がんばってるもん


勇太郎くんと別れ、烏野陣営に戻ってみると、ガタガタ震える翔くんとそれを慰める澤村先輩が居た。本当、大丈夫かな…翔くん…。ひーくん…は、ダメだ、喧嘩になる。蛍くんも喧嘩になりそう。あ、忠くんなら!。…でも、忠くんも一緒に緊張しはじめたらどうしよう…。うぅ、同級生メンバーだと、更にややこしい事になってしまいそう。

「白崎さん!」
「は、はい!」

うーんと悩んでいると澤村先輩に声を掛けられた。

「同級生のマネージャーとして、日向に何か気の利いた声を掛けてやってくれないか?」
「声………」

気の利いた声…。其れならひー君が試合に出る時に掛ける言葉で大丈夫だろうか。ぽてぽてと翔くんに近づき、肩を叩いてみると真っ青な顔をした翔くんが振り返った。彼の両手を握り、

「翔くんのかっこいい所を見るの、楽しみにしてるね」
「!?!?」
「わっ!」
「(トドメを刺してしまった…スマン日向)」

翔くんが顔を真っ赤にして爆発した。か細い声で翔くんは頷くとカクカクとした動きでコートに近づいて行った。硬い動きだけど、試合に参加する意欲はありそうだから、大丈夫かなぁ。
翔くんを見守りながら首を傾げていると、今度は私の肩を誰かに叩かれた。振り向いてみると

「ひーくん?」
「ん」

パッと両手を出して、ひーくんは立っていた。
何時ものをやれってことだろう。いいけど、彼は相棒がガタガタになっているの分かっているのだろうか。不安しかない……。
キュッと彼の両手を握って、

「ひーくんが今日も素敵なバレーが出来ますように」
「ん」

彼はニヤリと笑うとコートに向かう。今から元メンバーと戦うというのに、いつも通りな姿で。やっぱりひーくんはかっこいいなぁ。

「ふふっ。頑張れ、ひーくん」


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あ、勇太郎くんと英くん、スタメンなんだ!。矢巾先輩も居る…!。それに岩泉先輩も居る!。スタメンのメンバーは殆ど北川第一も元メンバーばかりだ。さっきあんなに会えなかったのに、勇太郎くんしか会えなかったのに不思議で仕方ない……。
そう言えば及川先輩がいない気がする…。青葉城西のベンチを見ても何処にも居らず、今日はお休みなのだろうか。セッターも矢巾先輩がやるみたいだし……。
多分青葉城西にとって今出せるベストメンバーなのだろうけど、こっちはひーくんを出せって指示なのに、あちらは本当のベストメンバーじゃないってどういうこと!舐めてるってこと!?。頬を膨らませていると、潔子先輩に頬をつつかれた。

「どうしたの?沙智ちゃん」
「うぅ……青葉城西に舐められてるみたいなので…むぅ」
「え?どういうこと…??」

首を傾げる潔子先輩に理由を説明をしようとしたら、試合開始の笛が鳴ってしまった。
青葉城西からの攻撃。少し威力が高いサーブが烏野のコートに入る。だが、ボールは真っ直ぐ澤村先輩の前に向かった為、澤村先輩ならちゃんと上げられると思い、潔子先輩との話を進めようと思ったが、

「え!?翔くん!?」
「バカか!。どう見てもおめーの球じゃねェだろ!!」
「ごめんなさい!!!」

澤村先輩が声を出したのに、何故か翔くんが突っ込んで来た。当たり前だが、ボールは変な方向に飛んでいき、バックライトにいた縁下先輩がカバーをして何とかフォロー出来たが……。

「潔子先輩………これって」
「完全に呑まれてるね、日向……」

どう見ても自分の球じゃないものまで取りに行ったり、ネットに突っ込んでいったり、主審に突撃したりとエトセトラ。翔くん、全部1人でやろうとしてる気がする。ひーくんも一時そんな感情でバレーをやっていたけど、まだひーくんは技術があったから、何とか繋ぐことが出来ていたのに、翔くんだと……うん。バレーは一人でやるスポーツじゃないのに。
チラリと点数を見てみると、24対13。これは1セット落とすだろうけど……、これが2セット以降にも続くとなると……囮も速攻も試すどころじゃない。

「てめえええ!!。いい加減、その緊張やめろォォ!」
「ま、待ってくれっ。まだチャンスをくれぇっ」
「ハァ!?」

ひーくんが鬼のような顔で翔くんを怒っている。わわっ、好きで緊張してる訳じゃないと思うよ!落ち着いて!と声をかけてみるが、届いてる気がしない…!。でも、これ以上翔くんを追い詰めるのは良くない…、だって、次のサーブ……翔くんなんだよ…!!。

「あわわっ、大丈夫かな、翔くん…!。息してるかな……なんか急にお腹痛くなってきました……」
「沙智ちゃん、慌てすぎ。深呼吸して」
「うぅ、潔子先輩…」

潔子先輩に背中を摩られながら、翔くんを見守る。カチコチに固まって、どう見ても翔くんは息をしてないように見える。せめて、真っ直ぐ敵側のコートに入って!。ぎゅっと両手で祈るが、私の想いは届かなかったようで

『ピーッ』

「ひっ!!!」

翔くんの悲鳴と共に打たれたサーブ。音的にちゃんとボールに当たって居らず、

『バチーーーーン!!!!』

「ひ、ひーくん!?」

ひーくんの頭に特大ホームランが入った。
あ………コレはダメなやつだ……。



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