「今日からお世話になります」 私は、バイトを始めた。 最寄駅から20分ほどの駅にある中心街の喫茶店。近場だとバレてしまいそうなので遠くにある行かなそうなお店を選んだ。といっても、この歳から働ける場所が少なくて、どうしても都会の方になってしまったのだけど。交通費も出るし、店の雰囲気もいい感じだし、とりあえずまだ少し楽しみの方が私の中を占めていた。そう、私は決して辛いわけではない…と、そう言い聞かせた。 「おはようございます!」 バイトを始めて、3日ほどが経った。 この夏休み中にどうしても沢山稼ぎたい私は、とりあえず入れる日は全てシフトを入れてもらった。そこまで大きくないこの喫茶店は、従業員も多くなく私含めて6名ほど。夫婦で喫茶店を経営されていて、とても感じのいい優しいご夫婦だった。 「あ、おはようございます」 ロッカールームへ入ると、男女共有スペースに見知らぬ青年がいた。私を見るなり少し驚いた顔をして、とりあえず挨拶をしてくれる。私はすぐに「数日前に入ってきた苗字です」と礼儀正しく挨拶をした。するとその青年は「ああ君が」と、私のことは噂で聞いたみたいな反応をする。 「分からないことあったら、遠慮なく聞いてね」 ニッコリと笑う彼に、私はただ普通に笑顔で「ありがとうございます」と返事をした。彼の名前は佐藤さんと言って、今は大学生らしい。きっとモテるんだろうなぁというその容姿は、“好青年”という言葉がよく似合った。 店がオープンして、続々とお客さんが入ってくる。この店はそれなりに繁盛していて、中心街にあることもあってランチタイムは若い客で席が埋まった。私はまだ3日目だが、毎日フルタイムで仕事を入れているので進みが早く、覚えがいいこともあってオーダーまでは取れるようになった。ランチタイムは嵐のように過ぎて行き、2時を過ぎた頃には静かになっていた。 「苗字さん、こっち来て」 「はい?」 「レジのやり方教えるよ」 佐藤さんにそう呼ばれて、私はレジの方へと行った。新人が入って店のことを色々教えるのだが、レジは最後に教えるらしい。というのも、お金は一番大事なので、大体のことを把握してからという理由。ということは、これで覚えるもの最後なのかぁ…と、私は少し寂しく感じた。意外と、アッサリ終わってしまったものだから。 「ここでこれを押せば、ホラ」 「あ、結構簡単なんですね」 「うん、最後に覚えるけどやり方自体は簡単なんだよ」 「ありがとうございます、覚えました!」 レジのやり方をメモに全て書き、私はホールのすべてをマスターした。といっても、まだまだ完璧ではないので、これから色々磨いていこうと思う。 「苗字さんは凄いね」 「え?」 「3日でマスターしちゃうんだもん、オレなんて1週間はかかったのに」 「いやあ、沢山入ってるので、詰め込みですよ」 それでも凄いよと、佐藤さんは褒めてくれた。褒められることなんてあまりないので普通に嬉しくて、私は顔が緩むのが分かった。あまり今までに本格的なバイトをしなかったので、こうやって働いて覚えて、それが認められるのがすごく嬉しい。私、頑張っていけそうな気がしてきた。 「おはよー!」 「んがっ!」 ドンッ!と、小さな部屋で雑魚寝している赤頭の上に乗った。同時にうめき声をあげるが、まったく起きる気配がない。それよりも先に、花道の横で寝ていた大楠の目が開いた。そして次々と起きる男どもなのだが、花道と洋平だけはまだ寝ている。そういえば洋平も、寝起き悪いんだった。 「アンタたち、よくこんな狭い部屋で雑魚寝出来るよね…てかここ男クサ!」 花道たちはしばらく学校で寝泊りしているのだが、その部屋に男5人が雑魚寝しているのだからそれはそれは男臭がハンパない。窓は最初から全開だというのに、なんでこんなにも男というのは臭いのだろう。見たところ部屋もそこまで散らかっているわけではないはずなんだけど……と、 「あ、エロ本」 「「「!!!」」」 私は、あるものを見つけてしまった。そう、それは男なら必ず一度は見る本……エロ本。 「アンタたち、こんな神聖なる学び舎で…しかも合宿中に…」 「あ!いや名前ちゃん!これはっ、ちがうんだ!」 何がちがうのだろうか、まったく言い訳にもならない言い訳をされ、三人は慌てふためいた。そして私は、ゆっくりとその本を手に取ってパラパラとめくる。周りの三人は固まっていた。 「セクシー特集…」 「「「あわわわわわわ」」」 ページをめくると、一発目からあられもないセクシーなお姉さんの裸が沢山。えーとなんだっけ、亀甲縛り?とかもされちゃって、それはもうえちえちだった。 「ここにあるってことは…洋平も、見たの?」 「名前ちゃん!?い、いやえと、洋平はー…」 「見てたぜ!」 「バカ高宮!」 必死に隠そうとする大楠だったが、バカな高宮のお陰でペロっとそれは吐き出されてしまった。洋平もこのエロ本を見てたということで、私はさらにページをめくる。 「名前ちゃん……?」 「……ねえ」 「「「はい!」」」 チラリと、男三人を見た。 「洋平の好みの子って、どれ?」 「「「え?」」」 私はいたって、真剣だ。 「やっぱり、せくすぃーなお姉さんがいいんだ…!」 その後、私は三馬鹿と一緒にエロ本を囲みながら、洋平の好みの女性を徹底的に見まくった。そしてついでに男が好きなエロエロな服や仕草やプレイを読みまくり、私は一体朝っぱらから何をしているんだろう。 色々と彼らから聞いた結果、洋平の好みはやっぱりセクシーでアダルティーなお姉さんだった。まあ、この本がセクシー特集なこともあってお姉さんだらけなのだけど、それでもやっぱり自分の知ってる洋平の好みにガッチリ当てはまって涙する。胸は…まあ、一般よりはある方だと思う。よく言われるし。でも、こんな色気は残念ながら私には持ち合わせていない。どうしたものか… 「オメー等、何してんだ朝っぱらからよォ…」 「ぴゃ!洋平!?」 私がムムムと悩んでいると、背後から異様な空気を漂わせた洋平がいつの間にかすぐそこに立っていた。はあ、髪を上げてない洋平もやっぱりかっこいい…って、そんな場合ではない。男三人と女ひとりでエロ本読んでたら、そりゃあ色々と不審である。 「女がこんなモン見るんじゃねぇ!」 「あうっ」 バっとエロ本を取り上げられ、何故か私は名残惜しい表情。正直、もう少し見て色々と勉強したかった…!なんて、今言えるはずがない。 「つーか、こんなんよりも、……俺は名前だからな」 「え、」 少し恥ずかしそうに私を見下ろして、洋平はそう言った。その台詞に周りがひゅーひゅーとはやし立てると、「うら、お前ら顔洗いにいくぞ!」と照れ隠しのようにその場から出て行く。私は口を開いて目をぱちりとさせ、その言葉の意味を理解して顔を真っ赤にさせた。ああもう、なんでこうも彼は私を好きすぎるんだろう。そして私も、彼が好きすぎる。 「………つか、いい加減起きなさい!この猿!!」 「ふがっ!!」 |