「お兄さん、私イチゴね」 「私はメロン!」 「はい、ちょっと待ってくださいねー」 海の家での仕事がスタートした。 湘南ボーイで働く洋平はかき氷担当で、さっきから来るきゃっきゃとしたお姉さんたちに笑顔でかき氷を渡していた。そしてそんな洋平の姿を見る――私。 そんなことをしていたら「名前ちゃん、仕事して」なんて言われて、私は慌てて仕事に戻った。 「さっきの人かっこよかったねー」 「アンタちょっとワルそうな人好きよねー」 さっき洋平からかき氷を受け取った女子たちのそんな会話が聞こえてきた。さっきの人って、やっぱり…洋平?くっそぉ……言わんこっちゃないじゃないか!洋平って確かにツッパリヘアーとかしててコワモテだけど、素材はかなり良い。洋平が髪下ろしたところなんて怖い要素なくなって可愛い!カッコイイ!しか残らないんだから。そう思うと私は、ズーンと沈んでいくのが分かった。……だめだ、洋平のこと考えてたらキリがない…仕事しよう。 「お姉さん、サーフボートいくら?」 「1000円でーす」 「お、じゃあ借りよっかな」 「ありがとうございまーす!色々あるから好きなの選んでくださいねー」 丁度男性3人組が竜宮に来て、私はサーフボードの並ぶ場所へと案内した。色とりどりと種類があるので男性たちは悩んでいて、「オレこれ!」「あ、それ俺が狙ってたのに!」と言ってわいわいしていた。 「ねえ、君」 「はい?」 お会計3千円をもらった私はレジにそれを収納しに行こうとすると、3人いた男性の一人が私を呼び止めた。首をかしげてその男性を見上げると、その人は少し顔を赤らめて「これ…」と、1枚の紙を渡してきた。手に置かれたそれを見ると、クシャっとした小さな紙には、電話番号が書かれている。 「あ…」 「あの、オレ明日もいるから…気が向いたら連絡して、じゃあ!」 返事をする間もなく、彼は行ってしまった。その先で待っていた男2人がひゅーひゅーと冷やかしの声を上げ、彼の顔は真っ赤である。今までとちがう品の良いナンパに、私はポカーンとしてしまうのだった。 それからしばらく竜宮の手伝いをして、14時頃に交代の時間となった。やっと洋平と一緒に仕事が出来る!そんなわけでルンルンですぐ隣の湘南ボーイへと行くと、ひとりの色っぽいお姉さんがかき氷を買っているのが見えた。……ん?ちょっと、待ってよ…? 「じゃあね」 「あ、ありがとうございまーす」 赤いシロップのかかったかき氷を洋平から受け取ると、お姉さんは色っぽい目つきで洋平に手を振る。洋平は少し戸惑ったように見えたけど、今の私にはそんなことどうでもよかった。だってさっき、 「よーへぇ…」 「ん?って、うお!名前!?背後に立つなよびっくりするだろ!」 「その手にあるの、なに」 突然背後に立たれたことで凄く驚いていた洋平は、私を見るなり飛び跳ねていた。でも私の表情はそれはもう暗く、じとーっと洋平を睨んでいる。洋平も私の台詞と表情にどういう意味か理解できたみたいで、「ああ、」と小さく声を漏らした。 「なんか渡されたんだよ」 「洋平のうわきものー!」 そう、さっきの色っぽいお姉さん、洋平に小さな紙を渡していた。あんなのひと目見ればわかる。 「なに怒ってんだよ、あんなのかけるわけねーだろ?」 「だって、さっきのお姉さん色っぽかった……エロかった」 「んなので俺がついて行くかよバカ、いつもの自信はどこいった」 「いひゃい」 ムニっと、頬をつねられた。 確かに、いつもなら「洋平が私以外を好きになるはずない」とかなんとか言ってるけど、それは同級生を見てだ。だって昔から洋平は同年代よりも、年上好みだっていうことを、私は知っている。だから私と付き合っているのも最初はすごく疑問だったけど、今はちゃんと愛されてるってわかる。でもやっぱり、自分よりも色気あって綺麗な人とのツーショットを見ると、今でも不安になる。 「つか、あの人よりも俺はお前の今の格好の方がエロいよ、ほら前閉めろ………って、」 ガサガサッ 前を全開にしていたパーカーを閉じようと洋平が手をかけると、そんな音がしてパーカーのポケットから何かが落ちた。 「………お前、」 「あー……(わすれてた!)」 ヒラヒラと落ちる、10枚以上の…紙。 「だれが、浮気者だって?」 「さあ!仕事だよ洋平!」 「オイちょっと待てやコラ、なあ名前チャン?」 「きゃー!」 きゃー!じゃねえよ!なんて言われて捕まえられて、私は青筋を立てながら笑うしかなかった。そうだ、さっき竜宮でバイトしてた時に数人の男から番号の紙を貰って、とりあえずポケットに入れていたんだっけ。いやー湘南の海はチャラい男が多くて困りますよほんと。 「お前ってやつは!」 「洋平あいしてる!」 「あたりめーだ!!」 |