それからというもの、バスケ部の人気は急上昇だった。 なにせ、学校始まって以来の初のインターハイ出場、無理もない。特に流川くんの人気はうなぎ上り、流川親衛隊の破壊力もかなり恐ろしい。休み時間には必ずと言っていいほど影で見守る女の子や堂々と流川くんを見る子で溢れかえっている。見物料取ってもいいんじゃない?そして隣の席の私からしたら…もう……今まで以上に居づらい。 「苗字さん、コレ…流川くんに渡してほしいの!」 私も私も!――なんて言って、私の机の上に大量に置かれるラブレター。…はぁ、そう、これの処理が物凄くめんどくさい。いや自分で渡せばいいじゃないのあなたたち。ましてや隣にいるんだよ?まあ、今は不在ですが。 どうして私に渡すのかは分かりきっている。――彼に直接渡すと、百パーセント返却されるからだ。勿論私が渡してもそれは同じことなのだが、彼女たちは本人から突き返されるのを恐れている。そして私に渡すことで、私へと責任をなすりつけようという作戦なのだ。 「やばい、紙袋いっぱいになってきた」 流川くんへの手紙やプレゼント、それはもうバレンタインかってくらいに詰まっている。隣の席で、しかも私は彼氏持ちということもあって親衛隊からの警戒心は強くなかった。どうしたものかと机の上に突っ伏す。 「(あ、流川くん戻ってきた)」 机に頬を付けて流川くんの席の方をボーっと見ていると、彼が帰ってきた。彼は相変わらず起きてるのか寝てるのか分からない気の抜けた表情で、静かに席に座る。そしてしばらく流川くんの横顔を眺めていると、彼もさすがにこちらに気がついた。 「…なに」 そして小さく口を開いて、そう言った。少し警戒した目でこっちを見ている。意外、沢山の女の子の視線を受けても気にせずな流川くんなのに、私のことだってまったく気にせずまた寝るのかと思った。もういいや、ここで渡しちゃおう。 「はい、これあげる」 そう言って私は、自分の机の右にひっかかっている紙袋を流川くんの机左のフックに引っ掛けた。 「…なに」 「ラブレター」 「お前からの?」 「まさか、たくさんの知らない女子からの」 「………ならいらない」 流川くんはそのまま机に突っ伏した。ああもう寝る気だなコイツ。流川くんの机にひっかかった紙袋はそのままになっている。いらないって言ってたけど、これはこのままにしていいのだろうか。かと言って自分の席に戻すのもなんなので、私はそのままにした。 「…ていうか、」 “ならいらない”…って、なに? じゃあ、私からのラブレターだったら受け取ってくれたの?いやいやまさか。言葉の綾ってやつかな。流川くんの意味の分からない言動に、私は首をかしげるばかりであった。 結局、あのラブレターの紙袋はいつの間にか私の机の上に返却されていた。私はただ単純に「あのヤロウ…」と舌打ちした。まったく、モテすぎるヤツの考えることはわからん! 「ルカワめ…」 やばい、花道が乗り移った。 神奈川のインターハイ出場チームは決まったが、各地の出場決定戦はまだ終わっていなかった。今だって、どこかであの熱い試合を繰り広げているのかもしれない。そこから1ヶ月後にインターハイを控えるわけで、湘北高校はこれからの試合の為に日々練習を続けていた。 「名前!起きろ!!」 「うぅー……おも、い…」 ドン!ドン!と、朝から私の上で何かが暴れている。というか、これは圧迫死するんじゃないかってくらいの重さだ。しかも物凄く煩い。薄らを目を開けると、目の前いっぱいに赤色が広がった。 「行くぞ!!開店に間に合わねぇ!!」 ドンドン!と、床が抜けるほどにさっきから暴れているのは、言わずもがな隣の部屋の赤毛ザル花道だ。休日のしかも早朝だというのに珍しくも私より先に起き、まさかの私を起こしにかかっている。 そういえば、今日は部活が午後からとかで、午前中は新台入荷するパチ屋にみんなで並ぼうと話していた気がする。ガキのくせに花道も一丁前に打つので、それはもう楽しそうにしていた。なんとなく理由が把握できた私は、ボーっとしながらも出かける仕度をするのだった。 「あー…やばい、今日まじ眠い……おや、すみ…」 「おい名前!寝るな!!」 なんとか支度が終わってもう出るだけだというのに、今日の睡魔は恐ろしく私を襲ってきて、私の意識はそこで途絶えた。 それからは、なんだか寝心地の悪いベッドで寝ていて、しかも上下に揺れまくって脳みそがシャッフルする夢を見た。 「てめーこんなところで何やってんだ赤毛ザル!」 「はっは!日曜出勤ってやつかな」 「この馬鹿!高校生がパチンコなんかしていいと思ってんのか!!」 そしてうっすらと聞こえるそんな聞き慣れた声とやり取り。ボヤボヤと騒がしい声がするのだが、私の夢では目の前でお猿さん二匹が大暴れしているのでそのことだと認識している。 「つか、お前さっきから誰おぶって……って、名前ちゃん!?」 「あ?なんだ野ザル、名前のこと知ってんのか?」 「なんで名前ちゃんがお前の背中にいんだよ!誘拐か!?テメーコノヤロー!」 あ、地震かな、すごい揺れた。 さっきから耳が痛い。夢の中で確かに猿同士が大喧嘩してるけど、夢の中でもこんなに耳が痛くなるものなんだなーと、私は寝ながら思っていた。 「汚ねぇ手で名前ちゃんに触るんじゃねーぞコラ!」 「うるせー野ザル!コイツが全然起きねーから仕方なくおぶってきてんだよ!!オイ名前てめーいい加減起きろ!」 「オイこらもっと優しくだな!!」 「ん〜〜……うるさい!おすわり!」 「「はい!!」」 目の前の喧嘩してる猿たちがあまりにうるさいものだから、とりあえず怒ってやった。すると案外聞き分けがよくて、二匹の猿はシャキっとしてその場に座った。なんだ、私って猿も飼い慣らせるのか。だったら猿の大道芸とかやってもいいな〜なんて。 「愛知の星って知ってるか?」 「知らん」 「だろーよ」 「お前も見とくか?全国ってやつを」 どうやらこの猿山にはボス猿もいるらしい。結構渋めの顔のボス猿さんだ。私がせっかく大道芸として手懐けようとしていたお猿さんたちはそのボス猿の後を追った。でも何故かお猿さん二匹に私も手を引かれて、私もボス猿について行くこととなる。 「もうすっかりバスケットマンだな」 「花道ーー!土産よろしくなーー!!」 「アイツが買ってくるわけねーだろ!」 「ありえねーな!」 ハハハハハ!なんて笑い声をあげて、すっごくイケメンで私好みのお猿さんと、デブ猿と、ちょび髭猿と、金髪猿がわいわいしていた。ここにはいろんなお猿さんがいるんだなぁ…。 「………って、アイツ名前まで持って行っちまいやがった!」 「洋平、気づくの遅すぎ」 「俺は気づいてたぞ」 「俺も」 なんて後ろでそんな会話がされていたことなど、寝ている私は気づくはずもない。というか、今一体どういう状況なのかも気づくはずがなかった。 「えび…ふりゃー……むにゃ」 |