比翼連理

「おっしゃあああ!!。このまま最終セットも獲るぜええ!!!」

日向が元に戻った事で、あの速攻は勿論のこと囮が機能した事により他のスパイカーがブロックに捕まることなく点が決まるようになった。最初の1セット目が何だったのか、2セット目は気持ち簡単に取れた気がする。だか、多分それは"あの人"居ないからだ。

「青城に…影山みたいなサーブ打つ奴居なくて助かったな……」
「ああ。ウチはお世辞にもレシーブが良いとは言えないからな」
「油断ダメです」

澤村さんと菅原さんの話に待ったを掛ける。岩泉さんのサーブも強いが、青城にはあの人が居る。何で今ここに居ないのかは分からねェが、俺が参考にしたサーブを打つあの人が居るはず。それに、

「向こうのセッター、正セッターじゃないです」
「「「えっ!?」」」

日向、菅原さん、田中さんの驚きの声と共に笛の音が響いた。第3セット開始の合図だ。あの人が居ない状況で勝つのは些か悔しくはあるが、余り戦いたくないとも思ってしまう。……居ないなら居ない内に勝たせて貰おうと思っていると、

「アララッ。1セット取られちゃったんですか!。沙智ちゃんの言う通りになっちゃったよ」
「ふふっ。このまま逆転勝利頂きますからね」
「うわ〜生意気〜、このこのっ!」
「うぅ、頬スリスリしないで下さい、痛いです…!」

聞き覚えのある声と俺の宝物の声が一緒に聞こえた。彼奴、あの人には気をつけろって言ったのに、何で一緒に居んだ!?!。

「おお!戻ったか!。足はどうだった!…って、隣のお嬢さんは烏野の娘だろう、何連れ込んでんだ…」
「バッチリです!。もう通常の練習イケます。沙智ちゃんは俺の後輩で、途中で会ったので」
「お邪魔してすみませんっ。もう戻りますので……及川先輩、離してください」
「えぇ〜。このまま青城に転校したら?」
「やです。セクハラする先輩居るところには行きません。さっきの、驚いたんですからね」
「セクハラじゃなくて愛情表現でショ〜♡」

あの及川先輩に肩を組まれて、イチャイチャしている沙智を見ていると、腸が煮えくり返る。彼奴、何、俺以外の奴と………!!!。

「沙智ッッ!!!!!!!!!!!」
「ぴゃあ!?」

体育館全体に響く様な声で沙智を呼ぶと、沙智は悲鳴と共にゆっくりと此方を振り返る。何で怖がってんのかも分からなくて、更に腹立つ。チッ!!!と思いっきり舌打ちをすると、

「戻ります!!。ゆゆゆ勇太郎くん、洗剤ありがとう!!」

持っていた洗剤を金田一に押し付けると、俺の目の前に駆け寄ってきた。小さな身体を更に縮こませている。

「おい」
「ひゃい!」
「あの人に気をつけろって俺、言ったよな…?」
「え、あの人っておいか「あ゛?」なんでもないです!ごめんなさい、言われました!!」
「沙智、お前、自分が誰の物か分かってんのか」
「はい!!ひーくんのものです!!!」
「チッ…次から気をつけろよ」
「サー、イエッサー!!」

ピッと勢いよく敬礼をする沙智。迷ったり悩んだりせず、俺のものである事を肯定してくれた。未だ少し腹立たしさは残ってはいるが、俺のである事を宣言してくれたし、許してやるか。頭を撫でるとにへらと脳天気な顔をして「えへへ〜」と笑っている。
やっぱり、沙智は可愛いと実感をしていると、

「やっほー、飛雄ちゃん」
「うにっ!?」
「及川さん、沙智の身長が縮むんで辞めてください」

沙智の頭に両腕を乗せながら、及川さんは俺に手を振ってきた。昔からだが、この人が沙智に触れる度にイライラしてしまう。聞いた事はないが、本能的にこの人も俺と同じ気持ちを沙智に向けていると感じてしまうからだろうか。

「今日も元気に王様、やってるね〜」
「はァ?」
「沙智ちゃんがホント可哀想ォ。こんな奴から早く引き離してあげなきゃね。ね、沙智ちゃん」
「いた、痛いですっ、及川先輩……!」
「及川さん。どういう意味っスか」
「じゃ、俺はアップしてくるから、3セット目よろしく〜」

その言葉を最後にヒラヒラと手を振って、コートから出て行った。アップをするって事は途中で来るってことか。交代か、ピンチサーバーか。

「痛かった……」
「結構グリグリされてたから、身長縮んでそうだな」
「え!?。あとちょっとで150だからやだ!!」
「文句は及川さんに言えよ」
「…………岩泉先輩に言いつける……」
「…………確かにそっちの方が効果的だな」

中学の時に及川さんが巫山戯る度に岩泉さんがシメていた事を思い出す。
及川さんも去ったし、沙智も戻ってきた。3セット目の笛も鳴っていたから、そろそろコートに入るか、振り返ると

「……なんスか?」

全員がこっちを見ていた。この状況、見覚えがある。つーか、よく体験している。また何かやっちまったか?……あ、

「さっきのが及川さんで、俺と沙智の中学の時の先輩です。超攻撃的セッターで攻撃もチームでトップクラスだと思います。俺、サーブとブロックはあの人を見て覚えました。……あと、凄く性格が悪いです、月島以上に」
「ひーくん、それは及川先輩と蛍くんに失礼だと…」
「あ?事実だろ」
「えぇ……」

急に現れた及川さんの紹介をし、改めてコートに向かおうとしたが、日向が「待て待てっ、影山!」と声掛けてきた。

「何だよ」
「おま、ホントッ、空気読めないよな!?!」
「はぁ!?」
「あの、大王様に驚いてるんじゃなくて、俺らはお前の発言に驚いてんの!!」
「あ?俺の発言?」

というか、大王様って何だ。話の流れ的に及川さんの事だろうが、一体なんでそんなあだ名になってんだ。

「急に大きな声を出したかと思えば、沙智ちゃんに、沙智ちゃんに、もおおおお!!!」
「ハッキリ言えよ!日向ボケェ!!!」
「待って、喧嘩しないで!」

「影山って独占欲高いよなぁ……」
「ホント。無自覚で独占してるしな……」
「俺、あの優男にイラついてた感情が吹き飛んだんスけど。影山のせいで」
「早く付き合えよって感情、初めて知りました……」
「王様もだけど、沙智も満足そうにしてんの、腹立つ」




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