頭から離れない”歌”がある。
最強の能力を手にしたオレに付きまとうのは、クソみたいなヤツ等ばかり。この学園の闇だとかなんだとか周りは言うが、オレにとってはそれは日常だった。今でも考えるのが嫌になるような地獄みたいな日常だが、1つだけ鮮明に覚えていることがある。

――歌を、うたってあげる――

変なヤツだった。ガキの頃、研究所をたらい回しにされていたオレは、とある研究所で一人の女と会った。同じ位の身長、黒く乱雑に切られた髪、顔は…覚えていない。何故かその女の目は塞がれていて、黒で塗りつぶされていた。能力者に間違いはないが、どんな能力なのかも、どうしてコイツが実験に必要なのかも分からなかった。だから触れようとした時、思わず能力で跳ね返した。だがソイツは怯えることなく、静かに口元を釣り上げ、――歌った。
期間は一週間ほど、夕方6時頃に3時間ほど同じ部屋に押し込められ、ただ何をするでもなく同じ時間を過ごす。互いの情報は一切伏せられ、アイツの名前も年齢も何もかも聞くことはなかった。会話という会話もそこまでした記憶はない。薄っすらと覚えてはいるが、あえて思い出す必要を感じなかった。
それから十年―、あの女とは一度も会うことがなかった。いいや、会っていたとしても気づかない。会おうとも思わない。ただそれだけの記憶だ。

だがとある日、あの”歌”が聴こえた。

やっと誰からも干渉されない自分の生活を手に入れられた静かな時だった。いつもの様に缶コーヒーを買って自宅のマンションに向かう最中、丁度夕暮れ時だ。どこからともなく女の歌声が聴こえてきた。そしてそれは何故だか”聴いたことがある”モノだった。自分の脳に直接語りかけてくるような……”あの時”の音と同じ。少しだが気になり歌の方へと足を進めれば、とある公園に辿り着いた。
そしたら―――あの女がいた。
公園のベンチへ腰かけ、空を仰ぐように歌うアイツ。そしてその目の前にはグズグズと泣きじゃくるガキ。しばらくその光景を見ていたら、同じく周りに居た通行人達も足を止めてアイツの歌を聴いてるのに気づく。そしてその歌が終わる頃には泣いていたガキは笑っていて、周りで聴いていた通行人は拍手を送っていた。いつの間にか集まっていたギャラリーにアイツは驚くように慌てていて、身を隠す様に体を縮こまらせていたがあまり意味はなかった。その時に風紀委員ジャッジメントらしき女が現れ、そのままガキを連れていく。どうやらあのガキは迷子で、それで泣いていた所をあの女が時間を稼ぐ為に歌っていたらしい。一人になったアイツはベンチに置いていた自分の鞄を持つと、そのまま自宅に帰るのか公園から出ていく。丁度その動線に――オレはいた。

『あの……えっと、どちら様……でしょうか?』

その女は、不思議にオレを見つめた。
気づいた時にはその女の手を掴んでいて、オレは自分の行動に少し驚いた。オレの見た目に驚いているのか、女は目を見開いて若干震えている。まァ、突然知らねェヤツに腕を掴まれて何も言われないでただ睨まれればそうなる。自分の行動が完全に不審者だっていうのは理解していたが、オレは特に何を言うこともなかった。
結局言葉を交わすことなく、その手を離した。それで終わればよかった。なのにどうしてかオレは、アイツを目で追うようになった。身元を詮索するつもりもねェし、知るつもりもねェ。髪の色も顔もまったく身に覚えのない女だったが、あの歌だけは………確かだった。
気づけばあの女と居る時間が増えた。アイツも最初は戸惑っていたが、次第にそれは慣れていつの間にかオレになめた口きくようにまでなった。アイツとは”ソウイウコト”もした。正直手を出すつもりは無かった。だが勝手に手が動いていた。汚れたドウブツみてェなコトをするのは癪だったが、結局は本能のままに動いた。所詮オレも欲にまみれたドウブツだったっつーワケだ。だがそこに何かがあるのかと言われたら、答えることは出来ない。アイツはそこに居て、オレはここにいる。
アイツとオレの間に言葉を当てはめるつもりはない。

ただ―――


あの日、アイツは帰ってこなかった。
あの日だけじゃねェ、次の日も、その次の日も、アイツは帰ってくることはなかった。部屋を漁ったが特に何の情報もなく、むしろ何も情報が無さ過ぎてオカシイくらいだ。アイツがオレに対して…いや、オレ以外にも、何かを隠していることは知っていた。だが別に興味は無かったし、アイツがオレのことを詮索しない分、オレもアイツについて干渉しなかった。この状態も普段の自分なら触れず、そのままにするだろう。
だがそうしないのは――オレも、頭がイカれちまったってことだ。

絶対能力進化レベル6シフト計画だァ?」

黒尽くめのいかにもな男が突然声をかけてきた。どうせくだらねェコト考えた研究者の回しモンだろうと思って話を聞くだけ聞いたら、やっぱくだらねェ。大体、今はあの女の捜索でそれどころじゃねーンだよ。一週間も音信不通所在不明とか、マジでふざけンな。どっかでのたれ死んでいたらタダじゃおかねェ…。
大体、レベル6になったからってどォーなンだよ。オレが今もこの先も学園都市最強だってことには変わりねェンだ。それ以上を望む理由がねェ。……だというのに、男は不適に笑った。

「この少女をーー、知っているかね?」

男は、一枚の写真を見せた。そこには、今まさに面倒かけられている……アイツの姿が写っている。

「あァ……そーゆーコトかよ」

ったく、何やってンだアイツは。
何か隠しているとは思っていたが、思ったよりそれはデカイものらしい。まったく話を聞く気にもならなかったオレだったが、仕方がないので話だけでも聞いてやることにした。

「彼女はこの計画にはずっと前から力を借りていてね、一度は離れていたのだけど、今再び手伝ってもらっているんだ」

偶然にも君たちは面識があるみたいだね。もし突然姿を消した彼女のことを探しているのだったら安心してくれ。彼女は無事だよ、今も我々の研究に十分な力を使ってくれている。そういえば、彼女も君に何も言えなかったことを後悔しているらしく、伝言を預かってきたよ。

「“計画が終わったら海に行こう”」

仲が良いんだね。
あの女の考えることは理解不能だ。このオレの頭脳を持ってすら、アイツのお花畑脳内は解析することはできない。ただ分かるのは――アイツは望んでこの計画に加担していないということだ。何が“終わったら”だ。何が“安心しろ”、“彼女は無事だ”ーだ。胡散臭すぎるンだよオマエ等、ンなのでオレが簡単に頷くと思ってンのか。

「くだらねェ計画に付き合ってらンねーンだよ、さっさと計画中止してアイツも解放しろ」
「まあそう言わないでくれ、君は確かにこの学園…いや、世界最強かもしれない。けれどレベル5の1位という括りで止まってしまっている。その先に行くことができたのならー、君のその肩書も、環境も、何かが変わるかもしれない……そう思わないか?」

男の言葉に、オレの耳は少しだが……傾いた。
オレの力は最強だ。だが、その最強をもってさえも、オレを取り巻く環境はくだらねェモンばかり。膨大な力を手に入れることはできても、それ以外は何も手に残らなかった。オレの力を巡って起きた争いは、いつしか世界を滅ぼすことだってあるかもしれねェ。だったらー……絶対的な能力を手にすれば、

「そォだな…少し考えてやってもイイぜ」
「では…」
「その前に、アイツに会わせろ」
「それは、出来ないことだ」
「なンでだ」
「彼女についてはまだ話すことはできない。この日、この指定した場所で、計画について君に話そう。判断はその時でいい。どうかね?」

紙切れに書かれた、日時と研究所の住所。
この計画に、どうしてアイツの力が必要だってンだ。確かにアイツの能力は少し特殊かもしれねェ。だが、レベルなンて大したモンじゃなかったハズ。

「それでは、待ってるよー。」

――ハズ、だ。



▼△▼




「よく来てくれた」

指定された日時、指定された研究施設へとオレは訪れた。
こーゆーのはくだらねェ事件のニオイがプンプンするが、別に前もって何かを調べるなンてことはしない。そんなことしなくたって、このオレは学園都市最強の存在だ。いざとなれば何にでも壊すことができる。ただ気がかりなのは――あのバカ女のことだけ。
再び現れた黒尽くめの男のあとをついて行くと、一際大きな空間へと案内される。薄暗くいかにもな場所へ連れてこられて何を見せられるのかと思ったら、そこにはイカれた光景が広がっていた。
無数の培養器に眠る…人型の“ナニ”か。

「国際法で禁止されたクローンの大量生産たァ…オマエ等イイ感じに頭のネジ飛んでンじゃねーかァ」

樹形図の設計者ツリーダイアグラムの算出した計算を元に組み立てられた絶対能力進化レベル6シフト計画。レベル5である学園都市第3位“御坂美琴”のクローンを一万八千体用意し、一万八千通りの戦場と戦略で交戦することにより、絶対能力者レベル6になれるという。そしてこの計画に最も近いとされる被験者に、この一方通行が選ばれた。
なンつー計画だよ、こりゃァ。

「――で、あの女は今、ドコに居る」
「まあそう怖い顔をしないでくれ、彼女の姿を今映すよ…」

ブォン――
目の前に現れたモニターが音を放ち、そこに映像が映し出された。それを目にした瞬間、どこからともなく湧き出た”なにか”によって表情筋がピクリと痙攣するかのような自分でも知らない衝撃が走る。オイオイ……なンだよこりゃァ…なんなンデスかァ?
気づいた時には、目の前の男の喉を絞めていた。

「がッ――!」
「オイ、アイツになにをした…」

「そう…怖い顔をしないでくれ、彼女は実験を成功させる為の鍵なんだ」
「カギだァ…?」

映像に映し出されたのは、無数のコードで繋がった不気味な容器に横たわる…アイツの姿。まるで死んでいるかのように目を瞑り、静かに眠っている。

「彼女はこのクローンを製造するにあたって一番重要な役割をしてもらっていてね、オリジナルである超電磁砲のDNAマップによってこのクローン“妹達シスターズ”は造られているのだが、よりその精度を上げるために彼女…“音響操作”の力を借りる必要があるんだ」
「音響…操作……?」
「おや、君はまだ…彼女の能力を知らなかったのかね?」

彼女の能力は…音を感知、操作することの出来る能力………そして未だ発表されていないこの学園都市8人目となる――レベル5、
音響操作サウンドプレイヤー”だ。

「ハッ………マジかよ、」
「それが発覚したのはつい最近だから、まだ精密な数値は出ていないんだけどね。まあこの計画が終了したら…ハッキリするだろう」

アイツが――レベル5?
オイオイなに言ってやがンだこの男は。何の冗談だァ?ドッキリですかァ?…そう笑い飛ばせるほど、この状況は穏やかではねーな。今までにアイツの能力について少し不審に思っていたことはあったが、通りで…納得がいったぜ。タダの地獄耳だと思っていたが、ンなこと隠してるなんてなァ。それにあの様子じゃ、アイツも自分のレベルについては気づいてなかったみてーだし。まァだからって、オレが何か変わるわけでもねェ。
ただ、オレは変わらなくても――コイツ等は違う。

「アーーくだらねェ、こンな実験付き合ってられっかよ、オレは降りるぜ」
「どうしてだい?」
「確かに絶対的能力を手に入れるのも悪かねェ……だが、その女の世話になるってーのが気に食わねェンだよ」
「………そうか、」
「だからさっさとソイツを――、」
「言っただろう、彼女は”鍵”だと」

男はニヤリと笑い、何かボタンを押した。モニターの映像が切り替えられ、何やら計画書のような文字だらけの映像が映し出される。大きく記された一文には、『絶対能力進化レベル6シフト計画―被験者:音響操作―』と記されていた。
音響操作の脳波と一万体のミサカネットワークをリンクさせ、ウィルスを投入することにより、音響操作の力が暴走し、一時的にレベル6に到達する可能性を秘めている。だが継続は不可能とし、代償に半径50km距離に膨大なエネルギーが放出、クローン一万体と能力者本体の活動はその時点で終了すると予測される。

「なン…だよ……コレは、」
「君がこの計画に参加しないというだけで、計画は簡単には終わらない。第二プランはもう着々と準備を進め、今すぐにでも開始することだって出来る。だが我々はこの第一プランを勿論優先としたい。この”絶対能力進化レベル6シフト計画”で唯一安定させることが出来るのは――君だけなんだよ、一方通行くん。レベル6というのは――そういうコトだ。」
「……………チッ」

ふざけンじゃねェ、
オイバカ女、なにそンなトコで寝てンだよテメェは…。絶対能力進化レベル6シフト計画だ?第二プランだ?何でオマエがそんな大層なモン背負ってんだよ。笑わせンな。いつもへらへらとバカみてェに煩いだけの女だろお前は…。そしていつも、オレのことをかき乱す―…。

「絶対的な力……」

そうか――、それさえ手に入れれば……全て終わる。
オレに向かうことがバカに思えるくらい、オレからアイツを奪おうと思うことすら―、考えることさえできなくなる位の、力を手に入れればいい。

そしたらアイツはまた――…





絶対能力進化計画


 

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