沢山抱きしめてあげるよ

試合終了の笛が鳴った瞬間、集中力が切れ、一気に疲労が身体にのしかかった。何時も以上に色々視て考えたせいで目も頭も痛てェ。2セット目からあの速攻の成功率は上がり、無事勝つことが出来た。コレで入部出来る。沙智を悲しませなくて済む。ヨシッと小さくバレないようにガッツポーズをしてしまった。

ある程度動けるくらいに回復し、持ってきておいたスポドリを口にする。そういや沙智に水分補給を忘れんなって言っておくことを忘れてた……。竜胆さんにちゃんと見ておいて下さいと散々言われたのに、バレーに夢中になって頭から抜け落ちていた。1セット目の途中迄は元気そうにしてた。2セット目からはもう……うん。とりあえず、沙智の体調を確認しねェとと、辺りを見渡していると日向に呼び止められた。

「影山!」
「何だよ」
「月島たちに挨拶しに行こうぜ。仲間の自覚をちゃんと持たねぇと…!」
「……チッ」

また体育館を追い出されたらたまったもんじゃない。折角ここまで漕ぎ着けたのだ。山口は兎も角月島を認めるのは色々ムカつくが、「仲良くね〜」と天使の格好をしたちっせぇ沙智が頭に浮かぶ。仲良く……仲良く。
我慢して、大人しく日向の後ろを着いていく。

「月島!」

声をかけらた月島が振り返ると、ん!といつか見た映画に出てくるガキの様に、日向は無言で月島に手を伸ばす。

「………は、何?」
「試合の最初と最後に握手すんじゃん。今日は最初してないけど…。それにこれから仲間チームメイトだしっ。嬉しくねぇけど」
「………………」
「早くしろよっ。お前知らねーの!?。ちゃんと「仲間の自覚」を持たないと体育館をから放り出されるんだぞ!」
「…君らが体育館出禁になったのは、主将の再三の注意を無視して勝手に勝負始めた挙句、教頭のヅラを吹っ飛ばしたからデショ」
「「……………」」

それが原因だったのか!。ってきり、日向と喧嘩ばかりしてたせいで、追い出されたかと思ってた。
其れが原因なら、やっぱりちゃんとレシーブ上げなかった此奴が悪いんじゃねェか。斜め前に立つ日向の後頭部をギロリと睨みつける。アレがなかったら、沙智を無駄に悲しませずに済んだのによ………そうだ、月島より沙智の確認の方が先だ。
日向が月島に握手をさせようと襲っている姿を横目に、辺りを見渡す。勝手に帰るは有り得ねェから、誰かに絡まれてんのか。ぐるりと見渡すと、体育館の一角で菅原さんとマネージャーの清水?さんが、誰かを囲う様に、慰める様に話しかけている姿が目に入った。
あそこに居る。そう思ったら、駆け出す足より先に名前を呼んだ。早くその瞳に俺を映してほしくて。

「沙智っ!!」

声を掛けながら近づくと、俺の存在に気がついた2人がそっと囲いを解いた。そして、「後は影山に任せた方がいいべ」「そうね」と何やら話している。どう言う意味だ……まさか沙智の熱でも上がったか!?。

「おい、大丈夫か!?沙智、痛いとこ気持ち悪いとこあんのか!」

俯く彼女の肩を掴む。見た感じは変化なし。ちゃんも立ってるから、最悪な状況ではないっぽい。だけど、沙智は何も言わない。肩を震わせて、嗚咽を漏らして………は?嗚咽?。

「うぅ〜、ひぃ、くん……うぇ、ひっく」
「おま、は!?泣いて、何で!?」
「ふぇぇぇぇんっ」
「は」

トンっと沙智は俺の胸に抱きついて、其の儘大号泣。大きな泣き声が体育館に響いたせいで、ワラワラと人が集まってくる。「影山泣かせんな!」「おい、大丈夫か?」等野次が次々と飛んでくる。泣かせてねェし、大丈夫でもねェ。何で泣き出したか分からねーから、謝った方がいいかも分からない。沙智は理由も分からないくせに謝れるのは嫌いだから、この状況で謝ると更にややこしい事になってしまう。それだけは避けたい。

「沙智、泣くな……勝ったんだから、笑えよ…」
「ひっく、かな、かなしくて……」
「ん」
「ないてる、っじゃ、ないもん。うぅ、ひっく。うれ、うれしくて」
「あぁ。嬉し泣きか。なら、良かった」

嬉し泣きなら、まだ良いか。
でも、泣かせ過ぎたら頭痛いって今度言いそうだから、そろそろ泣き止ませた方がいいな。背中を叩きながら、落ち着かせていくと段々と嗚咽としゃっくりだけになっていく。一応持っていたスポドリを飲ませて、沙智を持ち上げる。何時もの様に片腕に沙智を座らせると、沙智も何時もの様に俺の首元に顔を埋め出した。よし、落ち着いてきたな。泣き過ぎたせいでこのまま寝そうだな、此奴。熱もあるかもしんねーけど、なんか体温高い気がするし。日向とさっきの速攻の感覚が忘れないうちに練習しようかと思ったけど、早く帰った方がいいかもしれねェ。………あ、そうだった。

ズボンのポケットに閉まっておいた入部届け。入れていた場所も場所のせいで皺だらけになっていた。片手でできる範囲で皺を伸ばして、振り返る。澤村さんにコレを出さねーと。だが、

「………なんスか?」

全員が何故か俺らを見ていた。表情は2つのグループに別れており、日向や田中さん、菅原さん、そして月島は「またやってる」と呆れ顔っぽい。それ以外の人達は、「どういう事?」と混乱しているような。
そして、いつか見た様に澤村さんが代表して様に声を掛けてきた。

「か、影山。こういう事聞いていいか分からないが、あの……付き合ってんのか?」

前も聞かれた質問。何でそんなに付き合うことを確認してくんのかわかんねえ。付き合うって恋人になるってことだろ。それだと一生はいれないだろ。

「付き合ってませんけど」
「「「え!?それで!?」」」
「?。前、菅原さん達にも言いましたけど、沙智とは幼馴染ッス」
「あっ、幼馴染……なるほど…」
「でも、結婚はする予定です」
「「「はァ!?!?」」」
「結婚……凄い…!」
「潔子さんが結婚に反応している!?。潔子さん、俺とけっk」
「しません」

またしても同じ反応。おかしな事言っているつもり無いんだが。まぁいいか。沙智の熱も気になるし、早く入部届けを受け取ってもらおう。俺の手に入部届けを持っていることに気づいた日向が、「あ!影山待て!」と、此奴もズボンのポケットから紙を取り出す。
そして、

「「キャプテン!!」」

固まっている澤村さんに俺たちは入部届けを見せた。澤村さんは特に入部届けに反応を示さず、じっと紙を見た後清水さんに声を掛けた。

「アレ、もう届いてたよな?」

こくんと清水さんは声なく頷くと、体育館器具庫から大きなダンボールを持ってきた。中から出てきたのは黒くて見覚えのある服。
1年生4人分のジャージだった。

「うほおおお!!」
「多分サイズ大丈夫だと思うけど、何かあったら言って」
「「あザーズ!!!」」

日向と山口は渡された瞬間既に着替え始めており、月島は菅原さんと田中さんに煽られながら着替えていた。俺も着替えたいが腕に抱える沙智がいる。代わりに沙智に着せるかと考えていると、

「………おりりゅ」
「もう平気か?」
「ん………ひーくんのジャージちゃんとみるの」
「おう」
「お写真とって、にぃとにににみせよ」
「写真はいいが、あの人達に見せんのは要らね」

ぴょんと俺の腕から降りて、俺の返事を聞いてないのか、いそいそと俺のエナメルバッグの元に戻って行った。写真は良いが、あの人達に見せるのはめんどくせェなァ。絶対ェ、メールか電話でグチグチあることない事文句を言ってきそうだ。
沙智の背中を見送ったあと、俺もジャージに腕を通す。やっぱりそのチームのジャージを着ると、一員になった感が増す。俺、ちゃんと烏野バレー部に入部出来たんだと。

「…これから、烏野バレー部としてよろしく!」

たった一言。主将に言われた言葉。
グワッと胸が熱くなる。隣に立つ日向と無意識に目を合わせ、

「おす!!」

やっと俺の高校バレー生活が始まるんだ。
あの日向との速攻を使って、色々な武器を揃えて、勝ち上がっていく。だが、とりあえず

「早く実際の試合で試してェな。練習試合とかねェのかな……」
「練習試合…!!他の学校との…試合!」
「実際の試合には月島×3みたいなブロックが居るんだからな!」
「うおおお!すごく嫌だ!」
「なんだとっ、ツッキーを馬鹿にするなよ日向!」
「何で山口、お前が怒んの」
「ひーくん、みんな!お写真撮ろ〜!」
「あ、白崎さん!」
「沙智走んな!ボケェ!」

パタパタ駆け寄ってくる沙智に、竜胆さんとの約束を忘れたのかと怒るが、沙智はヘラヘラと楽しそうに笑う。俺らが入部出来たことが、自分の事の様に嬉しい様だ。此奴も一緒に出来ればいいのにと少し思ってしまう。だけど、部活は俺が入れと言ってやるものでは無い。自分からやりてぇと思わないと駄目だ。小さく舌打ちを零して、ワイワイ騒ぐ3人に近づく。

「王様」
「……なんだよ」
「君のお姫様。僕の宝物でもあるから」
「………………はァ!?」
「あの時みたいに泣かせたら許さないよ」

そう月島は言い捨てると既に写真を撮り始めている3人に寄っていく。

お前に言われなくても、

「もう泣かせるつもりはねーよ」

多分月島には届いていない。
だけど、それでいいのだ。きっと月島は俺の返事が何であれ興味はないだろうし、俺も彼奴に言っているつもりは無いのだから。

俺も仲間に入れろよと口にしようとした時だった。体育館の外からバタバタと近づいてくる大きな足音と、「組めたよーー!!」と大きな声。そして、其の儘の勢いで誰かが体育館に走り込んで来た。



「練習試合っ!!。相手は県のベスト4、"青葉城西高校!"」


「誰?先生?」
「知らねェ!!」

けど、県ベスト4との練習試合!。
求めてた機会がやってきた!。




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