キュウケイ地点


私の通う洋南大学には様々なサークルや部活があり、せっかくの大学生活なのだからと、私もサークルなんぞに入ってみた。でもあまり本気ではなく、楽しく自由に参加が出来て、バイトもしっかり出来るというところを選んだ。それが、クッキングサークル。その名の通り、いろんなものを作っては食べるというとっても楽しいサークル。今日も授業終わりに、私はサークルへと顔を出していた。

「やっほー」
「おっ、ナマエおつっつー」

クッキングサークルのメンバーは女子ばかりで、いつもきゃっきゃ和気あいあいとしている。だから料理を作りながら結構なガールズトークをすることもあり、聞いていて面白いけどえげつない。大体は恋バナで、皆の彼氏事情にはかなり詳しくなりました。

「今日はミートローフつくるよー!」
「お!SNS映えするやつだ!」

なんて会話が飛び交い、皆で買った可愛いエプロンをつけていざクッキングスタートする。そういえば、荒北くんは今日会えるだろうか。いつも唐突にラインが来てその日に会ったりするから、決定的な約束はしていない。そうだ、できあがったら可愛くラッピングして荒北くんに差し入れに行こう。大学内で会うチャンスだ。

「昨日さぁ、学食で彼氏にたまたま会ったんだけど、知らない女の子も一緒に居て、ふつうに嫉妬したよねー」
「あーーわかる!友達だって知っててもやっぱ知らない子といたりすると嫉妬しちゃうよねー」

やっぱり始まったガールズトーク。結構彼氏に依存してしまう子で、よく嫉妬が原因で彼氏と喧嘩しているのが目立つ。それに同意する子に私もとりあえず頷いて同意して話を聞いていた。
私はあまり自分の恋愛トークをするのが得意ではなく、いつも聞き手側にまわってしまう。たまに話をふられるとそれなりに答えるけど、質問されたことにそのまま返すだけだった。恥ずかしいので、多くは語れない。

「ナマエも結構嫉妬するタイプ?」
「えっ、わたし?」

そう思っていると、私に話がまわってきた。まったく身構えていなかったのでふつうに驚き、私はもう一度質問を頭の中でリピートさせた。

「嫉妬…するけど、表には出さないかな」
「えー私すぐ表に出しちゃう」
「私は最初は我慢するけど後で爆発しちゃう!」

昔から悟られるのが嫌だった。
女子同士にしても、恋人同士にしても、少なからずも出てくるのは…嫉妬。好きなのだから嫉妬するのは当たり前。けれどその嫉妬を、表には絶対に出したくなかった。めんどくさい女にはなりたくない、ずっと聞き分けのいい良い子でいたい。そんな八方美人なところのある私は、今までもそういった醜い感情はひた隠しに生きてきた。特別嫌われたくない人物の前では、特に、だ。

「ミートローフかんせー!」
「写真とろ写真!あ、SNSにアップしていい?」
「いいよー!」

せこせこと作っていたミートローフが完成して、結構見た目もお洒落で可愛い。友達のカメラに映って、私も私でミートローフ単体の写真をパシャっと撮った。そしてすぐにライン画面に移動させて、その画像をトーク画面に突っ込んだ。もちろん送り先は、荒北くんだ。

「お邪魔しまーーす!」

ガラリ、と調理室のドアが開き、低めの声が部屋の中に響いた。入ってきたのは数人の男子たちで、よく飲みに行ったりする飲みサーの男子グループだった。

「でたなハイエナども」
「ほんといいタイミングで来るわねアンタら」

彼らはよく私たちの料理を食べにくる、本当にハイエナのような人たちで、今日も悠々と慣れた足つきで調理室に入ってきた。見た目も、ザ・大学生!というような適度に遊び慣れた雰囲気を持っていて、顔も悪くないのでクッキングサークルの子たちも悪態吐くがまんざらでもない様子。しかもその中にはここに居る女友達の彼氏もいて、まあこういったつながりで付き合う事もある。

「おっ、今日はナマエちゃんもいるー」
「勇太くんひさしぶりー」
「ってことは、このミートローフってナマエちゃんの手作り?」
「あ…うん、そだよ」

勇太くんは、男子グループの一人で何故かわからないけどよく私に話しかけてくる優しい人。彼は目を輝かせて私が作ったミートローフを見ていて、私は顔が引きつってしまった。彼らが来た時点で覚悟はしていたけど、勇太くんが「食べていい?」といった時には、ああやっぱりかーと心の中で肩を落とした。もちろん私の返事は、

「うん、どうぞ」


結局その後は皆で調理室でプチパーティーとなってしまい、お洒落なミートローフを囲んでわいわいと雑談をした。私としてはミートローフをかわいくラッピングして荒北くんへの差し入れにしたかったのだけど…それはもう叶わない。
ふと携帯を見ると、一通のライン通知がきていた。その内容は荒北くんからで、そういえばミートローフの写真を送ったままなのだと思い出す。慌てて内容を確認すると、案の定荒北くんからの返事は『オレの分、もちろんあるんだよネ?』だった。サーッと血の気が引いていくのがわかり、私は涙目で必死に文字を打っていく。
『ごめんね!荒北くんに食べてほしかったのに、みんなに食べられちゃった!』
と泣きの返事をする。そこからすぐに荒北くんから返事はこず、私もさっき気づいたから彼もまだ気づいてないのだろう。今頃は何しているだろうか、部活中かな。せっかくの荒北くんに会えるキッカケだったのに、残念極まりない。私は肩を落として、大学を背にして家への道を歩いた。

「あ、」

その時、前方の方からシャーーっという何かが近づいてくる音が聞こえてきた。私にはその音がナニだかすぐに分かり、立ち止まってその音が近くに来るのを待つ。辺りは夕焼け色に染まっていて、正面にある夕日が少しまぶしくて目を細めてしまう。目線を少し下へむければ、大きく伸びた影が目に映りこんできた。もう、すぐそこまできている。
洋南と書かれた身体ピッタリなジャージを着て細い自転車に乗る彼らは、とても輝いて見える。というのも、夕日を背にしているので後光が差して物理的に輝いていた。それでも集団の中に居る彼を私はすぐに見つけることができ、思わず通り過ぎるまでジっと見てしまった。そして彼も、私を見ていた。

「(ふぁ、ふぁいと!)」

声には出せなかったけど、口パクでそう伝えた。ちょっとしたジェスチャーも付けて。わかってもらえただろうか…。そんな声にならなかった私の声援に荒北くんはニィと口端を釣り上げて、小さく私にだけしかわからないように、手を振った。それが何だか妙に嬉しくて、私は遠く過ぎ去ってしまった彼の背中に、小さく手を振り返すのだった。

「(あ〜〜なんだろ、これ…なんだろう!)」

その時、妙な感情が私の中で湧き起ってきて、私はどうすればいいのか分からずその場で蹲った。
嬉しい?楽しい?悲しい?痛い?どれでもない、この湧き起る動けない感情。ただの数秒の小さなやり取りに、私はどうしてこんなにも胸がソワソワとしているのだろう。こんなこと、今までになかったのに。

「(好き……荒北くん、好き)」

心の中でそう呟き、私はもう見えない夕焼けに染まった道路をしばらく見つめていた。






 

top

サンカク地帯
ALICE+