特殊能力発動!



「広島とーちゃーく!!」

 長い長い夜行バスでの旅も終了し、なんとか私たちは広島へと到着した。道中のバスではずっと洋平と隣同士だったので全然辛いなんてことはなく、むしろいちゃいちゃ…と言いたい所だけどお互いバイトで疲れてたので爆睡でした。
 でも洋平が居れば夜行バスでも安心して眠れるし辛くないし、まったく苦じゃないんだね。ありがとう神様。
 真夏のカンカン照りな太陽を直で受け、朝日の眩しい時間に広島駅に降り立った私たち。試合は9時頃からであまりゆっくりしている時間は無かった。駅前のファーストフード店でバーガーを掻っ込み(私はあんまり食欲なかったからコーヒーとナゲットを2個くらいつまんだだけだけど)、いざ試合会場である体育館へと向かう。
 広島に来たのなんて初めてで移動中のバスではかなりキョロキョロしちゃって洋平に笑われた。だって地味に洋平と東京以外の県外に行くことなんてなかったから、結構私的には旅行気分でドキドキなのだ。

「対戦相手って豊玉ってとこだっけ?」
「ん?あー…確かそんな名前だっけか」
「なんかてりたまみたいで美味しそうなとこだね」
「ハハッ、ちげえねぇ」

 やっとこさ会場に着いた私たちは一旦荷物を近くのロッカーに預けて必要なものだけ持った。必要なもの……2Lペットボトル。これまで応援していてそういったガシャガシャと鳴るグッズが応援に良いと学んだ私たちは、今回はバッチリと準備してきている。ちなみに私は軽量化をはかって500mlペットボトルで可愛らしくカシャカシャ応援だ。
 会場へ着くと既に人が沢山応援席に居て、特に豊玉高校の応援民はかなりのガラの悪さだった。先に応援に来ていたみっちゃん応援隊の堀田徳男ことのりちゃん先輩たちが涙目になって洋平たちに「遅いぞお前らぁ!」と泣きついてきて面白かった。どうやら豊玉の席で湘北の応援していたら集中攻撃を受けてしまったらしい。
 どこに座ろうかと席を探せば晴子ちゃんが私たちを見つけて「こっちこっち!」と呼んでくれて、私たちはいつものように彼女達と応援をすることになった。丁度湘北もコートに入ってきて昨日の朝ぶりに花道を見るのだが、相変わらず公式戦とは思えないほどの堂々っぷりだ。そんな花道の赤頭が癇に障ったのか、豊玉の応援席は一斉に花道へとヤジを飛ばす。というか、豊玉ガラ悪いな本当に…。

「あ、名前ちゃ〜〜〜ん!」
「え?って、あ…信長くん」

 お〜〜〜い!なんて言って嬉しそうに満面の笑みで私の名を呼ぶのは海南大付属の清田信長くんだった。海南もインターハイ出場校なので当然広島には来ていて、どうやら彼らも湘北の観戦をするらしい。信長君のお陰で近くにいた神さんも私を見つけて軽く手を振って、牧さんにもクイっと頭を下げて挨拶される。さすがに放っておけないので私は「どうも〜」とにこやかに手を振った。

「ったく…」
「やだなー、ただのお友達への挨拶だよ?」
「お友達…ねぇ」
「愛してるよマイダーリン!」
「調子いいやつめ」

 きゅっと隣に座る洋平の手を取って身を寄せれば、わしゃわしゃと髪を乱された。
 試合が始まってハイスピードで点を獲得していったのは豊玉だった。観客席のガラの悪さと違わぬくらい選手も似たようなタイプで、花道に火をつけるのは容易い。だがあれだけやった2万本シュートの結果も初手は酷いもので、花道はあっという間にベンチへと戻ってしまった。
 そこからは流川君の活躍で点を追いつかせていくのだが、まさかの流川君の左目を豊玉の選手が思い切り肘で突いた。その行為はインテンショナル・ファウルーーつまり故意のファウルとして見なされたが、湘北は結果として今の得点王を失った。
 流川君不在のまま試合は続行され、前半戦は豊玉に6点差を付けられて終了となる。

「やべっ…500円玉落とした!」
「?」

 前半戦が終わってしばしの休憩時間、今回は迷わずしっかりとお手洗いに向かうことができた。用を済ませてさっさと席へと向かおうと思ったその道中、自動販売機前でそんな声が聞こえる。かなり焦った声だったので気になって視線を向ければ、自動販売機の下に一人の男性が蹲っていた。

「くそっ……狭くて手が入んねぇっ…!」

 どうやら丁度自動販売機の真下に小銭を落としてしまったみたいでそれを取ろうとしているらしい。けれど彼の手ではその隙間に上手く手が入らず苦戦していた。顔は見えないけどツーブロックな坊主頭でどこかの学校のジャージを着ていて、そのシャツには“SANNOH”と書かれている。
 恐らくバスケ選手だと思うのだが、このインターハイの出場校のどこかだろうか?というかさっきから必死に小銭を取ろうとする姿があまりにも情けなくて…というか可哀想で、私はふと自分の手を見つめた。

「あのー……よかったら取りましょうか?」
「え?」

 こういうの放っておけないタイプなんだよね。それにこの人悪い人ではないだろうし、多分私の腕ならこの隙間だったら入る気がする。なので思い切って声をかけてみれば、彼は拍子抜けした声でこちらを振り向いた。………ん?

「私の手なら入るかもなんで…」
「いや悪いって、しかも女の子にそんなマネ…!」
「気にしないでください、えーっとここですか?」

 振り返った彼は想像以上に綺麗な顔をしていて、そしてなんだか違和感を覚えた。違和感…というか、既視感?とりあえず私は自動販売機の下に屈んで、小銭が落ちたと思われるところを覗き込んだ。すると奥の方でキラリと光るものが見えて、私は手をその隙間に差し込む。ギリギリだったけれどその隙間にしっかり入った私の手は、簡単に小銭へと手が届いた。

「はい、どうぞ取れました!」
「いやーマジさんきゅ、悪いなこんなマネさせて…」
「いえいえ、お役に立てて良かったです」
「良かったら奢るよ、なんか飲みたいのある?」
「いえそんな、自分のあるんで大丈夫です…!」
「遠慮すんなって、女の子ならー…りんごジュースとか?」

 本当にいいのだけどこれ以上引くのも空気が悪くなりそうだったので私は「あ、じゃありんごで…」と結局奢られることになった。普通に彼は気分よくりんごジュースを購入して、続いて自分の分のスポーツ飲料のボタンを押してそれを取り出した。そしてハイとりんごジュースの缶を渡されたので礼を言って受け取る。そしてそのままさようなら――するはずだったのだが、

「んー………なんかアンタの顔、見たことある気がすんだよなぁ」
「え?あの実は、私も………」

 目の前の彼はジーっと私の顔を見つめてそんなことを言ってくるので、まさに同じことを心の片隅で思っていた私は思わず自分もそう言った。そのことに彼は「え?」と言って驚き、再び私たちは見つめあう。

「………栄治くん?」
「………名前?」

 !!!!
 私たちはお互いを指さしあってぱっくりと間抜けに口を開けた。いやいやだって、

「髪なくなってる!!」
「女になってる!!!」


 そして二人して「はぁ!?」と声を上げた。
 そう、この目の前にいる男子は沢北栄治くんだ。母の実家に里帰りに行った時に何度か会ったことがある1つ年上の近所の男の子。昔は髪がふさふさで、よくうちのお母さんに「将来期待だわぁ〜」なんて言われてた記憶がある。まあその母の期待通り確かに“イケメン”といわれる顔に成長していた。ただ、髪が無いので全然気づかなかった。
 しかもその栄治くんも私に気づいてなかったみたいで、その理由が「女になってる」とはどういうことだ?私は今も昔もずっと女なんですけど??

「いやだってお前、昔はもっとこう…少年!って感じだったじゃねーか!」
「た、確かに前は女っけあんまなかったけど…!ひどい!」
「いやいやすっげー可愛くなってる、びっくりした!」
「っ!!」

 ディスられたと思ったけど普通に最後褒められて私は息詰まらせてしまった。栄治くんとは最後に会ったのは小学校の時が最後だったような曖昧な記憶で、あの時から会ってないとしたら確かに私もそれなりに変わっただろう。なんたって女の子の成長は早いのだ。「いやー久しぶりだなマジで」なんて言ってポンポンと頭を撫でられ、そういえば昔から年下の私に対してお兄ちゃん風吹かせてたなぁと思い出す。1つしか変わらないのに。

「つーかお前、なんでこんなとこ居んの?」
「私いま湘北高校通ってんの」
「湘北…って、え、マジか?」
「そうだよ、幼馴染が出てるからその応援。ってか、栄治くんもどこかの選手?そういえばバスケ大好きだったもんね」

 顔を見ていたら何だか朧気に思い出してきた栄治くんの記憶に、そういえば彼の家にはバスケットコートがあった。結構大きめなのが。そこでよくバスケをする栄治くんを見ていたなぁなんて思い出し、そうか彼もやっぱりどこかの出場校の選手なんだと納得がいく。

「俺は山王工業の選手だよ」
「へー………強いの?」
「お前何もしらねーのな、一応毎年優勝してんだけど」
「えっ!!それかなり凄くない!?」
「そーだな、俺んとこは結構つえーぜ。ちなみに今の試合で勝ったどっちかが、次の俺らの対戦相手だ」

 私は口をあんぐりとあけた。去年の優勝校とかではなく、毎年…ってことはかなり強い所ではないのか。しかもこの口ぶりだと、栄治くんはその山王工業高校のレギュラーメンバーっぽい。
 そしてまたも自分の出会う周りがバスケ選手という偶然すぎる奇跡に、私はなにか特殊能力を持っているのではないかと思った。

「まあでも湘北強いから!」
「ふーん、結構な自信じゃん」
「うん、なんたってうちの天才おバカ幼馴染が今年は居るからね」
「へー、名前の幼馴染ねぇ…」

 栄治くんはしばし黙って、そして再び私の頭をぐしゃりと撫でた。

「楽しみだな、そりゃあ」

 そしてニィっと、悪戯のように笑ってみせた。






 

hanamichi


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