そんな口約束の果てに

「外から見て、気づいたことあるか?」
「知恵ってそういう……。うーん、有るにはあるけど、かなり賭けになるよ…」

コートの中心で影山、白崎さん、田中先輩とおれで、丸くなって作戦会議が始まった。
さっきまでのアレはもう忘れてしまったかのように、2人はいつも通りだ。夢でも見てたのか?と思わず田中先輩の顔を見るが、田中先輩も困惑を露わにしていた。性格が悪い月島が影山に喧嘩を売っていた。王様って何度も何度言ってさ。おれだったら、即効で殴られていたと思う。多分キャプテンも居たから、殴りに行かなかっただけで、影山のイラつきはMAXだった筈だ。だけど、その時の影山は違った。いや違う、初めて月島たちと会い、王様と言われた時と同じように静かに耐えるように。こんな事言ったら怒鳴られる所じゃないかもしれないが、悲しそうに見えた。変な影山だった。さっきのもそうだ。月島からボロクソに言われて、耐えて悲しそうに見えて。
過去に何があったとか関係ないと思う。だって、おれにはちゃんとトスが上がる。影山を庇うつもりはないけど、おれが口を開く前に白崎さんが守るように影山の前に立ったのだ。

まだ会って数回だけど、白崎さんは女の子で、凄く細いし、弱そうな第一印象。だから、白崎さんはお姫様みたいに守られる役で、影山が王子様の様にお姫様を守ってるんだろうなって思ってた。
だけど、実際は違ったのだ。
白崎さんが影山の心をずっと守っていたんだ。

「ひ…くん、日向くん!」
「あ、はい!」

考え込んでいたら白崎さんに名前を呼ばれていたらしい。大丈夫?疲れてる?と心配してくれている優しい白崎さんと、ボケっとすんな、ボケと罵る影山。くそ、さっき迄落ち込んでたくせに!。

「あのね、日向くんに確認したいことあるんだけどね」
「え?おれ?」
「うん。日向くんはひーくんのトス、どう思う?。やだなって思う?」

影山と田中先輩がギョッとした顔で白崎さんを見る。影山に至ってはどういう意味だそれ!と吠えてるが、白崎さんは完全無視でおれを見つめている。
白崎さんの質問の意味は分からない。でも、さっき思った事が、答えであることは分かっていた。

「おれにはちゃんとトス上がるから、別に何とも思わないかな。おれにとっては王様のトスってのでもありがたぁーーいトスで、おれは何処だって飛ぶし、どんな球でも打つから」
「うん」
「おれにトス、持ってこい!!って思う」

まだ月島のブロックをぶち抜く方法が思いつかないけど!。どシャットされたスパイクを思い出して、ムカムカしてきた。あぁ、本当どうやってぶち抜こう…!!。と、考えていると小さくクスクスと可愛らしく笑う声。このメンバーでこんな笑い方するのは1人しか居ない。

「ふふっ。日向くんはトスを上げたくなるようなスパイカーだね。よし、ならやって見ようよ!」
「は?何をやるんだよ」
「白崎さん、何か思いついたの!?」
「うん。破れないなら速さで勝負、だよ!」


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「作戦会議の末、何か思いついたの?。王様のトスやるって話でもしたァ?」
「うるせー、月島!次、その頭の上、ぶち抜いてやるからなァァ!」

タイム終了後、話しかけてきた月島の言い返す。くそー、絶対抜いてやるんだからな。

「日向くーん、MAXでだよ!」
「おう!」
「ひーくんはちゃんと視て!」
「おう」
「田中先輩はいつも通りに、力一杯、カッコよく!」
「うぉっしゃあぁぁぁ!!!」

田中五月蝿い!!とキャプテンの怒号の後、笛が鳴った。キャプテンがサーブを打ち、田中先輩がレシーブ体勢に入った。
おれが白崎さんと影山に言われたことを思い出す。

『日向くんを速度と跳躍力を生かさなきゃいけない。今のふんわりトスだと日向くんがジャンプの頂上に来た時には蛍くんも頂上にいるの』
『だから、速さで勝負ってこと?』
『そう。日向くん、速攻とかやったことある?』
『ううん。高く山なりに上がるやつしか』
『………ボールは俺が持っていく』
『?持っていくって何?。どういう事??』
『お前は唯ブロックの居ないとこにMAXの速さと高さで飛べ。そんで全力スイングだ』
『なら、とりあえず今はひーくんのトスに合わせない様にした方がいいよ。合わせなきゃって考えたら、MAXに飛ぶ事忘れちゃいそうだし』
『あぁ。俺のトスは見なくていい。ボールには合わせなくていい。兎に角全力でやれ』

2人の顔はマジだった。トスを見るな、ボールに合わせるな。どう考えても空振るに決まっている。だけど、2人が本気で考え、やろうとしてる事が伝わって。
試合に勝ちたい。なら、やるしかないだろ。

ブロックが居ないところに全力の速さと高さで飛ぶ。
良し!彼処だ!と走り、全力で飛んだ。
そういや、見るな合わせるなと言われたけど、目の前にボールが来たら無意識に見ちゃうし、合わせたくなる。でも、それだとダメなんだ。どうしよう、ああもう!これしかない!!。

「っ!!………!?、!!?」

全力のスイング。空振ると思っていた。なのに、何故か手にボールを思いっきり打った感触が残っている。何これ、何だこれ!!。

「手に当たったああああ!!!」
「?手に当たった?。大袈裟な…」

真っ赤に染まった掌は、幻なんかじゃなくて。本当にスパイクを打てたらしい。凄い!何これ!凄ェ凄ぇ!!。思わずこの興奮を伝えたくて、ぱちぱちと拍手をしている白崎さんに駆け寄る。

「凄ぇ!決まったよ、白崎さん!見てた?見てた!?」
「見てた見てた!。日向くん、かっこよかったよ!」

2人して手を繋いで、ぴょんぴょん跳ねながら喜んでいたから、聞こえてなかったキャプテンからの一言。

「今……日向、目ぇ……瞑ってだぞ………」
「「「はァ!!!」」」




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