役に立ちたいと願うこと

「ちぃ〜〜〜〜〜ちゃ〜〜ん♡♡♡愛しのにぃが帰ってきたよ〜〜〜♡♡♡♡♡」
「ぴゃ!?」

練習試合の次の日。ひーくんは無事入部できたおかげで、今日は練習に初参加だ。見学したい欲はあったけど、入部もまだしてないし、りんちゃんから絶対安静と怒られたので、部活行く前に心配してお見舞いに来てくれたひーくんにお礼とお見送りをしたのだった。
まぁ、今日はにぃとににに話したいことがあるのだ。流石に朝は仕事が忙しそうだから、お昼ご飯の時間に電話しようとカヴァスとボールで遊んでたら、当然部屋の扉が思いっきり開いた。ビックリしながら振り返ると、話したかった人がそこに居た。

「に、にぃ!?何で、お仕事は!」
「フッフフ、今日は宮城で仕事なんだぁ」
「え…でもまだ、お昼とかじゃ」
「僕が呼ばれるのは夜だから安心して、沙智ちゃん♡。電話してきたら殺すって言ってあるから、突然呼び出されることもないし、だいじょーぶい♡♡」
「にぃ……全然大丈夫に思えないよ……」

にぃの部下の人は大丈夫だろうか……。
白崎ひじり。28歳。白髪で190cmもある長身。贔屓目なしに綺麗でかっこいいお兄ちゃん。白崎家の長男で、日本バレーボール協会で働いている。何でもプロになりそうな子をスカウト・育成したり、バレーの面白さを皆に知って貰えるよう広報活動をしたり等色々やっているとにぃは言っていた。実際凄い上の立場なのか、ユース合宿の手伝いに行った時はにぃより歳上の人がにぃに指示を仰いだり、にぃが誰よりも前で指揮を取っていた。
因みに次男とは2卵生の双子で、2番目の兄の名前は白崎みやび。ににはお父さんの会社、、【白崎グループ】を継ぐ為に、お父さんの元で働いている。

「兄妹水入らずの時間を潰す奴は、馬に蹴られて死ぬべきだからいいんだよ」
「色々混ざってない??」
「写真で毎日ちぃちゃんを供給してたけど、やっぱり本物に勝るものはないね!。可愛い〜好き〜僕の妹は大天使〜〜〜♡チュッチュッ♡♡」
「うぅ〜〜!」

ギュッと隙間なく抱き着かれ、顔中にキスの嵐。にぃは何時も愛情表現が過激すぎで苦しくなる。一緒に遊んでたカヴァスに助けてと声を掛け、にぃのお腹に頭突きをしてくれたおかげで、拘束が緩み、抜け出すことが出来た。カヴァス偉い!。もふもふと撫でれば、にっこり笑顔で「わん!」とお返事が返ってきた。

「痛って!くそ、一応僕も主人だろカヴァス!」
「??」
「え、待って。そんな不思議そうな顔しないでカヴァス。僕の顔忘れちゃったの!?こんな国宝級イケメンのご尊顔忘れちゃったの!?」
「にぃ、半年ぶりに帰ってきたから……」
「くぅ〜〜ん?」
「嘘でしょ!?え、雅の顔は覚えてないよね?僕の顔忘れた癖に彼奴の顔は覚えてるとか許せないだけど!」
「にには2ヶ月に1度のペースで顔見せてくれるよ。お父さんはこの前中学の卒業式と高校の入学式出てくれたし……」
「嘘でしょ!?!?」

うぇええん、僕も休み取りたい!とにぃが寝っ転がって駄々を捏ね始めた。ににがにぃに良く言う28歳児ってこういう事を言うんだろうなって思う。普通にしてたらかっこいいのに、ちょっと子供っぽいところが勿体ない。
何て慰めようと考えていると、暴れているにぃを見てカヴァス(体重:約20kg))が遊んでくれる!と思ったのか、にぃのお腹にダイブした。「う゛ぉっ、!?」と一言にぃの口から漏れたあと、シーンと静かになってしまった。そんなこと気にせず、遊んで!とにぃの顔を舐め回すカヴァス。流石ににぃが可哀想なので、カヴァスの名前を呼んだ。

「カヴァス、お腹に乗るのは危ないからダメ」
「わん!」
「……………死ぬかとおもっ、た」

ピクピクと震えるにぃに近づき、慰めるように頭を撫でていると、スルスルとにぃは私の膝の上に頭を乗せた。お腹に顔を埋めてきて、ちょっと擽ったい…。撫でるのを止めると、「沙智」と一言名前を呼ばれ、辞めて欲しくないようだ。まぁ、久しぶりに会ったから、沢山構ってあげようと、ちょっとだけ上から目線。

カヴァスも満足したのか、私の背中にくっ付いて寝る体勢に入ってしまった。
さっき迄の騒ぎが嘘のような静寂。

電話で話そうと思ってたけど、今なら話せるかもしれない。ドキドキと胸が高鳴る。否定されるのが怖い、でも挑戦する楽しみの方が勝っている。

「……にぃ、あのね」
「うん」
「バレー部のマネージャーやってみたい」
「………それは飛雄のため?」

くるんと転がり、にぃが私を見上げた。
最初はそうだった。中学まで見れなかった、ひーくんの試合や練習を傍で見ていたかった。だけど、あの3対3を見て、意識が変わった。

「ひーくんの為と言うより、私の為かな」
「沙智の?」
「うん。最初はね、ひーくんと沢山ずっと居たいから、いいなぁって思ったの。でも、そんな意識なら、チームの勝ちに、私は必要ない。だけど、今はもう1つやりたい事が出来たから、にぃにお話してるの」
「そうだね。飛雄と一緒がいいが理由なら、僕は絶対賛成しなかったよ。それで?もう一つの理由は?」
「すごい子が居たの。まだちょっとただの石ころだけど、宝石になれそうな子。他の人たちも凄く綺麗だった。自慢したいって思った。このチームは凄いでしょって。応援したくなった、支えたい、私に何が出来るのかなって考えちゃった」
「………そっか」

にぃはフッと笑うと上半身が起き上がった。
昔と変わらない手つきで、頬を撫でられる。鼻が触れ合うくらい近づいて、内緒話をする様な声色でにぃは囁いた。

「あまり無理しないこと」
「!」
「それが条件。何時かちぃちゃんの自慢のチームを見てみたいな」
「ふふっ。見に来てもいいんだよ?」

冗談交じりにそう返した。
見て欲しさはあるけど、もしこの28歳児がみんなの前で駄々こね始めたら、妹として恥ずかしさで泣いてしまう。それに、にぃは火に油を注ぐのが好きだから、無駄に着火させて炎上させてきそうで怖い。田中先輩との相性最悪に決まってる。だが、にぃは私の気持ちを知らないまま、

「うーーーーん、あり寄りのあり」
「え?」

そう言うとにぃは立ち上がった。そして、服に付いていたカヴァスの毛を払う。

「ちぃちゃんって烏野だよね?高校」
「うん。そうだよ?待って、まさか…」
「じゃあ、飛雄は部活中だよね」
「にぃ、ちょっとまっt」
「沙智はお留守番しててね♡」

バタンと扉が閉まった。待って………待って!!。勢いよく立ち上がって、にぃの後を追う。階段を降りて、玄関に向かう。が、

「お嬢様?」
「うにっ!?」

背後から冷たい声。振り向きたくない。でも、無視して逃げ出しても、この人、りんちゃんから逃げられた試しがない。ゴクリと咥内に溜まった唾液を飲み込んむ。ブリキのおもちゃの様にゆっくり振り返ると、にっこりと笑うりんちゃんが立っていた。

「何を、しているんですか?」
「えっと、あの…にぃが」
「今日は1日安静にとお約束した筈なのですが、何故お部屋から出ておられるのですか?。しかも、外へ何をしに行かれるのですか?。……お嬢様は俺との約束を守れない悪い子という事でしょうか?」
「ちがっ!」
「悪い子にはお仕置が必要ですねぇ」

私が全てをいい切る前に、りんちゃんはパシリと私の手を掴んだ。ひぇ、もう逃げられない。

「お部屋でゆっくりとお話しましょうか、ね?」
「………………ひゃい」


ひーくん、ごめん。にぃを止められなかった。
罰として3時間のお説教お仕置を受けてきますね……………うぅうう、にぃのバカー!。




prev back next
top