やっと気がついたの?

「こういう時に限って知り合いに会えない…」

青葉城西の体育館内をウロウロして早数十分。何人かバレー部っぽい人、ここの生徒さんとかすれ違ったけど、知らない人に声を掛けるのは緊張して話し掛ける事が出来なかった。青葉城西って北川第一の人が多く行く筈なのに、なんでこんなに会えないの…。
早くしないと試合始まっちゃうよ……!。

「うぅ、翔くんも気になるから早く戻りたいのに…」
「お、やっと見つけた」
「う?…あ、勇太郎くん!」

声をかけられた気がして振り向いてみたら、見覚えのあるトンガリ頭の金田一勇太郎くんが居た。やっと知り合いを見つけることが出来て、思わず駆け寄ってしまった。やっと会えた!何か勇太郎くん、おっきくなってる気がする!。

「久しぶり!。背伸びた?。何か大きくなってる気がする!。あ、今日の練習試合よろしくね!あとね」
「分かった、分かったから落ち着けって!」
「あ、ごめんなさい…」
「そんなしょんぼりすんなよ。あと、身長は少し伸びたぜ。沙智はあんまり変わってなさそうだな」
「うぐっ……」

確かに伸びてないけど…。悔しくて、頬を膨らませているとドンマイと勇太郎くんが頭を撫でてきた。ちょっと雑に撫でられる感じが懐かしい。1番好きな撫で方はひーくんだけど、中学の同級生である勇太郎くんの撫で方は好きだった。英くんは偶に撫でてくれるタイプで、レア感が有るんだよなぁ。

「おい、き、金田一…そのび、美少女は…!?」
「う?」
「や、矢巾さん…。あー、えっと此奴は中学の同級生で」

勇太郎くんの影からひょっこり顔を出すと、灰色の髪をした男の人が私を指差していた。勇太郎くんがさん付けで名前を呼ぶってことは先輩だろうか。とりあえず、挨拶はちゃんとした方がいいよね。
勇太郎くんの影から出て、横に立つ。

「烏野高校1年の白崎沙智です」
「うぉ、はっい!俺は矢巾秀ですっ!!」
「!。矢巾先輩ですね!今日の練習試合はよろしくお願いします!」

矢巾先輩、いい人そう!。まぁ、勇太郎くんが懐いているから、いい人なのは当たり前か。思わずにこにこしていると、何故か矢巾先輩は顔がどんどん真っ赤になっている気がする。れ、練習試合有るのに熱あるのかもしれない!。大丈夫ですかっと近付こうとしたら、勇太郎くんにパシッと肩を掴まれて足が止まる。

「これ以上矢巾さんを刺激すんなよ…」
「?…しげき……??」
「無自覚かよ……」

刺激とは。んー?と考えていると、勇太郎くんが矢巾先輩を先に行ってくださいと声を掛け、矢巾先輩はふらふらとした足取りで私たちを追い越して行った。

「矢巾先輩、大丈夫そう…?」
「あー、おう。多分。…あ、そうだ、ほらよ」

と、手渡されたのは粉洗剤だった。か、貸してほしいと思っていたけど、なんで勇太郎くんが知っているの…。私がびっくりしているのに気づいたのか、勇太郎くんが更に続けて、

「王様が沙智に貸してやれってよ」
「そうなの…。ありがとう、勇太郎くん」
「おー。終わったら、返してくれればいいからな」
「うん。……勇太郎くん、ひーくんのこと王様って言わないで」
「……彼奴は自己チューの王様だろ」

間違ってねぇと付け足して、勇太郎くん言う。
ひーくんは自己中だけど、もう違うもの。だけど、まだひーくんのプレーを見てないから、そういう物言いになってしまうのも仕方ない気がする。悔しくて、勇太郎くんを睨みつけるけど、あんまり効力無かったみたいで、溜息を吐かれた。

「沙智、本当彼奴の事ばっかりだな」
「え?……そうかな?。色々考えてるよ?」
「そんな事ねぇよ。高校だって同じ所行ってるしよ」
「家から近い所を選んだだけなんだけど……」
「本当か?」

確かに志望校選びの時公立も私立もひーくんと合わせていた。ひーくんが本命は白鳥沢で、駄目だったら烏野に行くと言うから、私も白鳥沢と烏野の試験を受けた。 私は両方受かっていたけど、ひーくんが……。

「………ひーくんが居るから、烏野選びました」
「はァ…あんな奴の何処がいいんだよ」
「沢山ありすぎて試合始まっちゃう」
「嘘だろ……」

本当だよと言うと、苦虫を噛み潰したよう顔をされた。そんなに引かなくてもいいのに…。

「ずっと言おうと思ってたんだけどよ」
「?」
「お互い依存しすぎて自滅すんなよ」
「?………うん?」
「首傾げながら頷くなよ……」

だって、意味がわからなかったんだもの。
うーんと考えてみるが、私はひーくんに依存していると思う。ひーくんが居たから、手術とかリハビリとか頑張ったし、彼と少しでも長く居たいと思う。
ひーくんはどうだろう。私に依存してくれているなら嬉しいなぁ。だって、私だけ大好きなのは狡いと思う。
まぁ、例えしてなくて、私が彼のことが大好きなのは変わらないのだから、

「大好きな人と一緒に居られて、死ねるなら私はそれで満足かなぁ」
「チッ。マジで満足そうに笑うな」
「えへへ」

勇太郎くんはやれやれとポーズを取りながら、私に背を向けて歩き出した。お話は終わりらしい。でも、向かう先は同じなのでついて行く。

「……今日は負けねぇから」
「!。こっちも負けないから」

そう言うと、勇太郎くんはわしゃわしゃと私の頭を掻き回した。嬉しいけれど、

「ひーくんに整えてもらったのに崩れちゃう!」
「おま、まだ結んで貰ってんのかよ!?」
「だって、ひーくんが結びたいって…!」
「うわ…沙智、王様に独占欲がキモイって言っておけ」
「え??」




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