと手に力を込めた。 「ふぃーー!俺しょんべん!」 「コラ、女の子の前だぞ…あ、俺も行く」 こうして前半戦が終了し、選手はそれぞれ控え室に戻っていった。会場内もどっと立ち上がり、そそくさと皆トイレに向かっている様子。これだけの戦いなのだから、皆我慢していたんだろうなぁ。そして現在、信長くんと神さんがいなくなって、私と牧さんという物凄くシュールな絵面になっています。 「悪いな、無理やり付き合わせたみたいで」 「え!?そ、そなこと…ないですよ!」 会場はガヤガヤと煩いのに、ここだけ何かやたらと静かな気がするのは気のせいではないはず。そう思っていると、想像もしていなかった牧さんから話しかけられて、私はヒョっとする。 「そうか?探してた友達、見つかったんだろ?」 「え、ああ…はい」 「別に、行ってもいいんだぞ、アイツ等には言っておく」 すごい、高校3年生とは思えないほどの落ち着きっぷり。洋平も大人だと思うけど、牧さんは洋平とはまた違った大人っぽさがあった。しかも、めちゃくちゃ優しいじゃないですか。 「あの、私がここにいると、やっぱ邪魔ですよね?」 「い、いや…そういうつもりで言ったわけじゃないんだが」 「本当ですか?」 「ああ」 「じゃあ、私ここ結構楽しいんで…もう少し居てもいいですか?」 「っ……、ああ、かまわない」 ごめんね洋平、もう少しここに居てもいいですか。海南の人たちの解説、めちゃくちゃわかりやすくて、バスケおもしろいです。たまには違った場所から見るのも、まあ、悪くないですよね? 「あ、私クッキー焼いてきたんですけど、よかったらどうぞ」 「あ、ああ…ありがとう」 「……牧さんって優しいんですね」 「は?別にそんなことは…」 「あーーー!牧さんなに食べてんスか!?クッキー!?それって名前ちゃんの手作り!?ズリー!俺のは?俺のはっ!?」 本当は花道に終わったあとあげるつもりだったけど、今回は海南の方々にもあげよう。大量にあるクッキーの袋の一部を出して牧さんに差し出すと、その大きな手で小さなクッキーをつまんで食べてくれた。そしてタイミングよく現れる、犬。 「はいはい信長くんのもあるよ」 「やりーー!!!」 「はいお手!おかわり!!」 「わん!!」 「あはは、手懐けられてるなぁ」 帰ってきた信長くんと神さんにもクッキーをあげて、周りにいる海南の方々にもそれを配った。沢山作ってきて良かった。花道には足りない!って言われるかもだけど、まあ家に帰ってから米を大量に突っ込めばなんとかなるだろう。 「さあ、後半戦だ!」 |