花道がバスケ部に入部して丁度一週間が経った頃、毎日基礎練習ばかりの花道は遂にプッツンした。 子供な花道の性格からして地味な練習をただひたすら毎日なんて我慢できないだろう。部活を途中で抜けてきた花道は桜木軍団と共にファミレスでフケることとなり、私もそれに同行した。 「すぐやめると思ったぜ」「一週間も持ったんだ花道にしては上出来だぜ」なんて思い思いにその他たちは言うが、花道はなにも聞こえていないのか思いつめた表情で静かにスパゲッティを食べている。 「お嬢ちゃん可愛いね」 「俺らと遊ばなーい?」 丁度そのファミレスで洋平たちと座ってパフェを食べていた私は、お手洗いの為少しだけ離席する。その途中、恐らく高校3年生くらいの男集団がやたら舐め回すように見てきたので私は目を合わさないように足早に通り過ぎた。幸い何も声をかけられなくて良かった――と思っていたら、出てきた瞬間を狙われてしまう。典型的過ぎる台詞に私は心の中で鼻で笑った。 「ちょっと待ってよ、無視するなんて酷いなぁ」 「君、あそこの連中の女だろ?彼氏でもいんの?それとも、全員とヤってたりすんのー?」 完全に無視をキメ込んで強行突破しようと思ったその時、一人の男にガシっと腕を掴まれてしまう。花道たちと居ると大抵は花道のタッパで身を引いてくれるのだが、たまーに“勝てる”と勘違いして女の私から狙ってくる輩が居る。まあ、晴子ちゃんとまではいかないかもしれないけど私もそれなりに可愛い。というか普通の女子高生な容姿ではあるだろうと自負している。あとは可愛いは作るんだよ。 ということで、とても面倒くさい人達に捕まってしまった私はどうしようかと考えた。さっき彼らが居た席からだったら洋平たちの席も見えてすぐ気づいてもらえたのだけど、彼らは何故か私を待ち伏せしてトイレ前に来ている。しかもここからじゃ洋平たちの席は死角になってるし、私は連れられるがまま彼らに囲まれていつの間にやらファミレスの外へ。 「どこ行くんですか?」 「このままお嬢ちゃんとイイコトしてもいいんだけどよ、ちょっとアイツ等も呼んでやろーかと思ってよォ」 「呼んじゃうんです?やめたほうがいいと思うけどなぁ」 「お嬢ちゃん積極的だねぇ!俺らとそんな遊びたいのか!とんだビッチちゃんだなぁオイ」 そう言って下品にゲラゲラ笑う男たちは、ブサイクばっかで攫われた身として楽しくない。どうせならイケメンに攫われたかった。あ、もちろん洋平に勝るイケメンなんて居ないけどね。 ファミレスの外へ出て行った彼らは、丁度花道たちの席の真後ろに立ってガラス越しにニヤニヤと笑いながら見ている。チュウがそれに気づくと、一斉に全員がこちらに振り向いた。そして彼らの後ろに居た私の手をグイとひっぱり、これ見よがしに私を前へ突き出したのだった。 「名前ッ!」 「名前ちゃん!?」 ガラス越しだが、彼らが私の名を呼ぶ声が聞こえた。私は申し訳なさと半笑いの表情で「ごめんね」と口パクで言ってあまり緊張感の無いように振舞ってみせるけど、どうやら皆はガチギレっぽい。特に洋平の顔は……あーこれはかなり怒ってるヤツだ。ちなみに花道はまだ思いつめているのかこっちに気付きすらしていない。この白状物め。 こうして桜木軍団を引っ張り出してきた男たちと向かった先は、どこで見つけたのっていうような工事現場の横?中?工場?来た本人でさえ分からない、とりあえず喧嘩できそうな場所。洋平の顔はかなり怖かったけど、街中でいきなり殴りかかるようなマネはしなかった。そういうところはやっぱり冷静で頭回ってて、さすが私のダーリン。 それにきっと、洋平は私のことを信じてる。 「洋平、俺ちょっと用事思い出した…行っていいか?」 男集団の一人が花道に喧嘩をふっかけ、いつまでも思いつめている花道は無意識に相手の男を蹴り飛ばして気絶させてしまった。そんな花道に洋平は小さく笑ってその背中を見送る。 アイツ完全に私が捕まってること忘れてるなオイ。 「オイ、名前を離せよ」 「そう言われてハイそうですかって離すワケねーだろ!」 「離さねーと危ないぜ」 「おうおう、お前が俺をやるってかァ?一年坊主がいい度胸じゃねーか!」 花道が一人の男を倒したお陰で少し焦りだした男集団は、人質を取るように私を前に出して見せつけるようにした。けれども洋平は余裕の笑みで顎を引いて男を見る。そしてチラリと、私を見てきたので…私も口元をニヤリとさせた。 「そうですよお兄さんたち、危ないですよ」 「あ?」 「そんな近くに居ちゃ―…」 ドンッ その瞬間、私は背後に居る男の腹を肘で思い切り殴った。男は「ゴフッ」と声を漏らし、拘束された手が緩んだ隙を見て体を捻って男と対面になったところ、渾身の頭突きアッパーを一発お見舞い。その瞬間に私は洋平の方へと走っていった。 「ようへーい!怖かったよぉーー!」 どこがだよ! なんて一斉にツッコミを入れらるが、私はそのまま洋平に勢いよく抱きついた。洋平はちゃんとそれを受け入れてくれて私を抱きしめ返し、頭を撫でてくれる。 「ほらな、危ねぇって」 「「「「(そっちかよ…!!)」」」」 ちっちゃな頃から悪ガキで、十五で…じゃなくて、幼い頃はとにかく私はやんちゃだった。花道とよく喧嘩もしたし、どこかのガキ大将とも喧嘩した。でもそれは小学校頃までの話で、それ以降は温厚なただの女子だ。けれども桜木花道という男はいつになっても小学生のままかってくらい好き勝手喧嘩三昧。そんな花道と一緒に居て狙われないわけがなく、私はよくエサにされることが多々あった。そうしていく内に護身術だけは身に入り、今では大抵の男は倒せますお母さん。 「名前、下がってな」 無事私も(自力で)救出されたということで、洋平たちは男集団へ一斉に殴りかかっていく。花道が一人(確かケンジくん)を倒したのでそれぞれ1対1となり、私に被害が及ぶことはなかった。それにしても、私を背に戦う洋平の姿もまた…カッコイイ。 こうして喧嘩に勝利した桜木軍団は、花道の向かった先であろう学校へと再び足を進めた。そこには意気揚々と基礎練習をする花道が居て、私たちは静かに笑みをこぼす。 本当、良い友達を持ったね花道。 「洋平の顔に傷をつけるなんて許さん!」 「いてっ…名前、もうちょい優しく…」 「がまん!」 その後、私と洋平は一足先に帰ることにして、私は洋平の手当てをするために家に上げた…というよりもう少し洋平と一緒に居たかった。そして洋平が作った傷を探しては処置をしていくという作業を終え、私はいそいそと何度もお世話になっている救急箱を片付ける。その時、ふわりと洋平の匂いが鼻を掠めて、気づいた時には私は洋平の腕の中だった。 「洋平?」 「わりぃ、俺らのせいで名前を危険な目に合わせた」 「大丈夫だよ、いつものことだし」 「それでも、アイツ等の汚ねぇ手が、名前に触れた…それだけで腹が立つんだよ」 抱きしめる洋平の顔は見えないけど、悔しそうな表情をしているんだと声から伝わってきた。 「でも最後は、洋平が抱きしめてくれる」 私は普通の女の子よりもちょっと強い。でもそれには限界がある。花道のようなガタイのいいのを相手にしてしまえば負けてしまうし、人数も多いと無理だろう。そんな弱点の沢山ある私が今ここで安心していることが出来るのは、洋平や花道が居るからだ。 「何度でも抱きしめてやるよ」 だからいつでも、帰ってくるよ。 |