| あの日――、私は敗北した。 暗部組織”アイテム”と戦闘になった私は、自身の最終手段である無差別音響攻撃を発動させた。結果、麦野達の戦闘を不能にすることが出来たのだが…、その後を狙われてしまった。そもそも、ヤツ等は最初からこのつもりだったのだ。学園都市の第4位の力を使って私の力を戦闘不能とさせ、そこにつけ込んで捕獲を目論んでいたのだった。私の意識はそこで途切れ、目を開けるとそこは……見慣れた、研究施設の天井。再び悪夢が始まったのだと、自覚した。 ” 凍結した” そしてその妹達を製造するにあたって、音響操作である私の脳波を疑似した音を生成しプログラムすることで、オリジナルの1%にも満たないクローン達の性能を3%にまで引き上げることが可能と判明。 「なんて……なんて、ことをッ…」 泣いたって、喚いたって、実験は進められる。 もう私の意思ではどうにもできない所まで、進んでしまった。 「助けてよぉ……一方通行ぁ…」 [実験が開始する数日前] 研究所での生活は、生きていないのと同じだった。 あの頃のように視界は奪われ、長かった髪も実験の邪魔だと言われ肩まで切られてしまった。部屋は対音響操作用に造られたと思われる音を通さない空間、電子機器はハッキングの怖れがあると見られ置かれていない。前科がある私は、能力を発揮できぬよう厳重に拘束されていた。 「食事をお持ちしました。…と、ミサカは細心の注意をはらって食事を運びます」 「なんで………あなたがここに…っ」 何もない部屋でベッドに横たわる私の前に、一人の少女が現れた。部屋の中では目隠しを外すことを許されているので、しっかりとその顔が目に映る。学園都市第3位と謂われる” 「今日からお姉さまのお世話をするよう申しつけられました、ミサカ1号です。とミサカは自己紹介をします」 「お姉…さま?」 「アナタの脳波はミサカを造る為の源だと聞いています。なのでお姉さまも同然だと、あの方が言っていました。とミサカはお姉様とお呼びする理由を正直に伝えします」 あの方…というのは、どうやら布束砥信のことらしい。彼女…そんなことを言っていたのか。 妹達の一人はトレイに乗った食事を慎重な足取りで私の寝るベッドまで運んで、隣のテーブルにそれを置いた。そしてどこからか椅子を引っ張り出してきたかと思えば、彼女はベッドのすぐ傍に椅子を置いてそこに静かに座った。私たちの目が合わさり、そして数秒の沈黙が生まれる。 「………え、なに?」 「お姉さまは実験によって動くのもままならないと聞きました。なのでミサカが食事のお手伝いをします。とミサカはやる気満々でスプーンを手に取ります。」 「いや、食事くらい自分でできるから……それに食欲ないし、あなたが食べていいよそれ」 「ミサカの身体は食事をしなくても大丈夫なように造られているので、食べる必要性がありません。」 彼女はさも当たり前のように、淡々とした表情でそう言った。そう、彼女たちは人工的に生み出されたクローン…、純粋な人間ではないのだ。けれどその姿を目の前にして、どうしてもこの子が”人間ではない”と思うことが、私には出来ない。確かに端的にしかモノが言えず、自分のことを人間だと彼女たちすらも思っていない。でもアナタは今――、ここにいる。 「食べる必要性はありません――が、どれもデータには入ってはいますが実際口にしたことはない…と、ミサカは興味津々にアナタの食事を見つめます」 「食べてみる?」 彼女の光のない瞳が静かに揺らいだ気がした。 「はい、あーん」 「あーん…とは、一体なんでしょうか?それにこれでは、お世話になっているのはミサカの方になってしまいます。とミサカは首をかしげて問いかけます」 「あーんってのは、……誰かに食べさせてあげる時のおまじない…的な?」 「なるほど…とミサカはどうして疑問形なのか不思議に思いつつも納得の表情を見せます。」 あーん と言って、彼女は私が差し出すスプーンに乗った肉じゃがを、口を大きく開けてぱくりと食べた。 「どう?」 「甘じょっぱいタレがホロリと口の中で崩れるジャガイモと細切れにされた牛肉に染み込んでいます。つまり、とんでもなく美味しいです。とミサカは初めての肉じゃがに感動の意を見せます」 「そう……よかったね」 ほら、こんなの……人間と変わらないじゃない。 [実験開始から数か月] ” それを聞いた時、私は耳を疑った。どうして、どうして承諾をしたのだ。彼は確かに幼い頃から暗闇の道を進んできてしまったのかもしれない。けれど――一緒に居て、彼の心の奥底までも闇に染まったわけではないのだと知ることができた。なのにどうして…こうなってしまったのだろう。 私が必死に助けを求めたその手は…振り払われてしまった。 「やめてッ!!!」 「っ……すいません、起こしてしまいましたか」 「あ……、」 最近、彼女たちの見えたものが私に見えるようになった。それは私の脳と彼女たちの脳が少しずつ干渉しているということ。けれどまだそれは不確かで未完成なもので、常に見えているわけではない。それに、彼女たちからは私の意思は届いていないだろう。壊れたビデオのような砂嵐の中に見える……彼女たちの見て来たもの。彼女たちが最期に見たものが――見える。 始動した実験は、着々とこなされていく。最初に出会ったあの子はもう――この世にいない。まったく同じ顔、同じ声、同じ思考のあの子が毎日のように私の世話をするが、昨日会ったあの子は帰ってこない。そしてあの子たちを殺したのは―――、 「食事をお持ちしました。とミサカは慣れた手つきで準備を進めます」 「いらない……あなたにあげる」 「ですが、お姉さまはここ数日まともに食事されていません。とミサカは心配の眼差しを向けます」 「食べれ…ないよ………あんなの、見て…」 「あんなの…?」 よくアナタは平気でいられるね。…なんて愚問だ。彼女たちは生まれた時から、そう教えられて生きて来たのだから。だからといって彼女たちを人形だとは思えない。誰でも、生まれた時は真っ白で真っ新な状態。そんな白を黒く塗りつぶしているのは紛れもない私たちなのだから。彼女たちは悪くない。 |