湘北VS豊玉、後半戦。 なんとか落ち着いたプレイをすることが出来るようになってきた湘北は点数を稼いでいく。 流川君は左目を支障しながらも圧倒的な動きを見せ、彼という存在が本当に凄いものなのだと実感した。――そういえば流川くんとはあの勉強会以来で全然会話もなにもしていなくて、私はふとあの時のアレを思い出して顔が赤くなるのが分かった。特に流川くんから何か言われるでもアクションを起こされるでもないので、やっぱりあれは流川くんが寝ぼけてやったことなのだと触れないことにした。うん、あれは事故だ。 そしてそんな接戦の中、花道がついにシュートを決めた。そのことに二万本合宿に付き合った洋平たちは大いに喜び、チームメイト達は鳩が豆鉄砲を食ったような驚きを見せ、海南大付属の人たちもそれはもう驚いていた。知らない者から見ればただ当たり前にシュートを決めただけなのだが、私たちからしたら違う。花道がシュートを決めるなんて!と、それはもうありえないことなのだ。 そしてその成果もあり、湘北高校は見事2回戦進出となった。 「花道……すごいね、あんた」 花道がどんどん遠くなっていく。 湘北高校が勝って嬉しいはずなのに、なんだか私は素直にその勝利を心から喜べないでいる。いいや、嬉しい…ちゃんと嬉しい。ただなんだか違うこの感情に、私はどうしていいか分からなかった。 気が付けば栄治くんが観戦していた山王工業の団体は居なくなっていて、既に帰ったらしい。私たちは試合が終わった後は花道たちのところへおめでとう、お疲れ様と伝えに行った。そして一旦私たちは湘北チームとさようならをする。 「さぁーて、一旦宿行って荷物置いて…そっからは自由行動だ!」 大楠の言葉に皆でひゃっほーう!と盛り上がり、私たちは事前にとってある宿へと向かった。近くのこじんまりとした旅館とのことで、予約とかは洋平に任せてしまったので私はウキウキと楽しみにしていた。 というか、まあ応援も勿論最重要目的ではあるのだが……こっちもかなりの楽しみでしょうよ!なんたって!洋平と旅館にお泊りだなんて! 「つーわけで、俺と名前はちょっと上ランクの部屋取ったからよ」 「え、うそ本当!?でも私大したお金出してな…」 「バーカ、ちょっとくらい俺にいい顔させろよ」 つっても高校生の払えるギリギリの部屋だけどな。とかなんとか言って到着した旅館は、確かにこじんまりとしてはいるがいい雰囲気の綺麗な所だった。 しかも大楠たちは激安の最下位ランクの部屋で、私と洋平は少しランク上の別部屋だとか。あまりにかっこよすぎる我が彼氏に私はこの場で失神寸前である。いい顔もなにも、常時いい顔すぎて心臓持たないんですけど。 「とりあえず広島のお好み焼きは食べたい!」 「そぉーだなぁ、近くに繁華街あっから行ってみっか」 部屋に荷物を置いて軽く休憩した私たちは、旅館の待合室でエトセトラと合流して広島の繁華街へ出かけることにした。広島の繁華街は結構ガラが悪いって有名だけど、まあコイツ等が居れば問題ないだろう。 「そういえば花道たちの泊ってるところ近いんだっけ?」 「おうそうだぜ!確かちりとり荘…だっけ?」 「バカちげーよ高宮、ちどり荘だあそこの」 チュウがそう言って指差した方を見ると“ちどり荘”と書かれたこじんまりとした旅館があった。さっきはいっぱい人がいたからあまり花道と喋れなかったので後で行ってみようかな。 「あれ?三井さんだ」 「ん?おうなんだお前らか…ここら辺泊まってんのか?」 「はい、すぐそこの旅館ですよ」 歩いていたら丁度三井さんがコンビニ袋片手にこちらに歩いてきて、どうやら買い物帰りらしい。私が声に出せば三井さんも私たちに気づいて何故か少しだけ眉を寄せた。 「よっすミッチー先輩」 「よおミッチー!」 「ミッチーじゃねぇか、よぉ!今日はおつかれ!」 「おつかれミッチー!」 「お前らなぁ…!!」 洋平を先頭にエトセトラも背の低い順で挨拶していき、先輩への対応とは思えないコイツ等に三井さんの顔の血管が浮き出てるのが見える。だがこの桜木軍団のお陰で三井さんは今もバスケをやれているところがまあまああるので、これ以上は我慢というように抑えていた。面白い光景だ。 「お前ら今から出かけんのか?」 「はい、広島のお好み焼きでも食いにいこーってことで」 「そうか……」 「?」 三井さんの問いに洋平が返事すると、何故か三井さんはチラリとそのあとに私を見た。なにか問題でもあるのかと首をかしげると、洋平の腕が私の肩に回る。 「大丈夫ッスよ、コイツは俺らが責任もって守るんで」 「…別に、何も言ってねぇだろうが」 「そーっすか?なんかそんな目してたんで」 「……まあ、ここら辺結構ガラ悪いみてぇだから、せいぜい気をつけろよ、っつてもガラ悪いのはお前らの方か」 じゃあな、と言って三井さんはそのまま私たちを通り過ぎてちどり荘へと帰っていった。よくわからないけど、三井さんは女一人の私を心配してくれたのだろうか?とは言っても洋平たちと居るし全然私としては心配もなにもないのだけど…三井さんはやっぱ良い人だなぁ。 「三井さんってやっぱ…」 「ん?どうかしたの洋平?」 「……いんや、なんでもねぇ」 その後、私たちは繁華街で広島焼きや広島名物なんて言われる食べ物をひたすら掻っ込んで満足して宿へと帰った。まあ色々遊びたい盛りではあるけど、一応高校生だし明日も応援があるのでここは健全に…。 旅館へ帰って皆で大浴場に行ってサッパリして、そのあとは卓球台があったのでそこで軽く一戦交えた。私は髪を下ろした洋平と浴衣のダブルパンチで終始にやにやが止まらなくて、「お前顔やばいぞ」と洋平に言われてしまう始末。 「おい、今から出かけんのか?」 「うん、ちょっと花道のとこ行ってくるだけだから…ね、いいでしょ?洋平は皆と遊んでていいよ」 「……気を付けてな、帰りは花道に送らせろ。遅かったら迎えに行くかんな」 「心配性だなぁ……うん、気を付けるから」 さすがの洋平も、ここからちどり荘に行くまでだったらと夜出歩くのを許してくれた。この辺は旅館が密集していてガラも悪くないので大丈夫だろう。あと、せっかくエトセトラとも来ているのだから洋平にはこのバカ達とも遊んでいてほしかった。 きっと洋平は私が居ることを邪魔だと思うことは無いって分かっているけど、それでも男たちの中に女の私が一人参加するのは気を遣ってしまう。男には男の時間が必要なんだって、どこかの誰かが言ってた。 だからずっと私ばかりが洋平を独占するのはよくないってことで、洋平を置いて出てきた。まあ普通に、花道と喋りたいとは思ってる。 「山王の沢北を倒したらなれるかもしれへんで」 丁度ちどり荘の玄関前にある橋に差し掛かった時、二人の人影とそんな声が聞こえてきた。“山王の沢北”というワードにピクリと反応し、思わず歩く足が止まった。そしてその方向へ目を向けると、そこには左目に眼帯をした流川くんと……もう一人は後姿でよくわからない。 「奴が高校No.1プレイヤーや」 山王の沢北…No.1プレイヤー……って、え、栄治くんのことだよね?栄治くんってもしかしてかなり凄い人なの? 流川くんにそう言った関西弁の男性はクルリと反対を向いて、そしてこちらへと歩いてきた。よく見たら今日の豊玉の試合で流川くんに怪我を負わせた人だ。そんな彼と流川くんが一緒にいるってことは、もしかして仲直りでもしたのだろうか?私は思わず慌てるけど、よく考えればその人からしたら私はただの通行人Aなので普通にすれ違うだけだった。 「………あ、」 「あ、あー……こんばんは」 けれど流川くんにはバレてしまい、私はとりあえずあははと笑って挨拶をした。そんな彼の手には何か小さな塗り薬?のケースが持たれていて、「どうしたのそれ?」と聞けば「貰った」と返される。さっきの人からかな? 「目は大丈夫そう?結構腫れてたけど…」 「ん……だいぶおさまった」 「あ、ほんとだ…明日にはもう少しひくといいね」 目を心配すると流川くんが眼帯を軽く外して見せてくれた。確かにまだ腫れてはいるけど、試合中よりは全然マシになっていたので安心する。 花道も中学のころに目をやられて似たようなことになっていたなと思い出し、あの時ほどではなさそうだなと背伸びしてじっくりその目を見つめた。 「なあ……それ、誘ってんの?」 「へ?」 瞬間に流川くんの手が私の手を掴み、そしてそのまま顔が近づいてきて――って、これはダメなやつ!! 「ちょちょちょ!!すとっぷルカワくん!!」 「っ…!」 良かった、ちゃんと“待て”は出来るみたいだ。流川くんの唇がもうすぐで触れるというところでなんとかそれを食い止めることに成功し、私は彼の口元を思い切り手で覆ってガードする。というかまた、 「だだだだから、こーゆーのはダメって!」 「……なんで」 「なんでって、私、彼氏いるから!!」 「……………は?」 「……………え?」 いやいや流川くんその反応はまさか………、 「え、知らなかったの?」 「初耳だ」 えー…マジっすか流川さん。まさかのあれだけ私と洋平がべたべたとしていながらも気づいてなかったと?いやいやどんだけ鈍いんだよこの人。 「まあ、関係ねぇ…」 「いやいや関係あるよ!!てててていうか、流川くん私のことす、好きなの!?」 「ん、」 「んって…………え、ほんとに?」 「じゃなきゃ、キスしてえとか思わねー」 「ってキスしようとするな!!」 「いてっ」 待って待って待って色々頭おいつかない。なのに何で君はそんなにも飄々としていられるんだ。しかも彼氏いるって分かっててなぜ諦めない!?いやそれ以前に流川くんが私を好きって……いやいやありえないでしょ!? 「流川くん!!とりあえず、明日の試合頑張って!!」 「当たり前だ」 今はこんなことしてる場合ではない。 |