「あ!名前ちゃん居た!」 名古屋から帰ってきた彼らはまた、練習へと明け暮れる日々を送る。湘北では流川くんの雰囲気がいつもと違い、上へ上へと目指すような必死な練習が見られた。花道も負けじと挑むのだが、やはり流川くんとの差は歴然。花道にまた、更なる火がついた。 そんな一学期の終わりが近づいて夏休みが迫ってこようとしているある日、彩子さんが私を見つけて駆け寄ってきた。珍しいその登場人物に、私は目をぱちぱちとさせる。今日も美人だな〜とか思っていると、突然彩子さんに―― 「名前ちゃん、期末テストの結果どうだった?」 「え?まあなんとか学年10位内には入りましたけど…」 「優等生じゃない!よし決定!部活終わったら赤木キャプテンの家に集合ね!」 「へ?は?ええっ!?」 嵐が去る、とでも言うように…彩子さんはそそくさと私の目の前から消えてしまった。 意味の分からないままとりあえずバスケ部に行くと、理由はすぐに分かった。この前の期末テストの結果はそういえば今日発表だった。湘北高校の決まりで赤点が4つ以上ある者はインターハイに出場が出来ないらしい。それを聞いた時点で「ああ、花道か…」と思ったのだが、どうやら今回の赤点組は花道だけではないらしい。赤点組のメンバーを聞いて、私は彩子さんが必死に私を呼んだ理由が分かった。 「は?名前も行くのかよ!?」 「うん、教える人が足りないんだって」 「で、ゴリん家行くって?」 「そう!まあ晴子ちゃんの家でもあるし、泊まりになっても悪くないでしょ?」 「まあ、そうだけどよォ…」 バスケ部の練習が終わるまでは結構な時間があるため、私は一旦家に帰って仕度してから向かうことにした。あの問題児たちを一夜漬けするわけだから泊まるかもしれないし、お風呂も入っておこうと思う。ということで学校を出ると、洋平が待っててくれた。 事情を説明すると、何故だか洋平は少し眉を寄せてあまり良いと思っていない様子。 「何かだめなことある?」 「流川とか、あと三井さんも居るんだろ?」 「うん、あとリョータ先輩もね」 「はぁーー…心配だなぁ…」 「え?なんで?わたし洋平以外興味ないよ?」 「だから心配なんだよ…」 私は洋平がそこまで心配する意味がわからなかった。だって、私はこんなにも洋平が大好きで、洋平しか見ていないというのに。それでも私と繋いでる手を離さない洋平を見上げて、私は最大のきょとんとした顔を見せた。 「前のことがあって以来、洋平なんか過保護じゃない?」 「前のこと抜きにしても、俺はお前に関してはずっと過保護だよ」 「うそ!今日だってどうせバイトで放置するくせに!」 「バイトはッ……悪いって。……本当は、ずっと隣に居てほしーよ、縄で括りつけてな」 「それ怖いやつだ」 「そーだよ、俺は本当は怖いんだぞぅ」 がおーなんて言って面白がって襲ってくる洋平に、私は正面きって襲われる体制をとった。「洋平になら縛られたい」って言ったら、「マジでするぞコラ」と怒られた。 「とりあえず、なんかあったらぜってー言えよ」 「なんもないよ、それに私より晴子ちゃんのが可愛いし」 「まあそーだなぁ」 「ちょっと!嘘でも私の方が可愛いって言ってよ!」 「うそだよ!名前のが可愛い!世界一!」 「絶対うそだー!!」 嘘でもいいって言ったじゃねーか!!なんて道端でバタバタして、私たちはいつの間にか家に着いていた。洋平はここからまたバイトに行かなくてはいけないので、ここでバイバイする。 「バイト頑張る洋平はかっこいいし好きだよ、さっきは責める事言ってごめんね」 「いいよ、むしろもう少しわがまま言え」 洋平の大きな手が私の頭をくしゃりと撫でる。こんなに頑張ってる洋平に我儘なんて、言えないよ。 「いってらっしゃい」 「おう、いってきます」 ちゅっと軽いキスをして、洋平は原付バイクであっという間に遠くへ行ってしまった。今のこの空気が、寂しくて嫌いでもあり、ちょっと好き。だってなんか凄く充実してるって気分になるから。むふふと奇妙な笑い声を発して、私は自分の家へと入った。 家に帰ってお風呂に入って、それから勉強にかかせないお夜食を大量に作り、私は家を出た。バスケ部はきっとまだ練習しているであろう。少し早めに合流して、そのまま一緒に赤木さんの家に行くつもりだ。 朝と同じ通学路を歩き、湘北高校へと到着した。服装はお風呂に入ったのでいつもよりラフな格好で、制服じゃないので少し学校に入るのは気が引ける。一応泊まりも見越して制服も持ってきているので、いつでもバチコイである。 「名前かぁー…」 「露骨に残念そうな顔をするじゃないの」 バスケ部の練習が終わり、私たちは赤木さんの家へと移動した。赤点組は私が来ることを知らなかったらしい。三井さんは驚いていて、リョータ先輩は喜んでくれて、流川くんはいつも通り無言で、花道は露骨に嫌な顔をして私を睨んでいた。 どうせ晴子ちゃんに教えてもらえるとかそんなこと思っていたんだろう。生憎晴子ちゃんは勉強スペースとなるリビングにはおらず、今は自室に居るみたい。 「名前ちゃんは1年生だから桜木花道と流川の面倒見てやってね」 「はい!お姉さま!」 シャキっと了解のポーズをして、私は花道と流川くんの間に座った。勉強が出来るといっても1年生な私は、上級生の教科は当然出来ないので、1年組のこいつらの相手をすることになる。リビングのテーブルに赤点組4人が座り、完璧なる勉強ゾーンとなっていた。 「花道、掛け算ってわかる?」 「あ?」 「ちょっと待て!そこからなのか!?」 「はい、花道の脳みそはあって無いようなものですから」 赤木さんは物凄く呆れ果てた顔をした。いやだって見てくださいよこのバカを、勉強のべの字もコイツからは見いだせないでしょう。そんなんでよくこの学校受かったな…なんて赤木さんに言われる。そりゃもう必死に頭に詰め込みましたから。 花道はあまりにもバカすぎるということで、赤木さん自らマンツーマンで勉強を見ることになった。ということで赤木さんの部屋に行ってしまい、私は隣の流川くんを見た。 「寝てる」 わかりきったことだけど、やっぱり彼は寝ていた。生活の大半をバスケか寝るかしかしていないんじゃないかと思う。 「あ、そういえば私、皆のためにお夜食作ってきたんですよ!」 「え!名前ちゃんの手作り!?」 「お、気が利くな」 そう言って持ってきた紙袋に入っている風呂敷をドーンと、広げた。もちろん勉強のお夜食といえば、おにぎりです! 練習明けでまだまだお腹が空いている彼らは、それをぱくぱくと気持ちいい食べっぷりを見せてくれる。花道と赤木さんにも差し入れに行くと、花道は赤木さんの分まで食べて物凄く殴られていた。 「チッチッチー流川くーん、ごはんですよー」 「んな犬みたいな…」 「おーい流川くーん、おきてー」 三井さんにツッコミを入れられながらも、私はおにぎりを流川くんの前に差し出した。流川くんはぐーすかと完全に眠ってこっちに気づいていない…と思ったのだが、ピクリと鼻が動いたのが見えた。 「流川くん、はいあーんしてあーん」 「は?ちょ、おい名前…」 「あー…」 「流川テメー起きてんのかよ!!」 起きていた。 そして目の前に差し出したおにぎりを、ぱくりと口に含む。そして静かにもぐもぐとして、ごくんと飲み込み、そしてまた、あー と口を開けた。 「なに食べさせてもらってんだ流川!」 「老人ホームで働いてる気分」 「ちくしょう、名前ちゃんに食べさせてもらうとか、流川のやつ羨ましいぜ…」 「そういう問題じゃねえ!!」 三井さんは盛大にキレていた。 |