ユキちゃんが髪を切った。
胸まで綺麗に伸びた髪をバッサリと肩につかないまでに切った。それこそ、村上くんやすばるくんより短いくらいに。
でも、変化はそれだけではなかった。
ユキちゃんは男みたいな格好をするようになった。聞いてみると、章ちゃんに貰った服やって嬉しそうに教えてくれた。

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「あ?なんて?」


いつものメンバーでファミレスに集まった。ユキちゃんが、話があるって言うたから。ユキちゃんと久しぶりに会えるのが、本当に嬉しかった。
でも、期待に反した言葉は、僕の心に容赦なく突き刺さった。

「やから、しばらく、女の子の格好するのやめる。」
「なんや、それ。お前またなんか巻き込まれたんちゃうやろな。」
「それはちゃう。何もない、気持ちの問題や。」
「なんやねん、気持ちの問題って…。」
「ユキちゃん、なんかあったんやったら、ほんまに言ってほしい…。」
「そうや、俺ら、頼りないかもしれんけどさ…」
「ちゃう、そうやないの。少し...しんどくなっただけ。」


無言の空間が流れる。
皆俯いてなんも言おうとせん。なんも、言える空気やない。


ふと、ユキちゃんの隣に座る章ちゃんが目に入った。
ユキちゃんの背中を安心させるように、さすってる。
なんで。同い年やのに…。今、ユキちゃんを支えてるのは、俺、やない。


「ええんちゃう。」

え、

「お前の人生や、どうするかはお前が決めたらええ。」
「…せやな。思う通りにしたらええ。」


なんや、


「…うん。びっくりしたけどさ、ユキちゃん僕よりも男前やから、きっと似合うよ。」

なんや、これ


「お前はなんでも言うのが遅いねん、そういうんはもっと早う言えや!」

みんなが皆、ユキちゃんの言葉を受け入れていく。なんで、簡単に受け入れられるの、なんで…


なんで俺は、大事な人の言葉を受け入れられんのやろう


俺だけ、取り残されて...置いていかれた気分や。


ガタンッ!

勢いよく立ちすぎて、椅子が倒れる。

「知らん。」
「どっくん?」
「ユキちゃんなんかもう知らん!!」

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走る。ただ走る。

言ってもうた。言ってしまった。
最後に見たユキちゃんの顔が頭に浮かぶ。
今頃泣いている、だろうか。
泣かせてしまっただろうか。

そう思うと、自分の目から沢山の感情が溢れてきた。
どれくらい走ったか。いつの間にか、章ちゃんと話した河川敷まで来ていた。水面に夕焼けがキラキラ光って揺れる。
またどうしようもないくらい泣きたくなって、慌ててしゃがみこんだ。

どうして、こんなにも僕は子どもなんやろうか。




ザッザッと、後ろで音がして、止まった。
「亮。」

なんだ、章ちゃんか。
期待した自分にまた自己嫌悪した。

「…何。」
「帰ろ、亮。」
「…嫌や。」
「亮」
「なんで追いかけてきたん。」
「…。」
「なんで章ちゃんなん。」
「…。」
「なんで、俺やないん。ユキちゃんの話聞くのも、支えるのも。なんで、全部章ちゃんなん。」
「…。」
「何黙ってんの。なんなん。なんで来たん、俺の事笑いにきたん…?」

うそや、章ちゃんはそんなことする男やない。でも、1度フタを開けたら、もう閉められへん。


「…っ!!なんか言えや!!!」
「泣いとった。」
「…っ!!」
「俺に全部話してくれた時、泣いとった。」

「ユキが泣く、なんてよっぽどのことがない限りない。信ちゃんの言う通りや。いつも言うのが遅いねんなぁ。」

「…。」
「亮。ユキはなんも変わらへんよ。人間そんな簡単に変われへん。どんな格好してたって、ユキはユキや。亮の姉ちゃんや。俺は、そうやと思ったから、ええって言った。」

「亮やって、分かってるやんな?」
「…。」

あぁ、分かってる。誰に言われんくても分かってる。ただの嫉妬や。俺の姉ちゃんが取られるんやないかって。いなくなってまうんやないかって。

「...ごめん。ごめん、章ちゃん…。」

あぁ、また溢れてくる。泣きたいんはあの人の方なのに…。

「それは、俺以外に言わなあかんやろ?」

帰ろっか、そう言って立ち上がった章ちゃんの背中に小さく呟いたありがとう、はちゃんと届いただろうか。

あの頃と

「ユキちゃん!」
振り向いて、笑ってくれる。
この呼び方は絶対変えへん。
だって、ユキちゃんは僕のお姉ちゃんで、お兄ちゃんやから!

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