| 後半戦が始まる。 今までずっと大人しかった流川くんが、ついに動き出した。湘北はそれぞれがチームとして動き、流れは完全に湘北に回ってきている。花道も、あのメンバーに負けないほど、十分な動きをしていた。 けれどもやはり、そう上手くはいかない。魚住さんのバスケにかける強い想いが素人にでも伝わるように、流れはどんどんと陵南へと戻っていった。魚住さんのパワーと、天才と呼ばれる仙道さんのプレイ。 そして三井さんが、倒れた。 「私…ちょっと、トイレ…」 「え、名前ちゃん?あっ!」 何故かわからないけど、私は、下へ下へと下りていた。地図もなにもわからないから、ただ走って走って、あの場所へ行けることを願って、走り続けた。 バスケットボールなんてルール分からないし皆すごいなーとか月並みのことしか言えないし、私が見てていいのだろうかなんてさえ思える。けれども彼らを見ていると、ルールなんかよりも大切なものが、沢山見えた。 「また泣いてるんですか」 はぁ、はぁ、と息を切らして、数メートル離れた階段に座って下を向く彼に声をかけた。 「バカヤロウ、なんでお前がここにいんだよ…」 「泣いてる三井さんを慰めてあげようと思って」 「お前、慰める気…ねーだろ…」 彼の涙は初めてじゃない。そんな泣き虫な彼に、私は静かに近寄った。手元にあるポカリの缶がフルフルと震えていて、今にも落ちそうだ。 なんで私、こんな所まで来ているんだろう…。その行動は、自分にもよく分からなかった。――ただ、コートにいる三井さんを見ていたら勝手に体が動いていたのだ。 「三井さん……いま、後悔してるでしょ」 「………」 「俺は今までなにやってたんだー…って」 「お前、マジで慰める気ねぇな…」 三井さんの伏せられた瞳を、私はしっかりと捉える。 「私には三井さんの栄光時代なんて知りません」 「………」 「もしかしたら中学の頃を栄光時代だって思ってるかもしれませんけど、私……今の三井さん、最高にかっこいいって、思いますよ」 「………お前、」 私は単純に、感動したのだ。 初めて会った時、この人は最低な人だ――って思った。けれど過去を知って、あの時の涙を見て、そして今コートで必死に過去と戦いながら藻掻く彼を見て……私は心打たれた。こんなにも必死に藻掻いて頑張ってる人が、いるんだって。 「特別サービスですよ、私の有り余るパワー送ってあげます」 「んなの………まあ、気休めにはなっかもな」 「なに言ってんですか、本気と書いてマジのハンドパワーですよ」 「マジか」 まあ、嘘ですけど。 私は三井さんの手に自分の手を重ね、必死に念を送った――というのは若干本気だけどそうではなくて。本当は体温を分けた。なにかの本で読んだのだけど、人は体温が低下すると自律神経に乱れが出るとかなんとか。握ってみた三井さんの手は先ほどまでコートにいた人とは思えないほど冷たくなっていた。だから私は、自分の体温を必死に三井さんへと分け与えるようギュっと握る。 私はこの人に、もっとコートに居て欲しい。 「三井さん、まだ試合は終わってませんよ」 コートに繋がるドアを開けると、花道がそれはもう盛大に高く飛び跳ねていた。まだだ、まだ試合は終わってない。 誰もが陵南の勝ちを見越した時、それは桜木花道という男の手によって風が変わった。今の花道には、もう“勝つ”ということしか見えていない。どんな敵にも、絶対に食い下がらない、必死で戦う彼がそこには居た。 そして花道の木暮さんへのパスでフリースローとなり、湘北は4点差へと引き伸ばしたのだ。今までずっとバスケ部を影で支えてきた木暮さんにとって、その1本はとても大きな、何にも変えられない1本だったのだろう。歓声が、ドっと湧き上がった。 「残り、58秒…」 観客席で見るのとは違う、地上から見る花道の姿は…、誰よりも高くて、手の届かないところに居た。 磨かれた床を走るバッシュの音、跳ねるボールの音、湧き上がる歓声、選手たちの熱い叫び、全てが、1つになっていくようだ。 そして―……、 「うわああーーっ!!!全国だあーーっ!!!」 70対66――湘北高校の勝利。 最後、花道の必死のダンクシュートで、幕は閉じた。 「……っ…!」 やばい、なにこれ…めっちゃ出てくるんですけど。なんか、物凄くシャバシャバしたしょっぱいやつが…だばだばと出てくるんですけど…っ。 私はただそこに立ち尽くし、仲間と喜び合うその男に、ただただ大粒の涙を流した。 「(あ、こっち気づいた)」 やばい、気づかれた。こんな顔してるところアイツに見られるとか、絶対嫌なんですけど!って思いながらも、どうやら足も固まってしまったみたいで動けません。どんどん近づいてくるその真っ赤なヤツに、私は徐々に首が上へ向いていくのが分かった。 「ふははは!この桜木花道の天才っぷりに感動したか!!!」 「ううっ…バカ!!感動じだ!!!」 ガシっと頭をその大きな手で一掴みされ、ぐっしゃぐしゃにされた。もうどうにでもなれ!となってしまった私は、花道の前で大口開けて大泣きした。 「うおお!泣きすぎだぞ!?ほ、ほら!高い高いしてやるから泣きやめ!」 「うわあーーーん!!」 うちの子がバカすぎて辛いです。 花道に両脇掴まれて高い高いされるその高さは、高いなんてもんじゃありません。やめて、高所恐怖症になる。 でも、 「花道!あいしてるぞ!!」 「あたりめーだ!!!」 本当に、おめでとう。 長い試合が終わった。 もう疲れきって今にでも寝そうな花道に例のクッキーをあげると、それはもうものすごい勢いでバクバクと食べていた。私が丹精込めて1個1個大事に作ったことなんてまったく気にかけてないんだろう。 そのあと、私に気づいた流川くんが近寄ってきて、何も言わない彼に私は「おつかれさま、かっこよかったよ」と伝えた。すると彼は私の頭をクシャりと撫で、そのまま戻っていってしまった。 試合後は表彰式が行われる。部外者の私は本格的にここにいると色々とヤバくなるので観客席に戻ろうとコートに背を向けた。すると廊下の途中で海南の人たちに会い、私は今日のお礼を言う。また、なんて言って別れて、私は観客席の…一度も座ってない彼の横へと戻っていった。 「ただいま!」 「ただいまじゃねーよ、ったく」 「いやーあそこ凄いの!さすがトップのバスケ選手は違うね!解説付きのプレイは分かりやすくて見ててすごいよ!」 「あのなぁ……はぁ、まあいいか」 そんなやり取りをして、私はずっと空けられていた洋平の隣へと座った。やっぱりさすがに怒っているかなーと思ったけど、洋平はどうやら諦めた様子。ごめんね?と言って、私は彼の膝の上にある手に自分の手を重ねた 「今日、泊まり行くから」 「花道いるよ?」 「アイツ今日は帰ったら電池切れるよ」 「あー、絶対起きないね」 じゃあ、まあそういうことで。そう言って重ねた手はすぐにきゅっと指を絡められて彼と繋がった。 |