何となく、最近変やなって。
どこが、とかないけど。苦しそうやなって、ユキを見てたらそう思った。


珍しい、2人だけの帰り道。危ないからってことで、みんなと話し合って決めた、ユキを送って帰ること。いつもは2,3人で帰るんやけど、今日は皆予定があるらしくて、俺1人。


「なぁ、ちょっと寄り道せえへん?」
「え、ええけど…。」
「ほな、あそこの公園行こ!俺、ブランコ乗りたい!」
「ふふ、ブランコ好きやな、章ちゃん。」

ブランコを漕ぎながらユキをほら!と呼ぶ。
仕方ないなって笑って、ユキも来て、ゆっくり漕ぎ出した。

ちょっとの間漕いでいると、それまで漕いでいたユキのブランコが止まった。
それを見て、俺も慌てて止める。

「なんで、寄り道したん?」
「えっ...」
「章ちゃん、なんか言いたいんちゃうかなーと思って...ちゃうかった?」
「…いや、あの...ユキ最近、元気ないなぁって思って...なんか悩んでるんやったら、話聴けるかなぁって思って...」
「...元気ないように見えた?」
「...ちょっと。」
「そっかぁ...。」


しばらく無言になる。なんか、話さんと...って思うけど、話したらいけないような気がして地面と睨めっこをする。

「あんなぁ...」

聞こえてきた声に釣られて、ユキの方を見る。彼女もさっきまでの僕のように地面と睨めっこをしていた。

「うん。」
「なんて、言うたらええんやろか...。」
「ええよ、ゆっくりで。時間はまだまだあるもん。」
「ふふ、章ちゃんにやったら全部言うてしまいそうやわぁ...。」
「俺は...言うてほしい...けど...言いたないんやったら、無理にとは言わへん。」
「ふふ、うん。ありがとう。」



あのね、嫌になったの。
ユキの口から吐かれた言葉に驚いて、ただ呆然とユキを見つめた。そんな僕の様子を知ってか知らずか、彼女は笑って、言葉の続きを吐き出した。


「事務所が、とかやなくてな。ただ、怖くなってん。私が。」
「...うん。」
「うーん...ハッキリ言うとやな。女であることが、怖くなってん。」
「...おん、なであること...」
「そう。今やってるドラマの影響もあるかもしれんねんけどさ…。」

ドラマ...。確かにユキは今ドラマに出てる。しかも、主演。それが決まった時、横山くんや村上くんたちとめっちゃ喜んだのを覚えてる。

「役が...ちょっと特殊やんか。」

...こういったらアレやけど、そうや...特殊な役やった。性同一性障害の女の子が家を追い出された時に同じ性同一性障害の男と出会って一緒に暮らす話。


「それでさ、ドラマ撮ってる時ってさ男の子っぽい格好してるやんか。」
「せやなぁ...。」
「その、ドラマの撮影終わって、着て来てた制服に着替えた時に、すっごい気持ち悪うなってしもうて…。」
「...うん。」
「可笑しいなって思って帰ってから他の私服も着てみてん。でも、それもあかんくて...。」


あぁ、思う。あのドラマの、主人公の言葉はユキの言葉でもあるんかって。


「やから、嫌になったって言うのはそういうこと。んー...あはは、あかんなぁ…全部、中途半端や...はは...。」


だったら、僕にできることは何だろうか。悲しそうに、辛そうに笑う彼女に、できることは今の僕には1つしか思いつかんかった。


「...ぇよ。」
「ん?」


彼女の目がこちらを向く。その目は前よりも濁ってしまっているように見えて...
だったら、僕は精一杯の思いを君にぶつけよう。目を見て、逸らさないで。君がしてくれたように、僕も返したいから。


「ええと思うよ、そのまんまで。男の格好してようが、女の格好してようが、ユキはユキやんか。」


そう、どんな格好をしとったって、僕の、僕達の大好きな君であることには、変わりないんやから。だから、何回だって言うたるよ、


「......うん。」


ブランコを降りて、ユキの目の前にしゃがみこむ。
顔を覆ってしまったユキと目は合わない。ゆっくりとその腕を外させ、抱きしめる。


「これやったら、誰にも見えへんで。」
「ん…うん......うん。」

「章ちゃん。」
「ん?」


ありがとう、と呟かれたユキの言葉は僅かに震えていた。

あの頃と

次の日、僕のお下がりを君に渡す。
これくらいしかできないけど、それでも君が幸せそうに笑えるなら。僕にできることを探し続けよう。

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