デビューが決まった。
しかも、全国デビューだ。

そこで挙げられた名前には、自分の名前もあった。
いや、関西でのデビューの時もあったんやけどさ...。

今目の前に立っている人が、それを許したとはどうにも思えなかった。



∞の皆と並んで、目の前の人を見る。
川神さん、何も言わんかったらいいなと、デビューする面々を褒め、握手を交わしていく彼を見て祈る。


だが、どう足掻いたって私の番はやってくるのだ。


「神崎くん。」
「はい。」
「何と言うべきか…まぁ、デビューおめでとう。」
「ありがとうございます。これも社長や川神さんをはじめとする事務所の皆さんのおかげです。」
「…ふむ。君には特に手を焼いたものだ。」
「はは…。」
「入ってきた当初はどうなるものかと思っていたが…。」
「そうですね、メンバーや事務所の方々に支えられて、ここまで大きくなることができました。」
「ふんっ、まぁ、殊勝なことはいいことだ。」
「ありがとうございます。」


痛い、痛い。メンバーからの視線が痛い、痛い。
やめて、また素行が悪い言うて、ともくんに怒られんねやから…。

あぁ…!あかんあかん!
よこちゃんとすばるくんなんか特に目付き悪いんやから、そない見たら、川神さん睨まれてるのに気づくって…!

「まぁ、せいぜい頑張りなさい。」
「はい、精一杯努めさせていただきます。」


あ、うん分かってたわ、俺だけ握手せんの。俺たち全員が見渡せる場所に移動する彼への視線がいっそう強くなった。なんでこの人、そないに踏み抜いていくんやろか…。


「…はぁ…君たちのその不躾な視線もなくしてくれると助かるんだが?」


あ、ついに言われた。

「それじゃあ、僕らは失礼させてもらいます。」


皆で礼をして、会議室を後にする。去り際に聞こえた、可哀想だな。という言葉に、また頭を抱えそうになった。


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「あー…!!なんっやねん!あのおっさん!!」
「ホンマやで!ユキちゃんにだけあんな態度取りやがって!」
「まぁまぁ、そないプリプリせんの。」

帰ってきて早々、大倉やどっくんが吠えて、ユキが宥める。流石やな、もう収まったわ。

あ、でもまた吠えてヒナに怒られてるわ。

椅子に座ってその光景を見ていると、隣にヤスが座った。

「よこちょ、お疲れ。」
「ん、お疲れ。」
「よこちょはどう思う?」
「何が?」
「川神さんのこと。」
「あぁ…別になんも思うとらんけど…」
「そっかぁ...。」
「ヤスは?」
「俺は嫌いや、あの人。」
「…えらいハッキリ言うたな。」
「はは、ごめんごめん。やって、あの人おらんかったらユキはあんなに悲しい顔せんもん。」


そういったヤスの目は見たことないくらいに鋭くて…思わず身震いした。



あの頃と

まぁ、俺も同じ思いやけどな。そう言ったら、ヤスはいつも通り笑っていた。

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