| 「アナタ、 私を見据える、少女。 その言葉とその声に――私の体は凍てついた。 私があの研究所を抜け出して、結構な月日が経った。帝督が私という存在そのものを隠してくれているお陰で今は普通に高校生として生活することが出来ているけれど、そう長くもたない命だっていうのは分かっている。だからいつか、この日が来るっていうのも覚悟していた。そろそろ終わりだ。 「人違いじゃ……ないですか?」 「indeed 髪の色も顔つきもまるで別人のようだけど、その動揺は何故かしらね?」 彼女は私が居た研究所で実験をしていた研究者の一人であり、大人に混じって研究をしていた彼女を私はよく覚えている。顔は見たことはなかったが、この声は正しく彼女のものだ。同じくらいの年齢だと聞いてはいたが、まさか 「逃げ出したって聞いたけど、元気そうね」 「………アナタも、まだ…実験を続けているの?」 「あの実験は凍結したわ」 「え…?」 さすがにこれ以上白を切ることはできなかったので話を合わせることにしたが、彼女のその返事で私の思考は一瞬固まった。”凍結した”……だって? 実験は失敗に終わり、これ以上は莫大な金額負担となる為継続不可能となり、永久凍結したのだとか。 「because 私もあの研究から離れていた…けれど、再び引き戻されたわ」 その事実に安堵の息を漏らした…時、彼女の次の台詞で再び心臓が凍り付くような感覚をおぼえた。 今――なんと言った? 「え……、なんの…為に………?」 「きっとアナタも直に呼ばれるわ」 ――逃げ切れると、いいわね。 ” 私が加担していた計画の1つ。学園都市のレベル5のクローンを作ることは可能なのかという計画だった。けれどそれはオリジナルである本人の知らぬところで計画されたもので、その証拠に一度もオリジナルは研究所に現れなかった。私はずっとそれさえも知らされぬまま計画に力を使っていて、これは誰かの救いになることなのだとバカ正直に研究者達を信じていた。けれど蓋を開けてみれば、あの研究も、この研究も、どれも全て……科学者たちの私利私欲の為の残虐なものばかりだった。 「どうしよう……帝督に連絡―…って、また世話になるわけにはいかないか」 これ以上彼の世話になるわけにはいかない。それに、彼に手を借りるということは、それなりの代償を支払わなければいけないのだ。確かに私は彼に助けてもらった……けれど、その代償は大きい。嫌だと思うことだって何度かあった。目を瞑りたいこともやらされた。それでもあの研究所にいるよりは、マシだと思えてしまったのだ。 「一方通行とも……会えなくなっちゃうのかな」 こんな時まで、私は自分の欲を考えている。私に望みなんてないこと、ここへ来た時から分かっていたのに。誰かの為になるのならと使っていた力は、ただの自己満足だ。こうして自分が誰かに必要とされている、そう思うことで…生きている意味があるのだと思えた。でもそれは大きな間違いで、私はただ…生かされていただけだった。 プルルルルルル… 聞きなれた着信音。ポケットに入れていた携帯を取り出して画面を見ると、そこにはよく知る人物の名が記されていた。 「はい、もしもし」 『あー名前、今夜時間ある?』 「出来れば帰って寝たい気分なんだけど…なにか用事?」 『ちょーっと任務で付き合ってもらいたくってぇ…いいかしら?』 「音声解析とかならデータ送ってくれれば家でやるけど…」 『ああそういうんじゃなくてねぇ、実際に来てほしいんだけど〜』 「…わかった、場所は?」 『今からデータ送るわ』 そう言って送られてきた位置情報を見ると、そこは第一七学区のとある空間。第一七学区といえばオートメーション化された施設ばかりで住民はほとんどおらず、人口はかなり少ないと言われている。 「こんなとこでなにするの?」 『まあそれは、来てからのお楽しみっつーことで』 「どういうこと?」 『じゃあ、待ってるわよ名前』 「ちょ、麦野っ!?」 プツ――ツーツー… そう言って、麦野からの電話は切れた。 |