「花道、顔がダムダムしてるよ」 「ヌン゛ッヌン゛ッヌン゛ッ」 バスケ部に入ってからというもの、花道の練習は基礎ばかりのドリブルばかりだった。そのせいで夕飯を食べる時も家でゴロゴロしている時もやたらと顔が上下していてまるで頭がバスケットボール状態の花道。アパートの壁が薄いせいで夜寝る時もその声が聞こえてきてかなり迷惑だった。 「あーうざい!」 「ヌッ?名前どこへ行く」 「コンビニ行ってアイス買ってくる」 「こんな時間にか!ならば俺も行こう!」 「その頭止めたらいいよ」 もう少しで時計の針がてっぺんを超えそうなこの時間に、私はテキトーに服を羽織って財布を持った。夜道は危険だからとついてきてくれる花道は、なんだかんだ紳士なところがある。 「はなみち」 「なんだ?」 「おんぶ」 「む、仕方ねぇな」 そう言って花道の背中に飛び乗れば、花道は私を軽々と受け止めておんぶしてくれた。いつだったか、私と花道の体格差がこんなについたのは…。小学生前半の頃はさほど変わらなかった気がするのだが、高学年になるにつれ花道はぐんぐんと成長していった。対して私は150代で止まってしまい、花道と並ぶとかなりの身長差になってしまう。 「小さいころはさ、私が花道をおんぶしてたんだよ」 「昔の名前は悔しいが俺よりもたくましかったぞ」 「今の私は?」 「この俺様が守ってやらんとな!ハッハッハッ!」 昔の私はガキ大将みたいなやんちゃ者だった。よく花道と一緒にいろんな子と喧嘩してたっけ。今の女子力に溢れた私は努力の賜物なわけです。 「何言ってんの!私が面倒見なきゃ生きていけないくせに!」 「あでっ」 「あはは!」 ポカンとその目の前にある赤頭を叩いてやる。この天才に向かって… なんてブツブツ言う花道に、私はなんだか楽しくなって笑ってしまった。 私にとっての桜木花道という存在は、誰にも変えられない…当たり前の存在。 「花道大好き!」 「当たり前だ!」 流川くんの人気は日を増す事に上昇していた。 休み時間何気なくうちのクラスに来る女子が増え、教室の外から流川くんをチラ見してはキャーと言ってどこかへ行ったり友達に会うフリをして教室に入ってはチラチラと見たり…それはそれはアイドル並の大人気だ。しかも私の隣の席であるが故、大変居心地が悪い。休み時間は洋平の所に遊びに行ったりもするが、こう毎度毎度休憩ごとに行くのもアレなのでたまには教室で女友達と喋ったりボーっとしたりしている。 「おい」 「………」 「おい」 「………………え?わたし?」 今は丁度そのボーっとしているタイプの方。私は目は開いているが景色はまったく見えていなかった。そして誰かに話しかけられているなと思ったら、そこには真っ黒な壁……ではなく、横で立って私を見下ろしている流川くんがいた。え、なんで流川くんが私に話しかけてんの? 「お前しかいない」 「え?」 首をこれでもかってくらいに真上に傾けなければ見えないほどの彼へ視線を合わすと、彼は静かにそう言った。そして私は今この空間がやけに静かなことに気づき、真上に向けていた顔を周囲に向ける。するとそこには、…………誰も居なかった。 キーンコーンカーンコーン それと同時に聞こえた鐘の音。 「ハッ!次移動教室だった!!」 バッと立ち上がってそう言うと、流川くんは静かにコクリと頷いた。いやいやそうじゃなくて、急がなくてはいけない!でももう授業は始まってしまったので今更急いだって間に合うのか、いやどうだろうか。移動教室の場所はここからだと結構遠い場所にあり、きっと到着する頃には授業が始まって入りにくい状況だろう。というか何で友達は私を呼んでくれなかったんだろうか、恨む。 「流川くんは何でここにいるの!?」 「…寝てた」 「あーなるほど…って、のんびりしてる場合じゃないよ!流川くん何でそんな冷静なの?逆に怖いよ」 「眠い…」 「さっき寝てたって言ってたよね?」 私がツッコミを入れるも、流川くんはただマイペースに大きなあくびをしていた。なんだか流川くんと喋ってると調子が狂う。ええと、つまり、何だ。 「……サボろっかな」 流川くんは、コクリと頷いた。 「一緒に屋上でも行く?」 「………」 「あ、さすがにそこまでは…」 「行ってやらんことも……ない」 おお。 なんだかよく分からないけど、私と流川くんは一緒にサボることになったのでした。 今考えて見ればあの流川楓と一緒に屋上でサボるだなんて考えられない行動だけど、何故かあの時流川くんはそれに頷いてくれた。どういう理由かは分からないけど、嫌われてはいなさそうなので…良しとしよう。 ただ、絶対にこの現場を女子には見られまいと思った。 |