一緒にいて幸せを感じるのなら

無理をしないこと。走らないこと。体調が悪くなったら、直ぐにりんちゃんに電話すること。
3つの約束をりんちゃんとひーくんに交わし、私はひーくんの試合を見に行くことが出来た。熱は完全に下がり切ってはいないけど、頭痛も喉の痛みも無いから大丈夫とりんちゃんとひーくんに訴えた事で奇跡的に試合の観戦を許された。此処に辿り着くまで30分も話し合いをしました、本当に大変だった……。私のことを心配してくれている為、我儘を言うのは心苦しかったけど、ひーくんの高校初試合はちゃんと見たいし、日向くんの成長ぶりが気になる。
一応毎夜ひーくんから、どんな練習したのか等聞いていたけど、昨日日向くんにトスを上げたと苦い顔をしてひーくんは言った。練習初日に「勝ちに必要ないからトス上げねぇ」とか何とか言ってたのに!。何があってトスあげようと思ったのと聞いたけど、うるさい早く寝ろと怒られてしまった。気になりすぎて寝れない!と駄々こねたけど、ひーくんに抱き締められながら背中をトントンされたら、直ぐに寝てしまった。不覚……!!。

でも、今日2人から許しを得たので試合を見れる!。日向くんの成長ぶりも見れるし、ひーくんのかっこいい姿も見れる!。思わず鼻歌を歌っていると

「興奮すると熱上がるぞ」
「嬉しいんだもん!。仕方ないの!」
「はいはい。分かったから、早く乗れ」
「歩いて行けるよ?」
「歩くって言うなら、ベットに連れ戻す」
「はい、乗ります!」

大人しくひーくんの背中に乗ることにした。隣を歩いて行けると思ったのに。でも、ひーくんの背中は大きくて暖かくて、凄く安心する。んん、このまま寝れそう。寝ちゃうと多分学校に連れて行って貰えず、ベットに戻されそうだから、お話をして目を覚まそう。

「ひーくん、重くない?」
「軽い。トレーニングにもならねェ」
「昔より重くなったよ?」
「マイナスだったのが0に戻っただけだろ」
「むぅ、厳しい……」

重いってはっきり言われるのも辛いけど、トレーニングにすらならないのも辛い。ただ迷惑をかけているだけになっちゃうから。もう少し沢山食べたいけど、気持ち悪くなっちゃいそう。運動して筋肉つける案もあるけど、筋トレなんかしたら心臓が壊れちゃいそうだし……うぅ。どんどん暗い気持ちになる。

「沙智」
「……ん」
「迷惑なんて思ってねェから」
「…………う」
「何時も言ってるだろ。沙智の世話をすんのは好きだって。それにこの体勢だと、お前とスゲェ近くなるから落ち着く」
「……私もひーくんと密着できて嬉しい、よ」
「俺も沙智も嬉しいなら、コレで良いだろ」

同意の意味を込めて、ひーくんの首に巻きついていた腕に力を込める。苦しいから辞めろと言うひーくんの顔は、何処か満足そう。ひーくんが嬉しいなら、私も嬉しいなぁ。

そうこうしている内に学校の校門を抜けた。
グラウンドの方から声が聞こえて、バレー部以外の部活も早い時間から練習が始まっているみたいだ。
キョロキョロと辺りを見渡していると、ランニングをしている人達と目が合う。私たちとすれ違う間ずっと見たり、こしょこしょと内緒話したり等、少し嫌だなと思う。何か変なところあるのかなとよくよく考えるとひーくんにおんぶされている自分の姿が目に入る。高校生になっても子どもみたいにおんぶされている、私……!!。確かにコレは恥ずかしいし、見詰めちゃうよ!。今更遅いけど、ひーくんの肩に顔を埋めて顔を隠す。うぅ、絶対顔が真っ赤だ……ひーくんは恥ずかしくないのかなとチラリと様子を伺うけど何処吹く風だ。真っ直ぐ前を見つめて、今から行う試合の事しか考えてなさそう。この調子だと体育館に着くまで、この体勢な気がする。そうするとバレー部の人達にこの姿を見られることになる。田中先輩や菅原先輩とかに………それはやだ!!。

「ひーくん!あの、降ろし」
「あ?」

その時だった。後ろから激しい息遣いと地鳴りが聞こえた。ひーくんにも聞こえたようで2人して後ろを振り向くと、

「はぁはぁはぁっ!うぉおおおおお!!!」
「っ!?」
「ひ、日向くん…??」

私たちに気づいていないのか、爆速で私たちの横を通り過ぎて行った。ウォーミングアップなのかもしれないけど、あんなに走ったら体力無くなるんじゃ……。これから試合って覚えてるよね…??。と、考えていると、私を支えているひーくんの腕に力が込められ、

「くっ、待ちやがれ…!!」
「へ……きゃああああ!?」
「日向ボケェエエエ!!」

日向くんを追うようにひーくんも走り出した。



■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□▫▪■□


「「はぁ……はぁ……ん、はぁ」」
「ひっく、こわ、こわかっ…うぅ、」
「天使ちゃんの泣き顔……最高………」

呼吸を整える2人と泣いている私に何故か拝んでいる田中先輩。最初は普通な態度(ひーくん達に呆れてたけど)だったけど、一体何があったんだろうか。私が泣き止む頃に田中先輩も準備がある様で、「天使ちゃん復活したのか!良かった、心配してたんだぜー!」と励ましの言葉を残して、体育館に入っていった。まだ2回くらいしか会ってないのに心配してくれたなんて、優しい人だなぁ田中先輩。というか、天使ちゃんって私の事?いつの間にそんなあだ名がついたんだろう……にぃ達からの呼ばれ方よりはマシだけど、恥ずかしいから変えて貰えないだろうか。

先に日向くんの息が整いだしたようで、ムクリと起き上がる。

「クソ、引き分けか…はァ」
「おま、お前に…はっ、だけ、に……負けねェ」

私をおぶって走ってたこともあり、ひーくんの息はしんどそうだ。背中を摩りながら、ひーくんのエナメルバッグからスポドリを出す。

「でも……」
「…あ?」
「今日はおれたちで勝つ!!」

日向くんの強い意志が宿る瞳を向けられる。
そうだよね、今日は負けられない戦いだもの。
ひーくんも立ち上がり、

「さっさと準備するぞ」
「おう!」

おぉ、何か仲間っぽい!。いや、仲間なんだけど、最初の頃は顔を合わせる度に喧嘩してたから。やっぱりこの一週間で2人の中で心境の変化みたいなことがあったのかなぁ。ひーくんも日向くんもお互いがお互いの事をライバルだと思いながら、此奴ならやれるだろうと信頼している感じ。私じゃ出来ない役割を日向くんが果たしてくれている。寂しい感情も有るけど、其れよりもひーくんが1人にならない、振り返っても誰かが居る事実だけで、私は涙が出そうなくらい嬉しい。
でも、この涙は試合に勝つまで取っておこう。クシクシと目を擦っていると、手を伸ばされる。その先にいる人は彼に決まっており、

「悪い、ビックリさせたよな」
「んーん。大丈夫だよ」
「嘘つくな。泣かせて悪い」
「…んと、怒ってないから謝らないで」

手を掴むと引っ張られた勢いで立ち上がる。服に着いた砂を払っていると、あ!と大きな声が。

「白崎さん!元気になったの!」
「日向くん、おはよう。うん、一応元気になったから、応援に来たの。今日は頑張ってね!」
「おう!おれ、沢山活躍するから見ててね!」
「うん、分かった!」
「おい、沙智。日向より俺の応援しろよ」
「はぁ!?おれも白崎さんに応援されたい!独占すんな、影山!!」
「うるせェ!まだレシーブが下手くそな奴に沙智に応援される資格はねェんだよ、ボケが!!」
「関係ないから!ちゃんと2人とも応援するから、喧嘩はめっ!」

さっきまでいい雰囲気だったのに、何で喧嘩を始めちゃうの!。先輩の誰かに見られたら、きっと煩いとか何とかで怒られちゃうよ!。2人の間に立って仲裁する様に声を掛けるが、私の声は届いているのかな…。と、その時だった。

「おはよー、沙智と王様」
「あ゛?」
「あ、蛍くんと忠くん。おはよ!」

背後から声を掛けられ、振り返ってみると蛍くんと忠くんの姿が。この時間にこの場所にいるってことは2人ともバレー部って事なのかな。ひーくんが言っていた対戦相手ってもしかしてこの2人……?。1年2人と戦うって言ってた気がする。
2人の登場によって、ひーくんと日向くんの意識が、2人に向けられる。よかった、喧嘩は収まったみたい。

「おい、沙智」
「ん?」
「コイツらとは知り合いか?」
「ひーくんを迎えに行った時に会ったの。あ、でも、忠くんとはその時初めて会ったのだけど、蛍くんとは中学の時にひーくんの試合を一緒に見たのが初対面だよ」
「………名前呼び…」
「蛍くんが名前で呼んでって」
「チッ。おい、月島」

ひーくんは何故か眉間に皺を寄せて、蛍くんの前に立つ。蛍くんはにこやかな笑みを浮かべているけど、何処か冷たく感じる。

「絶対ェ負けねェ」
「独占しすぎると嫌われちゃうよ、王様?」
「うるせェ、沙智は俺のだ」

そうひーくんは言うと、私の手を取って、体育館へ歩き出した。突然の告白にちょっと頬が熱い気がする。熱じゃないよね、大丈夫だよね。

「チッ……泣かせるだけの癖に」

舌打ちの後蛍くんが何と言ったか聞き取れなかったけど、蛍くんも私たちを追う様に歩き出した。2人とも何で急に怒り出したんだろう。長年のライバルとか?。でも、ひーくんの口から今迄倒したい人って言うと及川先輩の名前くらいしか上がらなかったし、蛍くんもあの時見た試合で初めてひーくんのプレーを見たって言ってた気がする。ならなんで、2人共こんなに喧嘩腰なんだろう。

ひーくんの背中を見ながら考えてみたけど、答えが出る前に、私は体育館へ足を踏み入れた。

試合が始まる。






「影山が白崎さんに好き好き言ってんのは、腹一杯になる程聞いてきたけど、」
「これはツッキーも大変だね。……いや、1番大変なのは沙智ちゃんか、板挟みだし」
「確かに!。って、待て影山、置いてくな!!」
「日向!、待ってよ!」




prev back next
top