夏のお祭り。 それは、殺風景な日常をグンと活気立たせてくれる素晴らしいイベントだった。というわけで、洋平といちゃいちゃした後は急いで仕度をしてお祭りへ向かうべく家を出る。もちろん、去年もお世話になりました浴衣を押入れから引っ張り出して。 赤に和の花が散りばめられた、年齢関係なく着れるお気に入りの浴衣。やっぱ女子としてはこういうのを着るっていうと周りを気にするものだから、いつもよりちょっとおめかししましたよ。 「うん、可愛い」 ってマイダーリンに言ってもらえれば、それで満足なのです。 彼の手をぎゅっと掴み、カラカラと下駄を鳴らして神社のある階段を登っていった。 「洋平の浴衣姿見たかったなぁー」 「ワリーな、持ってねぇんだわ」 「来年は着ようね?」 「金があったらなぁー」 洋平の浴衣姿見るためなら、私が買ってあげる!って意気込んで言ったけど、洋平には自分のために使ってくれって普通に返されてしまった。洋平はいつも気を使って私の分まで出してくれたりするけど、洋平のためなら私貢いでもいいんだけどな。っていうか、いまなにかひとつプレゼントしたところで洋平にもらった分は返せないほどだ。 「そーいや花道には来るなって言われてんだよ」 「あ、そーなの?なんで?」 「アイツ、晴子ちゃんとデートだと勘違いしてやがるからなぁ」 「あー、うん、なるほどね…。よし、邪魔しに行こう」 「そりゃいい」 私の見てないところで大人になろうだなんて、そんなのお母さん許しませんよ。まあどうせ、花道が今日晴子ちゃんとどうこうなるわけがないことなんて分かりきっているけど。 「お、洋平と名前ちゃん!」 花道を探す途中で見つけた気になる屋台でりんご飴やらイカ焼きやらを好き好きに買って洋平と食べあいっこしていると、赤頭より先にエトセトラに会った。彼らの手にも屋台で買った食べ物や射的の景品などがたくさんあり、十分に祭りを満喫しているのが分かる。 「名前ちゃん浴衣似合ってるね〜」 「チュウありがとー!わかってる〜!」 こうしてエトセトラと合流した私たちは結局いつもの面子で祭りを楽しむことにした。二人きりの祭りもいいけど、洋平だって友達と一緒に居たいだろうし、今日のところは譲ってやろう。洋平は友情を大切にする熱い男だから、きっと彼らのことも大切に思っている。じゃなきゃ、花道の練習に何日も付き合ったりなんて…しないもん。 「そういえば花火やるんだよね?何時からだっけ?」 「8時からって書いてたぜ」 「8時かぁ、じゃあ近い時間になったら上の方行かなきゃね!」 ちょっと階段が急で疲れるけど、ここの花火大会で一番の眺めと言えば山の上だ。上には神社もあってずっと灯りが連なっており、皆もそれに沿って歩いている。けれど私たちは、穴場を知っているのだ。 「んじゃあまずは何すっか!」 「祭りと言えば射的でしょ射的!洋平、あのぬいぐるみ欲しい!」 「サル…?あんなのがいーのかよ?もっと可愛いのあんだろ…」 「うん!だってなんか花道みたいじゃない?」 「あー…言われてみれば確かに」 祭りといえば美味しい屋台もあるけど、やっぱり祭りの屋台ならではのゲームでしょう!そう言って射的の屋台の前に行けば、奥に並ぶ景品に赤いお猿さんのぬいぐるみがあった。花道にそっくりだからアレをゲットできたら花道の頭に乗せたいな。 ねだる私に洋平がよしきた!と言わんばかりに腕まくりし、その隣に居たチュウも張り合うように射的の銃を手に取る。どうやら二人で対決するみたいだ。 「先に花道を撃った方が勝ちだぜ洋平」 「ハッ、俺の腕をナメてもらっちゃあ困るねぇ…花道は俺が仕留める」 「もうアレは花道なのね…」 花道そっくりだとは言ったけど、もはや二人の中であの赤毛猿のぬいぐるみは花道と命名されてしまった。後ろに居る大楠とたかみんも「やれ洋平ー!花道をぶち殺せー!!」なんて言ってるし、本人のいないところで酷い言われようだ。 「あ、私あんず飴買ってこよーっと」 独り言のような皆に向けて言ったような、そんな曖昧な台詞と共に私はすぐ近くのあんず飴の屋台に向かった。どうせすぐ近くだし大丈夫だろう。洋平たちは射的に夢中でバンバンと打ち合っているし、今の内にパパって買ってペロペロしていればいい。 そう思ってあんず飴の屋台の前に行くと、屋台のお兄さんが「いかがっすか?」と声をかけてくれた。 「このあんず飴一つくださーい」 「あいよ、200円ね」 お兄さんにそう言われて持っていた巾着から財布を取り出した、その時だった。 「はい200円」 「え?」 スっと私の横から出てきた腕が、お兄さんの掌の上に100円玉二つ…おかれた。わけがわからずハっと隣を見てみると、そこには洋平ではない…知った顔の男性が、一人。 「佐藤…先輩?」 「偶然だね苗字さん、はいあんず飴」 まさかの、バイトの先輩の佐藤さんがそこにはいた。つい昨日会ったばかりだから間違えるはずもない。佐藤さんはニッコリ笑って、お兄さんが差し出したあんず飴を受け取って私に差し出した。私は驚いて固まったままゆっくりとあんず飴を受け取り、佐藤さんを見上げる。え、え、え、なんで??? 「大学の友達と来たんだ、ここのお祭りって有名だからさ」 「あ、そ…そっか、そうですよね!いや偶然ですね!」 「あはは、そんな驚かなくてもいいのに」 今一番想像してなかった登場人物だったので不意を突かれた私は完全に驚いている。いや驚くでしょう!まあ確かにバイト先からはそれなりに距離あるって言っても30分圏内だし、来れないことはない…だろうけど。現に何人か学校で見た様な子たちとはすれ違っているけど。 「あれ、そういえばお友達は?」 「ああうん、あっちらへんに居ると思うよ、苗字さんが見えたから来ちゃった」 「え、でもこんな人ごみじゃはぐれますよ!?大丈夫ですか!?」 「あはは大丈夫だよ、子供じゃないんだし…それより、苗字さんこそ一人?誰かと来たの?」 何故か進む会話に私はただ佐藤さんに向かって一生懸命返事をしていて、すっかり色々なことを忘れていた。そう、自分のすぐ近くで放置していた彼らのことを… 「あのさ、良かったらこれから俺と…」 「名前、そいつ誰?」 その瞬間、背筋がゾクリと…真夏の夜だというのにひんやりした感覚が走った。 「あ、ようへっ…うわっぷ!?」 「えーっと…」 「どーも」 手をポケットに突っ込み歩いてくる洋平のもう片方の手には真っ赤なお猿さんのぬいぐるみが持たれていて、こちらに近づいてきたと思ったらそのぬいぐるみが私の顔面に降りかかってきた。それをうまくキャッチするも顔は埋もれてしまい、そして自分の肩に洋平の手が回るのが分かる。 私の目の前に居た先輩は戸惑った表情をして苦笑いし、どういうことかと私に目線を流した。 「えーと、苗字さんの…彼氏、さんかな?」 「そーッスけど、なにか?」 うわー洋平なんか怒ってる。あれかな、私がナンパされてるとか思ったのかな?だったら誤解を解かなきゃ……。でも、佐藤さんのこと……なんて紹介したらいいんだ? 「えーと、えーと洋平、この人はね…えーっと」 「あ、俺は苗字さんと同じバ…」 「あああああああ!!つい最近知り合った佐藤さん!私が絡まれてたところを助けてくれた的な!?」 「え?」 「ですよね!!佐藤さん!!」 「あ…うん」 危なかった…!危うく私がバイトをしていることがバレるところだった!!!必死に私が弁解して佐藤さんにアイコンタクトをとると、佐藤さんもわけが分からずながら頷いてくれた。 「へぇー……そりゃうちの名前がお世話になったみてーで、どーも…」 「い、いやぁ…」 すっごい疑いの眼差しを向ける洋平に、佐藤さんもどうしていいのか苦笑いだった。ああこの状況どうしたらいいんだろう。 「じゃあ、苗字さんもお祭り楽しんでね」 「あ、はい!…って、あ!!あんず飴っ…!」 「ああいいよいいよ、俺が好きで払ったんだから貰って」 「ええでもっ…」 またね!なんて爽やかな笑顔を見せて、佐藤さんは去って行ってしまった。彼には後でちゃんとお詫びと説明をしなくては…。私は佐藤さんの背中にごめんなさいの意を込めて手を振った。 「………」 「………」 「あんず飴…食べる?」 こうして残った私と洋平に微妙な空気が流れ、何故かお互い沈黙となる。ぎこちなく私が洋平の前にあんず飴を差し出すと、洋平はジロリと私を見てから…ガリッと、あんず飴の三分の一を噛み砕くように食べた。とっても、機嫌を損ねてらっしゃる…。 「お、おいしい…?」 「甘ぇ…」 まあ、それだけガブリといけば…。 「…本当に、それだけの関係なんだな?」 「う、うん!そうだよ!私が洋平以外の人とどうかなるわけないじゃん!今更何言ってんの!」 「とか言って勝手に合コン行ってキスされたのはドコのドイツですかねぇー」 「あっははは……そんなことあったっけぇー??」 「ったく、オメーはぁ…」 ずっと肩を抱かれたまま洋平の顔がすぐ隣にあり、またひと睨みされてしまった。誤魔化すようにあんず飴を食べようと思ったら、ひょいと奪われて「高宮ァ!」と洋平が呼ぶ。 「これやる」 「うぉ!いいのー?やったー!」 「え、ちょ、洋平!?」 「オニーサン、このあんず飴もらうぜ」 「へいまいどー」 そう言って私が持ってたあんず飴はたかみんに渡され、洋平はすぐさまさっき私が寄ったあんず飴の屋台でまったく同じあんず飴を200円渡して買ってきた。そしてそれを手渡される…私。 「他の男から貰ったモン嬉しそうに食ってんじゃねーよ」 「洋平……やきもち焼きすぎ」 「うるせー」 なに、可愛すぎるんですけど洋平さん。いつもの大人な洋平らしからぬ幼稚な行動に、私は胸の内がきゅんきゅんしてたまらなかった。 「えへへ!洋平が買ってくれたあんず飴!大事にするね!」 「いや、お願いだから食ってくれ」 夏祭り最高!なんて素晴らしいイベントなんだ!!私は手に持ったあんず飴を、ペロリと舐めた。 |