読み取った分だけ打ち解けられる

速攻。沙智の言う通り、ブロックに勝つ方法の1つだ。だが、練習はほぼ日向のレシーブ練に費やして居たため、速攻の練習は一切やっていない。賭けになると言うが、無理に等しい。
でも、日向の速さなら、俺のトスに追いつけるんじゃないかと思ってしまう。なら、やる価値があるんじゃ

「ひーくん」
「おう」
「スパイカーに合わせてもらうなんて考えてないよね」
「う゛っ」
「もう!セッターはスパイカーの前の壁を切り開くって自分で言ってたよね。スパイカーに合わせてもらうんじゃ、それはセッターの力じゃなくてスパイカーの力でしょ」
「ぐぐっ」

図星すぎて何も言い返せない。沙智の言う通りだ。俺が合わせてもらうんじゃ、セッターの力じゃない。其れにド下手の日向が俺に合わせるなんて、何年経っても無理に決まってる。なら、どうすれば。

「日向くんは技術は拙いけど素材はピカイチ。ひーくんなら上手く使えるんじゃないかなぁ」
「……は?」
「技術もあってやる気もあって。何より視野が広い。敵の事まで考えられるなら、味方のことも考えられるでしょ?」

上手いことってなんだ。
頭上に?マークが浮かんでいるだろう。俺の困惑が沙智にも伝わっているはずなのに、此奴は日向に俺のトスはどう思うか、嫌だと思うか等聞き出し始めた。
何聞いてんだお前!と文句を言おうとしたが、日向は

「おれにトス、持ってこい!!って思う」

なんてほざく。だが、その言葉で1つのやり方を思い付く。あぁ、唯の速攻をやるだけでも賭けだというのに、こんなの馬鹿がやることだろう。でも、きっと面白い。成功した時の快感は格別に決まってる。

「日向くん、速攻とかやったことある?」
「ううん。高く山なりに上がるやつしか」
「………ボールは俺が持っていく」
「?持っていくって何?。どういう事??」
「お前は唯ブロックの居ないとこにMAXの速さと高さで飛べ。そんで全力スイングだ」

沙智は俺の考えた作戦が伝わったのか、次に俺が言いたかった言葉を続ける。

「なら、とりあえず今はひーくんのトスに合わせない様にした方がいいよ。合わせなきゃって考えたら、MAXに飛ぶ事忘れちゃいそうだし」
「あぁ。俺のトスは見なくていい。ボールには合わせなくていい。兎に角全力でやれ」

想像ではできてる。でも、普通に考えれば空振り必須だ。馬鹿な日向にも俺がやろうとしていることが分かったのか、空振るじゃん!と騒ぎ出す。だが、

「でも……やってみたい」
「……わかった!」

その返事を最後に日向はポジションに着く。
出来る。集中しろ。沙智から届く『ちゃんと視て』との指示。そうだ、コレを成功させるには全てを把握する必要がある。
笛が鳴った。

見ろ。視ろ。
敵の位置は。ボールの位置は。日向の位置は。
次にどう動く。どこに跳ぶ。
此奴のジャンプのMAXてっぺんはどこだ。

視界のど真ん中に日向が映る。

今!!!。
この位置!このタイミング!この角度で!!
ドンピシャ!!!

バシッとボールの芯を叩く音が響いた。
それは成功の合図。

「よしっ!」

ニヤける顔を隠せない。出来た、イけた、成功した!。拍手が鳴り響く。沙智にやったぞとガッツポーズを見せると、俺の好きな笑顔を浮かべていた。駆け寄ろうかと足を踏み出そうとした時、

「手に当たったあああ!!!」
「は?」

日向が叫ぶ。当たったとは。確かにボールを持って行ったが、当てたのはお前だろう。此奴は何を言ってんだと呆れていると、澤村さんが覚束無い足取りでネットまで近づいてきた。

「……おい、今。日向……目ぇ瞑ってたぞ…」
「「「はァ!?」」」

俺と月島と田中さんの声が重なる。はァ!?マジ、おい、どういう事だよ!!。

「?…あの、どういう…?」
「ジャンプする瞬間からスイングするまでの間、日向は目を瞑っていた。つまり影山がボールを全く見てない日向の掌ピンポイントにトスを上げたんだ…!。スイングの瞬間に合わせて…寸分狂いも無く…!」

澤村さんの言う通り日向のスイングの瞬間に合わせて、ボールは持っていった。だが、最初から最後までボールを見ねェってどういうつもりだこいつ!。
当の本人は沙智とぴょんぴょん跳ねて喜んでやがる。首根っこを掴み、

「ぅオイお前ぇえ!!目ぇ瞑ったって何だ!!」
「え、日向くん。目を閉じてさっきの打ったの!?」

沙智も目を瞑っていた事までは見えなかった様で、俺たちと同じリアクションをする。だが、日向はさも当然のような態度で

「白崎さんと影山が"ボールを見るな"って言ったじゃん!。目ぇ開けてるとどうしてもボールに目が行くから…!」
「確かに合わせない方がいいって言った…」
「俺も言ったけどっ!」
「でも今ので成功だろ!?何が悪い!」
「それはそうだけど、100%信じるなんて出来るか普通!?」
「ひーくんのトスは上手だけど、一歩間違えたら顔面トスになってたんだよ、怖くないの!?」
「だって、白崎さんは影山の技術は凄いって言うしそれに、信じるそれ以外の方法わかんねえもん!!」

今迄の記憶が蘇る。自分で言ってた癖に言うのもなんだが、日向に対して「ド下手!」やら「3年間何やってたんだ!?」とボロクソに言っていた。入部初日も俺を倒す!とか何とか言って喧嘩して。所謂因縁の相手って奴だ。好かれているとまでは思ってなかったが、信頼されているとは思ってなかった。いいや、違う。そんな綺麗なものじゃねェ。俺が少しズレただけで、無防備な顔面にそれなりに速度があるトスを受けることになってたはずなのに、此奴は俺が失敗すると少しも思っていなかったんだ。信頼と言えば響きはいいが、これはそんなもので治まるものじゃねェ気がする。
隣を見れば、同じタイミングで視線があった。そして、何時もの様に笑って沙智は告げる。

「……でも、ひーくんなら出来ると思ったよ。かっこよかった!」

同じ感情を向けられているとは思う。沙智からの信頼と日向からの脅迫しんらい。どっちも重たくて、過度な期待で。あぁ、だからこそ負けられない。

「よし。日向のスパイクが決まれば、マークが分散して田中さんも打ちやすくなる!」
「おおっ」
「よっしゃ!」
「……俺達には信頼関係なんて微塵も無いが……。次もボールは俺が持っていく。信じて跳べ」

沙智の信頼を裏切らないように、日向に負けないように。此奴のバネも機動力も何もかも、俺のトスで全て使い切ってやる。


と、意気込んだのはいいが

「あ」
「ビャーーッ!!」
「悪い」

ネットから離しすぎて、日向の顔面トスしてしまった。最初のあれ以降、全然成功しねェ。やっぱり簡単じゃねーな。コート上の全部を常に把握しとくものしんどい。何時も以上に頭を使ってる気がする。けど、やっぱり面白くて仕方ねェ……!!。

「何ニヤニヤしてんだよ、巫山戯んな!!顔面2回目だぞ!!」
「ぐっ………」

ぎゃいぎゃい騒ぐが日向は、何回でもボールを見ずに跳ぶのだろう。俺も何度だって同じトスに挑戦する。きっと周りからは理解不能と罵られたり、飽きられたりするのだろう。
少なくとも俺はコレが面白いから。日向に負けられないから、何度だってトスを上げるのだ。




もう一回、丁寧に。
スパイカーが最大限力を発揮出来るトスを。



『もう泣かせねェから。最高のセッターに、俺…なるから!』
『……うん、約束だよ』

もう2度と沙智にあんな想いをさせない為に、
俺は約束を果たす。



試合終了の笛が鳴り響いた。
セットカウント2-0。
勝者:日向・影山チーム。



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