幸せすぎて忘れるところだったが、今日は遂に湘北VS山王工業の試合だ。 11時半開始とのことなので朝に余裕があり、私たちは悠長に旅館の朝食を美味しく頂いてから出かける支度をする。たかみんなんて試合に出るわけでもないのに茶碗もりもりのごはん4杯くらいおかわりしていた。だから痩せないんだぞ。 でも私も今までのモヤモヤがスッキリとして、その日の朝ごはんはいつも以上に食べることができた。 洋平を目の前に食べるごはんはうまい!! 「すっごい人だねー」 「こりゃ座る席見つかっかな?」 試合会場に到着すると、昨日とは全く違う観客の人数に私たちは圧倒された。どうやら観客の目的は山王工業らしく、若い女の子からおじさんまで、みんな山王のファンらしい。さすがインターハイ常勝校とあって人気の差は歴然だ。こんな中で湘北はやるのか……でもまあ、花道には関係ないんだろうな。 丁度試合前のウォームアップの時間に来た私たちは晴子ちゃんたちと合流して座る席を探した。そしたら丁度徳ちゃん先輩達が手を振って私たちを呼んで、取っておいてくれたらしい席に案内された。そこは丁度湘北チームのベンチ裏だった。やるじゃん徳男!もうすっかり応援団の仲間入りですね。 「きゃーー!沢北さーーん!!」 「沢北せんぱーーい!!」 会場は山王が入ってきただけで大歓声で、その中でも目立ったのが甲高い声で呼ばれる“沢北”の名前。つまり栄治くんだ。 昨日普通に話してた人が、今じゃコートの上でアイドル並みな黄色い悲鳴を浴びている。確かに顔が良いってのも理由なんだろうけど、黄色い声に混じっておっさんの「沢北ぁー!!」と呼ぶ応援の声も聞こえ、彼がそれだけの選手なのだと理解する。 けれど湘北も負けず劣らず、気合の入った掛け声で山王コールを打ち破っていた。そして目立ちたがり花道は相手側がウォームアップしているゴールに思い切りダンクシュートを決め、ド派手に威嚇をしてみせる。 さすが花道!そう思っていたら、今度は山王から一人飛び出してきて湘北側の…私たちの目の前にあるゴールに走っていった。栄治くんだ。けれどゴールを決めようとした瞬間に赤木さんと流川くんが投げた2つのボールに動揺し、そのゴールはハズレとなってしまう。なんとも大人げない。 「おっ」 「あ、」 その時、私と栄治くんの目が合った。どうしよう、これは手を振ったりした方がいいのだろうか。そう思っている内に栄治くんがこちらに近寄ってきた。え? 「よう名前」 「や、やっほー…栄治くん」 「お前の幼馴染どれ?」 「あの赤いの…」 「え、アイツ?マジか…」 「うちの花道ナメない方がいいよ、バカだけど天才だから」 「ふーん……ま、見てろよ」 ここの席はほぼ目線がコートと変わらないくらい近いので会話は余裕にできた。栄治くんはやっぱり涼しそうな顔で、さすが常勝校のエースと言われるだけある。 昨日と同じようににやりと笑って見せる栄治くんに私は対抗心で強気に笑ってみせた。うちの子だって負けてませんっての。 「さあて、説明してもらおうか名前さん?」 「え?あ、あー…そういえば言ってなかったっけ?」 「聞いてねえなぁ?」 栄治くんが去ったあとにポンと肩に手を置かれて優しい…それはもう仏のように穏やかな洋平の顔が私を見つめる。もちろん、目は笑っていなかった。 そういえば昨日自分の席に戻ってから洋平にこのことを話そうと思ったらすぐ試合が始まってしまい忘れていた。 私はもう何度目か分からないこの偶然話を丁寧に洋平に話すのだった。 「もうお前のソレは…特殊能力か何かか?」 「あ、私もそろそろ本気でそう思えてきた!バスケの神様でもついてんのかな?」 「そいつはやべーな…ってそうじゃねぇだろ、ったく何でこうも俺の周りには敵が多いんだ…」 「なんで洋平が悩むの?私は洋平しか見てないのに」 「だから余計心配なんだよ」 「?」 確かに何でこうもバスケに関わる…特に湘北や花道と関係のあるバスケ選手とよくこんなにも知り合うのかと不思議ではあるけど、だからと言ってどうこうなるわけではない。 好意を持たれたのなんてほんの数名だし、栄治くんは別に昔馴染みってだけで全然そんな気はない。それに私はいつだって洋平しか見ていないし靡くつもりもないよ?洋平の最後の言葉はイマイチよく分からなかった。 とりあえず試合を見ようと前に向きやると、やたらと視線を感じる…。そしてどこからともなくヒソヒソと…「ねえあの子誰?沢北さんと話してたよね?」「でもあの人湘北の応援してなかった?」「沢北先輩の彼女!?うそいやー!」と、それはそれはもう耳の痛い声が…。 いやこれ、敵が多いのは私の方じゃない? 『ただいまより、秋田県立山王工業対――神奈川県立湘北高校の試合を行います』 遂に始まった。 最初の奇襲はまさかの――花道のアリウープで決まった。リョータ先輩との連携プレイでのそのゴールに、何故かリョータ先輩と花道も驚いている。 湘北のメンバーは熱すぎず冷めすぎずで皆とてもリラックスしているようで、強豪校相手だというのに落ち着いた……いやむしろ調子のいいプレイを見せる。 特に三井さんは絶好調でバンバンとシュートを入れてみせ、赤木さんのゴリラダンクも活き活きとしている。あと花道の顔面シュートには大爆笑だった。 けれど途中、交代で入ってきた山王のおにぎりみたいな大きな男に花道が圧されてしまい次々とゴールを入れられてしまう。でもどんな大きな相手だって、花道がパワー負けするなんてことは考えられなかった。 そんな苦戦中の花道が久々にオフェンスファウルを華麗に取って、湘北は一旦タイムアウトをとる。そこで安西先生が伝えた作戦が、私たちの耳にも届いた。 「花道を中心に…攻める……って、言った?」 まさかの作戦に私たちも耳を疑った。あの花道を中心に湘北が動くだなんて…。いや、花道の成長は凄い、それはもう目まぐるしいという言葉がその名の通り合うほど。 ただ今までは予想外な活躍を見せていて、なかなかそれが思ったようにコントロールできていないように見えた。でもそんな花道が中心となる――ということは、安西先生は既にもう花道の実力をバスケ選手として認めているということ。 博打ではない、信頼があるのだ。 「なあ名前、花道がパワーで負けると思うか?」 「ううん、まったくもって思わない」 「はは、だよな」 特大おにぎり(美紀男)と花道のパワー勝負は、途中色々とあったけど……花道の勝ちとなった。体格差はあれど、相撲のように力をどう使うかでその威力は逆転する。花道はそれに気づき、そして遂にシュートまで確実に決めていった。 前半戦は圧倒的に湘北が空気を持って行った。そして残る後半戦……ここからだ。2点リードしてでの後半スタートを切った湘北だが、栄治くんのスリーポイントシュートによってあっという間に逆転されてしまった。 「歴史に名を刻め〜〜〜!お前等ァ!!はい!!」 「「「「歴史に名をキザめ〜〜オマエラ!!」」」」 「え、なにその変な応援…」 「徳ちゃんに続け〜〜!ほら名前ちゃんも!」 「いや私はいいッス…」 徳ちゃん先輩が盛大に“炎の男三っちゃん旗”を振りかざしながら変な応援をしていて、そして続くように桜木軍団もその応援をしていた。 いやほんとなんだその応援は。私と晴子ちゃん達は若干引いた目でそんな彼らを見つめるのだった。 気づけば湘北は16点差も山王に付けられてしまい、その追い上げはかなり厳しくなってしまう。そしてどんどんと点差は広がっていき、それに一番堪えていたのは赤木さんだった。赤木さんの動きがことごとく山王に止められてしまい、隣で見ていた晴子ちゃんの目に涙が浮かぶ。 「お嬢さん、ちょっと前座らせてもらうぞ」 「え!あ、はいどうぞ…って、え!?」 「「「「ボス猿!!」」」」 突如私たちの目の前に現れたボス猿…ではなく、魚住さん!?いやその巨体でマジどこから現れたんだという魚住さんは私の目の前に胡坐をかいて座った。 私は椅子に座っているというのに顔の高さがほぼ似たような所にあり、どんだけこの人でかいんだ…と圧倒される。どうやら観戦に来たみたいだけど…え、まさか神奈川から? そうこうしている内にどんどんと体力を消耗していき、周りからは「もう終わったな」とさえ言われてしまうほど湘北は落ちていく。花道までベンチに戻されてしまい、代わりに小暮先輩が中へと入った。そしてやはり点差が開いていき絶望的だと思われたところに、花道が再びコートに入る。そしてあろうことか赤木さんにカンチョーして、そして審査員席のテーブルに立ち上がって…、 「ヤマオーは俺が倒す!!by天才・桜木!」 と、勢いよく叫んだ。 「あは、だから…サンノウだっての」 うちの子らしい。 |