| 全てが終わった。 学園都市レベル5第一位” その後、私は意識を失い病院へ搬送された。ここ何か月もの実験の所為で一時意識不明となるも、とある医者のお陰で再びこの世界に戻ってくることができた。 私と同時に倒れていた一方通行の様態は大したことはなく、彼はすぐに完治して元の生活を送ることとなる。けれど夜中、度々私の病室へと現れ、彼は何をするでもなく静かに…いつものように時を過ごしていた。 妹達に関してだが、彼女たちは元々実験の為に造られたクローンであり、普通の人間よりも寿命が圧倒的に短い。だがそれを何とかするため、彼女たちを世界各国の施設に送り治療をすることとなった。この学園都市にも数人は残っていて、彼女たちは今もしっかりと…生きている。 そして上条当麻は、しばらく入院していた。 彼がどうして一方通行と交戦したのか、それは彼と超電磁砲に繋がりがあったからだった。彼がおせっかい焼きで真っすぐな性格をしていることは知っていたので、すぐに察しがついた。けれど自分の命を張ってまで彼女を、彼女たち、そして私を救ってくれた彼に…感謝してもしきれない。 だから一度彼にお礼を言おうと、同じ病院だったので彼の病室へと訪れた。けれど目が合った時、彼に「病室間違えてませんか?」と言われ――私は違和感を覚えた。もしかして一方通行との交戦で脳に損傷でもあったのだろうか?そう思って「はじめまして」と彼に言うと、彼は少し戸惑いながらも「は、はじめまして…!」と返したのだ。その時はそれだけの会話で終了したのだが、疑問に思って私はあのカエル顔の医者に話を聞いてみた。 彼は1ヶ月ほど前に事故で記憶を失ってしまっていたらしい。今回の戦いによってできたものではないのだと聞いて少し安心するが、彼にそんな出来事があったのだと少し驚いた。 今度会う時は、もう一度お友達になろう。 「風がきもちぃー!」 意識が戻って数日、私の能力は徐々に元通りになっていった。体もそれなりに動くようになったし、むしろ今は動けなかった分暴れたい気分だ。だからこっそり病室を抜け出して、近くの電波塔まで訪れていた。この電波塔はかなり高さがあるので、真夏でも上の方は結構涼しく感じた。 鉄鋼に腰かけ、青々とした空と吹く風を盛大に感じる。ここからの景色は学園都市を一望することが出来て、言えば窓のない展望台だ。もちろん一般人は、立ち入ることができない。 プルルルルルルルル その時、携帯電話の着信音が鳴り響いた。画面を見ればそこには”バカ”と表示されていて、私は思わずクスリと笑ってしまう。そういえば以前喧嘩した時に登録名を”バカ”にしたまま変えていなかったんだっけ。見つかったらタダでは済まされないな…後で変えなくては。とりあえず私は、通話ボタンを押した。 「もしも―…」 『オイ、どこに居やがンだこのバカ』 「あー…あはは、ちょっと気分転換に…」 『いいからさっさと戻って来い』 一方通行…めちゃくちゃ怒ってる。 昼に来るなんて珍しい。お陰で外出したことがバレてしまって、私の自由時間は束の間だったなと苦笑いする。それにしても、前までだったら私がどこに居ようと何をしようと何も言ってこなかったというのに、ここ数日はどこ行くにしても何をするにしても彼の許可が必要だ。いや、普通はドクターの許可なんだけど。そして私が少しでも破れば、今みたいに物凄い声と形相で怒ってくる。 「あ、ねえ一方通行」 『ア?なンだよ、それより早く場所教えろ』 「病院の屋上に来てよ」 『ア"ァ?』 「はやくー」 『テメェ………チッ』 さっさと戻って来いって言っておきながら場所教えろって、それって迎えにきてくれるの?どっちなの?って私は静かに笑う。 屋上に来るようお願いすれば、彼は私が病院の屋上にいるのだと思ってそのまま電話は切らず歩き出した。その間に「お昼ご飯なに食べた?」と聞けば「コーヒー」と返ってきて、それは食べたうちに入らないよと呆れて返す。しばらくして電話から聞こえてきた風の音に、彼が屋上へと到着したのが分かる。 『オイ………いねェじゃねーかよ…』 さらにドスのきいた、低い声が聞こえた。 「うん、今から教えるから、むかえにきて!」 『は?オイ――ッ』 プツッ―― 電話の通話は切れ、私はその場に立ち上がった。 騒がしい街の喧騒は観客だ。そして包み込むように広がった空は大きなホール会場。キャストは私ただ一人だけ。 届けるのは――――アナタ。 私は、歌った。 両親のことはあまり覚えていない。私が学園都市に連れられてまもなく、事故で亡くなってしまったから。顔もあまり覚えていなかった。だけどその”音”だけは覚えていて、それが後に”歌”なのだということを知る。そして歌が終わると、必ず最後に…「愛してる」と言うのだ。気づけば口ずさむようになり、もう一度私はあの音を聴きたくて何度もマネをした。この力があれば他人の音を100%再現することだって可能だけど、その音だけは何度やっても再びこの世に生まれることはない。その人がいて、感情があって。魂があって、初めてその”音”は完成することができる。そんなことに気づくまで、私は随分な時間を過ごしてしまったようだ。 でも今は分かる。 私の歌は、こうやって歌えばいいのだ。 「ったくよォ……手間かけさせやがって」 コツ、コツ…と足音を鳴らせて、その白い影は相変わらずの仏頂面で私に言う。低く掠れた声は怒りというより呆れを表していて、でももう一つ見え隠れする声色に私はクスリと笑った。びゅうびゅうと吹く風が髪を揺らしてなびいている。1m幅しかないむき出しの鉄骨道を、一本道を歩くようにして彼はこちらへとやってきた。 「見つけてくれるって信じてた」 「あンだけ音まき散らしてれば、中心元なんてヨユーで特定できるっつーの」 「ううん……たとえ一方通行に能力がなかったとしても、きっと見つけ出してくれるよ」 「…………」 ピクリと眉を揺らし、一方通行は顔を顰めた。けれどすぐに表情は変わり、彼は私が真っすぐ見つめる学園都市の景色に視線を向けて「あァそうだな」と静かに答えた。 「つーか、どォやって上ったンだよオマエ」 「え?そりゃあ能力使ってぴょーんとね」 「……………」 なんたって私、学園都市8人目のレベル5らしいので? どうやら私の能力レベル値は正式に”レベル5”と結果が出てしまったらしい。まあ今更そんな数値に興味も拘りもないので、聞いたところでふーんだった。でもきっと、私を取り巻く環境は大人しくさせてはくれないだろう。この学園都市にいる限り、私たちはアイツ等のモルモットなのだから。 この電波塔に上るのは案外簡単だった。壁のように音が跳ね返る素材さえあれば、そこに超音波を何重にも組み合わせて音のベッドを創り上げることができる。それを勢いよく飛ばしていけば、自分の体くらいは浮かせることが可能なのだ。ただ周りに何もない状態だと飛ぶことは不可能なので、空を飛ぶというよりは一時的に飛ばすことができる…といった感じ。一応軽く落下しても体を受け止めるて降りることはできるけど、高い場所から急降下した場合は落ちるエネルギーが半端ないので落ちる速度を軽減させるくらいしかできないかもしれない。しれない…というのは、まだやったことがないので分からないからだ。今度一人で実験してみよう。 「帰ンぞ」 「えーもう?」 「調子乗ってンな、病み上がりが」 「はーい」 どうやら時間切れのようだ。もう少し外の空気を感じていたいところだったが、これ以上は本当に怒られる。一方通行にも、ドクターにも。 「……さっさと直せ」 「うん、ごめんね…ありがとう」 「ンで…………、行きてェとこ、あンだろ」 「え…?」 いつだったか、私たちが出会って少し経った頃……”海”を見たいと言ったことがある。今までに海を疑似した施設や映像などを目にしたことはあるが、実際に見たことはなかった。一度彼にも”海を見たことはあるか”と尋ねたことがあったが、彼は”ない”と答えた。だったらいつか行きたいね…って、戯言のように言ったのを覚えている。 そしてあの実験が始まる少し前、私は彼に何も言えないまま研究施設に拘束されてしまった。その時にたった1つだけ彼に伝言を伝えることを許され、もちろん”助けて”なんてことは言えるハズもなく、私はあの時の戯言を……伝えたのだ。 『計画が終わったら海に行こう』と。 アナタとまた再び何事もない日々を過ごせますように、そしてこの計画をどうか誰も傷つけずに終わらせてほしい……そう願いを込めて。けれどあの時の彼にはその願いは届かず、そして過ちを犯してしまった。 「ねえ、一方通行」 この罪は決して許されることはない。 償いの為に全てを投げ捨てることも…私にはできる。けれどそうしなかったのは、私にもやっと”生きる意味”が見つけられたからだ。その手を放したくない。ずっと、この先も私の命が音を奏でる限り、私はアナタを守りたい。 「”好き”って言っても、いい?」 この関係に名前を付ける気はないけど 「好きにしろ」 とある音響操作 [完] |