| 「髪伸びてきたねぇー」 いつからか風呂上がりの濡れた髪を私が乾かすようになり、今日も私は一方通行の髪にドライヤーをあてる。この時だけは大人しく目を瞑っていて、まるで猫のような彼に笑ってしまう。一方通行の髪って意外にもふわふわサラサラで、触っていて物凄く気持ちいいんだよね。きっと彼の反射の影響もあるのだろうけど、髪の伸びはさすがにどうにもできないのでモッサリとなってきた。 「切らないの?」 「メンドクセェ」 「でもそんな長いと、また女の子に間違えられちゃうよ?」 「…………」 こっわ!物凄い勢いで睨まれた。 怖いのは怖いけど、でもその顔はやっぱり綺麗だ。それに一方通行の身体って物凄く華奢で身長もそこまで高くないから、よく女の子に間違えられる。まあ、顔意外は全然可愛くなんてないのだけど。 「……まァ、うぜーし切るか」 「あ、じゃあ私が切ってあげようか?」 「切れンのかよ…」 「やったことないけど出来る気がする!」 「ぜってー触ンな」 パシッと手を払われてしまった。そんな否定することないのに…酷いなぁ。まあ、いつも自分の髪も美容室で高いお金払ってやってもらっているので、人の髪を切るなんて未知の経験だ。髪を切るくらいなら私でも出来る気がするんだけど…この調子じゃ一本も触れさせてくれなさそう。 「美容院行くの?」 「ンなこたァしねーでも自分で切る」 「え、切れるの?」 「今までもそーしてきたからなァ」 「そうだったんだ、意外」 「つーかいつまで触ってンだ」 「うわっ」 ドライヤーでふわふわになった髪が気持ちよくて好き放題触っていると、さすがに怒ったのか一方通行はそのまま私の居る後ろに倒れ込んできた。そんな突然の重みに耐えられず私の体も一緒に傾き、後ろにあるソファが支えになって転倒することはなかった。私の腕の中には一方通行が居て、まるで私をソファ替わりにもたれ掛かっている。いつまで触ってるんだと言っておきながら、離れない彼に私はどうしたのだと焦ってしまう。でもこんなの滅多にないので、胸元にある一方通行の頭を私はもう一度優しく撫でてみた。 「一方通行の髪って気持ちよくてずーっと触ってられるね」 「アーそォーかよ…」 あれ、怒ってこない? なんだなんだどういうことだ?ここからじゃ顔は見えないけど、彼の呼吸を聞く限りどこか安心しているような音だった。これじゃ本当にまるで猫だ。顎とか撫でたら…怒るかな。さすがにやめておこう。 「眠いの?」 「……………ンー」 眠いんだ。 私にもたれ掛かったまま猫が喉で鳴くような声を出し、一方通行は目を瞑って静かに呼吸をする。普段の彼からしたらありえないその光景は、このまま博物館で展示できるほど珍しいものだった。そういえば猫って、野生だったら絶対にお腹見せないけど、飼いならすと気を許してお腹を上にして眠るって言ってたっけ…。今まさに、そんな状態のように思えた。普段まったく可愛くない彼だけど、今はものすごく………可愛い。 「あくせらさーん?」 「………………」 「ねちゃったのー?」 「………………」 「わたし、うごけないんですけどぉー…」 これはアレだ、よくアニマル動画とかで見る…うちの猫が膝の上で寝ちゃって動けない〜ってヤツだ。完全にそれだ。それでしかない。 「うるせェ……」 「あ、おきた?」 「……もォ少し……このままで、いさせろ…」 どうしたものかと彼を抱えながら一息つくと、静かに掠れた彼の声が言葉を紡いだ。もう完全に寝言のようなその声は、起きる気がまったく無さそうである。そしてそう言われてしまえば、もう……私は動けないのでした。 仕方ない。こんなにも甘えたな彼ははじめてだから……今回はその可愛さに免じて許してやろう。普段は嚙みちぎってくるわ暴言吐くわで酷い仕打ちだっていうのに、こういう時だけ甘えてきて……ああなるほど、さっきから言っているけど、もう…これは完全に猫だ。 「子守唄、歌ってあげるね」 「………………」 彼は何も言わなかったので、私は静かに…囁くように、子守唄をうたった。母が私に歌ってくれたように、優しく静かに、あなたの為を想って歌うのだ。安らかな音を奏でて。 ”愛する、あなたよ――” 「明日の晩御飯は、おさかなだね」 |