| (最初だけ微エロ注意) 今と昔で変わったところはありますか?――と聞かれたら、答えはもう“あります”以外のなにものでもない。環境……と一括りに言ってしまえば簡単で都合がいいけれど、そんな一言では変えられないくらい色々なことが変わった。でもまあ、何が一番変わったかと問われればそれは“彼”だろう。 「ぁっ……」 二人で暮らすようになって、以前よりも夜の行為が少し増えた。例の実験の前もこういった行為はしていたけれど、今よりは数は少ない。あの時は私たちの間にこんな感情があるなんて思わなかったし、あれはただの欲を吐き出す行為でしかなかった。それに、彼の気が乗った時だけのもので……私からなんて事は殆ど無い。 でも今はお互いの考えがそれなりに分かるくらいまで私達は同じ時間を過ごし、気持ちだって伝えあった。だから自然とこうして重ねる回数も増え、それは重ねるごとにどんどんと深いものへと変わっていく。 「っ……出すぞ、」 「うん…っ……ぁっ…一方通行っ…!」 「………クッ…」 彼の体に手を回し、愛おしく抱きしめる。そしてより深く彼が私の中に入り込むように身を寄せた。その時に彼の唇が私の首筋に埋まる――…。 私はおかしいのかもしれない。 この時見つけた違和感は、もしかしたら私を大きく変えてしまうのかも。 「あら、あの男と別れたの?」 「へっ?」 私は今、第三学区のとある高級ホテルにいる。前はそれなりに訪れていた場所だったけれど最近はそんなこともない。何故なら、私がここに来る理由は2つしかないからだ。 1つは、暗部組織“アイテム”のサポートバイト。もう1つは、同じく彼女たち“アイテム”の――ただの暇つぶし。今日は後者である。 ……というか、前者はもう二度とないだろう。それに彼女達と一戦やり合って私の素性もバレて縁は切れたものだと思っていたのに、何故か麦野は私へと連絡を寄越す。今日だって突然電話(番号教えてないのに)かけてきて開口一番「あんた暇?ならいつものとこ来なさいよ」だし。 彼女の言う“いつもの”と言われる第三学区にある高級ホテル内の貸切プライベートプールは、相変わらず高級気取りが楽しむには十分な佇まいをしていた。プールサイドにあるリクライニングチェアに寝転びながら優雅にカクテルドリンク(アルコールがあるのかはあえて聞かない)を飲む麦野に、プールに入って浮き輪でふよふよ浮かぶフレンダと最愛、そしてもはや水死体にしか見えない滝壺……安定すぎて笑ってしまう程だ。 「べつに…別れてないけど」 「あそうなの?」 プールにやってきた私を見るなり突拍子もなく麦野に言われた台詞に、私はただ不思議と首を傾げる。麦野の言う“あの男”というのはおそらく“彼”ではなく“アイツ”だというのは分かっていたけど、否定したとしても面倒なのでもうそういうことにしようと思う。――それよりも、なんで「別れた」なんて言われたのだろうか…。その疑問は、次の麦野の言葉で分かった。 「いや、あのえげつない痕が無いからてっきり別れたモンだと思ったわ」 「えげつなっ…!?ま、まあ……確かに、今日はそんなことない…か」 あの時の私の体は、確かにパッと見は心配されるレベルで酷い体だっただろう。どこの戦場に突っ込んできたんだと言われても仕方のないような悲惨な痕が身体中に散りばめられていた。 でもその痕は別に本当に戦ったとかそういうわけではなく、全て“あの男”に付けられたものであり――、私はそのことを彼女達にうっかり言ってしまった。そして彼女達の中で私の彼氏は“DVするヤベェ奴”みたいになってしまっている。 けれど今日の私の体はそもそもどこにも痕という痕は無く、そういえば最後に痕をつけられたのは一週間前でもう消えてしまっていた。そこで私は、はたと気づいた。 「そういえば……最近痕つけられないな」 「へえ、良かったじゃない」 「う、うん……」 キスマークのような痕を付けられることは今でも全然あるけど、前みたいに強く噛み付いたり腕を締め付けたり、時には首も――最近はそんなこと殆どない。 そして何故か私は麦野の応えに素直に頷けなかった。それに気づいたのか、麦野がドリンクのストローを軽く吸った後に口を開いて言う。 「なにあんた、もしかして寂しがってんの?」 「えっ!?」 「今の反応、絶対喜んでないでしょ」 「名前さん、超やばいですよそれ」 「わっ!最愛っ!?」 いつの間にか近くまで浮き輪と共にふよふよと波に揺られてやってきた最愛が会話に入ってきて私は慌てる。私は沸々と自分の中に湧き上がるどうしようもない感情に動揺を隠しきれず、顔が赤くなるのと青くなるの両方を感じた。 「DV男もヤバイと思ってたけど、あんたもヤバかったのね」 「え?えっ!?」 「だって名前さん、手上げられなくて嬉しくないって……それ完全に超マゾの考えじゃないですか」 「じゃあ名前ってドMだったってわけぇ?やばー!」 「えっ……ええー!?」 まさかの周りのご意見に動揺が隠しきれない私。いつの間にかフレンダまでこっち来て話聞いてるし!そして案の定滝壺もすぐ近くまで水死体のままこちらに寄ってきて、一瞬パッと顔が上がったと思ったら「私はどんな名前でも……応援するよ」とまた変なフォローを入れられる。完全にデジャヴだ。 「あと気をつけた方がいいわよ」 「へ?」 「DV男が手上げなくなるってことは、他に女ができたのかもね」 「そっ……れは!無い…ハズっ!」 「どうかしらねぇ〜、次会うの楽しみね」 「もー!意地悪言わないでよ麦野のばかー!」 彼に限って他の女性…とかは、無いはず。それなりに幾多の困難を乗り越えてきたので、そこは彼を信じたい。――でも、前みたいに痕をつけないのは……何か理由があるんだろうか。 少なくとも彼は今まで、痕をつけることを“愉しんで”いたように見える。ちょっと歪んでるなとは思ったけど、私は実はそれを同じく“愉しんで”受け入れていたんだ……と今更になって気づいた。知りたくなかった、自分のこんな性癖…。 「浜面ァ!あたしのドリンク切れそうなんだけど〜?気ぃきかせなさいよ!」 「あーはいはいすいませんでしたぁ!次はなに持ってきたいいんスかねぇ!」 「えっ!あ、浜面くんもいたの…!?」 「超隅にいましたよ、さっきから」 「ぷぷっ、浜面ってば影薄いって訳よ〜」 「ってことは…」 もしかしてさっきの会話も、聞かれてた…?流石に異性に聞かれてたことに顔を赤くして彼を見れば、彼も気まずそうに私を見て「あはは…」と笑う。そして、 「お、俺は好きだぜ!ドMな子!」 と、フォローのつもりか凄くイイ笑顔で親指立てて浜面くんはそう言った。 「浜面キッショ」 「はぁー?浜面まじキモいんだけどー!」 「超ありえない程キモいです浜面」 「私はそんな浜面を………流石に応援できない」 大ブーイングだった。 「はぁ……ただいまぁー」 なんかどっと疲れたなぁと、帰ってすぐ持っていた荷物を肩からどさりと玄関に下ろした。そして浮かぶのは今日の出来事で、新たに発覚してしまった己の 「私これからどんな顔して一方通行と…」 ガチャ タイミングがいいのか悪いのか、私の背後でドアの開く音がした。誰が入ってきたかなんて見なくてもわかる。私の肩は大きく跳ねた。 「ア"?何ンなとこで突っ立ってンだ」 「あっえっと、おかえりー…?」 手にはコンビニ袋がもたれていて、いつもと変わらぬ彼のお買い物後だというのは容易に理解できた。何もおかしな点はないというのに、私は動揺を隠し切れない。だってまだ、自分の中で整理が追いついて無いのだから。 「………オイ」 「えっ?な、なにっ!?」 「今日はトモダチと遊んでくるっつってたよなァ?」 「え?う、うん……その帰りだけど?って、ひゃあ!?」 鼻をスンと吸い込むように鳴らした後、何故か不自然に一方通行は私に問いかける。今日出かけることはちゃんと伝えていたからわざわざ聞かれたことに不思議に思った。そしたら突然、一方通行は私を引き寄せて背後から私の首筋に顔を埋めてきたのだ。私は咄嗟のことにおもわず甲高い声が上がってしまう。 「どっ、どうしたの!?」 「なンで髪が若干濡れてンだァ?それに、風呂上がりみてェなニオイさせて……ドコでナニしてきた」 「えっ!?」 彼の声が一際低く発せられ、完全に“不機嫌”とされる声色だった。確かに私はプールのあと、ジャグジーでゆっくり浸かって塩素で痛んだ髪を洗い直したので彼の言っていることは合っている。けど、ドコでナニって……と考えて「あっ」と気づいた。 そうだ、私は一方通行に“遊びに行く”とは言ってたけど、“プールで”とは言っていない。特に今は冬なのでプールなんて発想はそう出てこないだろう。ということは今一方通行は、とんでもない勘違いをしている。 「違う違う!変なことしてない!今日は昔馴染みの友達のプライベートプールで遊んでたの!ほら、前も何度か行ってたでしょ?」 「ア"?アー……ンなこともあったかァ?」 そういえば以前にも、麦野達とのプールの帰りに一方通行が不機嫌そうに「ドコ行ってやがった」なんて聞かれたことがあった気がする。今では割と普通の質問だけど、あの時は私がどこへ行こうが何をしようがお構いなしと言った感じで、その質問自体珍しいなと思った記憶だ。…もしかして、お風呂上がりのこの匂いであの時も同じように聞いたのかな。――だとしたら、 「安心して、ちゃんと女の子だけだかー……あ、一人だけ男子いたか」 「ア"?」 「いやまあでも、彼は別にそういうんじゃー…」 「チッ」 「あれ、ちょっ…一方通行?」 突然手を引かれて部屋の奥へと入っていき、そのままリビングを通り越して寝室へと連れていかれる。そしてベッドにそのままボフンッと乱暴に押し倒された。なんか、この感じ久々… 「ま、まさか男子一人いたことに怒ってるの!?ちょ、どんだけヤキモチ焼き…」 「うるせェ、別にそーゆーンじゃねェ」 「じゃあどういう…って、うわっぷ!」 「………やっぱり」 そのままのし掛かられて乱暴に服を捲られ、下着だけの胸元をガン見された。やっぱりって、どういう意味?と思った瞬間、彼の顔が胸元に埋まった。 「ひゃっ…あ、ちょ、痛っ…!?」 右胸の内側に、チクリと痛みが走る。その瞬間、私の体はゾクゾクと電流が走るかのように奥底がざわめいた。 「やっぱこンくれェじゃねーと、痕残ンねェな…」 「な、なんなのよもう…!いきなりっ…」 「ア?…つってるわりに、ンだよその顔はァ」 「へっ…?」 “誘ってンのかァ?” 顎を掬われ彼の方を向かされる。そしてニヤリと笑い、そこから見えた尖った歯に――…再び私の何かがゾワゾワとした。あ、やばいかもこれ。 「あァ、なるほどな……ようやく分かったわ」 「……え?」 「最近オマエ、なンか物足りなさそうな顔すると思ったらよォ……そォゆうコトかよ」 「な、なに……ひゃ!?」 再び首筋に顔を埋められ、今度は先ほどよりも強い痛みを感じる。噛みつかれたのだと気づいて、私の体は大きく震えた。けれどこれは、恐怖での震えではない。 「名前、オマエ………とンだヘンタイ女だなァ」 「っ……!」 彼はそう言って私を見下ろした。 ――ああ、まさかこんな早くバレてしまうだなんて。いや、というか私でさえ今日気づいたばかりだというのに、どうしてこんなにもすぐにバレてしまったのだろう。 「ち、ちがうのっ……」 「ナニがちげェんだよ、痛めつけられてンな気持ちよさそォな顔見せやがってよォ」 「あっ……」 彼の手がキツく私の手首を握りしめる。その痛みにまた、私のカラダはあらぬ喜びを感じた。 「うっ……うぅ…、私だって…っ、まさかこんなっ……ぅっ……あーもうやだ恥ずかしい!こっち見ないで!」 自分の知りたくなかった、知られたくなかった一面を知られてしまい完全に羞恥心で顔が真っ赤になる私は、ヤケを起こした。 「そもそも一方通行が悪いんだからね!散々今まで私の事痛めつけて、それで今になってやっ……優しくするんだもん…!」 「逆ギレかよ…」 「う、うるさいなぁ!大体っ…なんでそんな優しいのっ?も、もしかして他でサンドバック見つけたとか言わないよね!?」 「ハァ?なンでそォなンだよ!」 「だって乱暴されなくなったのは他に女ができたからだって〜〜麦野がぁ〜〜!」 「ハァーーー、外で変なこと拭きこまれてンじゃねェぞバカ女」 「いだっ」 ピンッと、おでこに彼の弾いた指が当たった。さすがにこんな痛みでは興奮しなかったので心の奥でホっとする。そして私は、自分がかなりヤケで変なことを言っていたとハっとした。もうさっきから恥ずかしいが過ぎて穴があったら入りたい。ということでとりあえず近くの枕で顔を隠した……けど、まあすぐに取り払われた。 「逆だバカ」 「え、ぎゃく…?」 「ア"ーーー……クソッ、こっちは散々気ィ使ってやってンのに、テメェは…」 「へ?」 私を押し倒していた一方通行だったけれど、体勢を変えて私の隣に座ってベッドボードに背を預けた。それよりも彼の言ってる意味が分からなくて、私は恐る恐る彼へと視線を向ける。私の観察力が間違いで無ければ、なんだか少し……照れて、る? 「オマエを大事にすンのは……いけねェコトかよ」 「……………………え?」 「やっぱ今のナシだ、忘れろ」 忘れられるわけがない!――今のは聞き間違いだったのだろうかとさえ思えてしまう彼の台詞に、私の顔は一気に…さっきの倍以上に赤く熱を持った。 「ず、ずるい……反則だよ、今のはっ……」 「だから、忘れろっつってンだろッ…!」 「ひゃっ!」 再び彼は私を取り押さえるように覆いかぶさって来てキツく睨みつけた。けれどその瞳からは羞恥が混じっているのか普段よりも全然怖くなくて……私はもう嬉しさと恥ずかしさと色々な気持ちで胸が張り裂けそうだった。 「お望み通り、今からメチャクチャに抱いてやるよ」 「ぇっ…」 「覚悟はいいなァ?」 「ひぇっ……」 顔を真っ赤にしながら睨みつける彼を、酷く愛おしいと思ってしまった。 「お、お願い…します…」 |