ここ数日、度々研究所が何者かによって襲撃されているという情報を妹達が聞いた音によって得ることが出来た。その犯人に目星はついている。――オリジナルだ。
彼女はきっと、この計画なんて知らなかっただろう。そもそもクローンが生産されていること自体も、彼女の耳に入っていなかっただろう。私は一度、彼女――”御坂美琴”に会ったことがある。それはただの偶然で、彼女はきっと私のことを認識すらしていない。そして彼女の周りは皆笑顔に溢れていて、この計画のことを知ったらどう思うのだろうと……思った。
そんなの、考えるまでもない。

私の連れられていた研究施設はその襲撃を受ける前に避難させられ、目が覚めるとそこは知らない施設になっていた。彼女の襲撃によってこの絶対能力進化計画に加担している研究所のリストは全滅…となるハズだった。けれど資料や情報がばら撒かれ、その施設は百を越えてしまう。よほど、研究者はこの実験を成功させたいらしい。このことによって彼女の心が折れ、もう襲撃してこないかもしれない――…そう思ったが、私はもう1つの…ほんの数ミリしかない可能性に賭けてみようと思う。

8月21日―――その日が来た。

私のいる施設は、”超電磁砲レールガン”の襲撃によって急遽の避難が必要となった。研究施設内はサイレンが鳴り響き、騒ぎ出す研究者たちの声が聞こえる。担架で外まで運ばれた私の周りには、白衣を着た研究者しかいない。
今しかないと思った。

「はぁ…はぁ…ぁ……はぁッ……!」

体中が麻痺しているようだった。
足もロクに動かせない……頭も意識が朦朧とする……それでも、動かなくてはいけない…。ここ最近ずっとあの箱の中に入れられて唯でさえ運動不足だし食事もろくに取れてないしで…最悪だ。しかも逃げ出す為にそもそも消費させられた能力を大分使ってしまい、今は体力も能力もほとんど残っていない状態。それでも今動けるのは、今しか――ないから。

次の実験開始時刻・場所は
8時半、第一七学区の操車場

私と麦野が交戦した場所だ。アイツ等にとっては都合の良い場所だったってことね……ほんと、つくづく掌の上だ。
ここからの距離はそう遠くはない―が、近くもない。それに今の私の状態だと……到着する頃には、実験は終わってしまうかもしれない。タクシーを使いたいところだが、きっと私が抜け出したことは既に報告されているだろうから、移動手段は絶たれていると思われる。だからと言って”行かない”という選択肢は…私にはなかった。今の私に出来る、最大の無茶は……ここしかないから。

「はぁ…はぁ……きっつ……」

歩いても、歩いても…近付いている気がしない。
時刻は今…何時だろうか……さっきビルにあった時計を見たときは確か20時だった気がする……どうしよう、もう、始まってしまう。

「見つけましたよ、お姉さま」

その時、聞きなれた声がそう呼んだ。

「なん…で………」
「お姉さまが逃げ出したと報告を受け、捜索しろとの命が下されました。とミサカは説明します」
「っ……そう………」

彼女たちは命令をきくまでだ。
けれども私は彼女に会うことが出来て…ほっとした。その瞬間足の力が抜けて倒れ落ちそうになったが、彼女がその体を支えてくれて地面に叩きつけられることはなかった。

「あの機械がないから…あなたと話せなくて困ってたの…」
「なにかミサカに御用でしたか?とミサカは首をかしげます」
「うん―――……あの約束、覚えてる?」

私たちの、約束。
息も絶え絶えに彼女の顔を見れば、彼女の瞳が少し揺らいだのが分かった。

「…はい、覚えています」
「お願い……私を、今――助けてくれない?」



▼△▼




第一七学区で大きな爆発があった。
私は妹達である彼女にあの時の約束だと言って、ある場所まで連れて行ってほしいとお願いをした。私を連れ戻しに来た彼女にこんなお願いおかしいのは分かっている。それでも彼女は静かな声で――「少し、寄り道するくらいなら…いいと思います」――と言った。
彼女たちのミサカネットワークを介して受けた情報によると、実験はもう開始されているとのこと。けれど予期せぬ人物の介入により、実験はまだ終了となっていない。実験体であるミサカ10032号の意識は今は途切れ、状況は不明だと…彼女は言った。
その”予期せぬ者”というのが一体誰なのか問うてみると、彼女はその人物をどうやら知っているようだった。

「”あの人”は――どうして、」

彼女は小さく、そう言った。

彼女の肩を借りてなんとか第一七学区に入ることが出来たところで、風向きが突然不自然に渦巻くように吹いているのに気づく。それはある一点に集中するようで、不穏な色を見せていた。その一点は…実験が行われている場所の方だ。一体何が起こっているのだろうか?予期せぬ人物の介入というのは…誰なのか?兎に角、急がなければいけない。そう思い足を進めようとしたその時―、私を支えていた彼女の足が止まった。

「……10032号から指示がきました。とミサカは伝えます」
「え…?」

一方通行の能力により空気を一点に集中させたプラズマが発生し、現在その威力は拡大している。そしてそれを阻止する為には、彼女たち”妹達”の力が必要なのだと……超電磁砲、御坂美琴が彼女たちへお願いした。学園都市の風車を妹達の欠陥電気レディオノイズを使って操作し、逆回転させることによって風の圧縮を崩すことができるのだ…と。

「本当に……妹使いが荒いですね、ミサカのお姉さまたちは」

彼女はそう言って、微笑んだように見えた。

「もう……大丈夫、あとは一人で行けるから」
「ですが……、」
「私はもう十分助けてもらったから…”本当のお姉さま”のお願い、聞いてあげて―……行きなさい。」

ポン…と、彼女の背中を押した。
そして私は、空に渦巻く壮大な力を見上げる。あそこに、一方通行がいるんだ。

(もし行って…会えたとして、彼は私を……見てくれるだろうか?)

ふと……そんな不安がよぎった。

(私なんかの力で――…)

どうしよう…………怖い。
でも、行かなきゃ。
渦の中心は、もうすぐそこだ…。


▼△▼



「もう一人も…殺させはしないッ!!」

妹達の力により生成されていたプラズマはみるみると消えていき、強い風があたりを吹き荒らしている。
フェンス越しに見えたのは、妹達とオリジナルである超電磁砲と、そして……ボロボロの姿で向かい合う、一方通行。彼があんなに傷を負っているのは、初めての光景だった。一体誰があんな姿にしたのだろうか、それは…彼の後ろで倒れている人物に、関係しているのだろうか。ここからではその人物が誰なのか分からなかったが、どうやら男性のようだ。

「ったくよォ…何を言い出すかと思えば、姉妹ごっこかよ……くだらねェ」

一方通行は大きく二人をあざ笑い、声を荒げて言い放った。普段の彼とは全然違うその表情は、恐怖を感じさせる。

「一人も殺させねェ?図に乗ってんじゃねーぞ格下がァ…!」

彼の闇の部分、それは分かっているつもりだった。
この学園都市で、第一位という座に就き、驚異的能力を持つ彼。初めて彼に会った時――、彼の瞳には光がなかった。言い方も、言葉も、態度だって…きっとそれは”良い”ものではなかっただろう。けれど私は、全てが全てそうじゃないと思ったのだ。確かに彼が世間に向ける眼はとても冷たく、酷くも思えるものだ……だけど、本当に彼が全て”悪”だというならば――、

「殺さねェと、犠牲にしねェと……終わらせることもできねェことだってあンだよ…ッ!」

私に向けてくれたあの瞳を、私は嘘だと……思いたくない。

「あくせら…れー…たぁ……ッ!」

絞りだすように出た私の声は、彼には届かない。

「学園都市最強の力を持ってたって、オレは…アイツを――…ッ

その時、誰かが立ち上がった。
一方通行の後ろで倒れていた”誰か”が。

「え……かみ、じょう…くん?」

上条当麻が、そこにはいた。
血まみれになって、もう立ち上がるのもやっとだろうって状態で、上条くんは拳を握り締めて立っている。どうして彼が―?どうしてこんな姿に―?そんな疑問が出てくるけれど、それよりも…今は、

「オマエ…なンなんだよ……何で…オレの邪魔をする………ブッ殺してやるッ―!!!

どこか、一方通行の声が震えているように感じた。そして彼は勢いよく飛び、一気に上条くんへの距離をつめる。
もう見ていられなかった。やっぱり……アナタは私の知る一方通行だ。乱暴で、不器用で、壊すことしか出来なくて、それでも必死に………私を守ろうとしてくれてる。
もう、終わりにしよう――。

「もうやめて!!一方通行ッ!!!!」
「ッ!?」

最大限に叫んだその声は、能力もなにも使っていない…真っすぐな声だった。

「歯を食い縛れよ……最強………俺の最弱は……ちっとばっか響くぞ……ッ」





8月21日


 

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