いい加減くっつけよ

手を洗いながら思い出す。
今でもあの出来事は鮮明に目に浮かんでくる。

個人技だけ見たら影山は俺らの中で頭1つ抜けていた。最初の頃は監督も俺も先輩も後に出来た後輩も、彼奴は天才であると理解していた。だが、何を考えているのか分からないまま、彼奴のトスはどんどん速く、打ちずらい物になっていった。スパイカーを置いて行ってしまうトスを、気持ちのいいスパイクを打たせようとしないセッターは必要なのか。

俺らが最上級生になった時には、
もう我慢の限界を超えていた。

『俺達はもう影山には限界なんです。幾ら個人の攻撃力が高くても、明らかにチームの足を引っ張ってます。……正直、居ない方が助かる』

そう監督に伝えた後にあった、俺らの最後の試合。

『もっと速く動け!!もっと高く跳べ!!俺のトスに合わせろ!!勝ちたいなら!!』

そう叫んだ影山に、俺達は見切りを付けた。
彼奴が最後に上げたトスが床に転がっていく。振り返った影山の顔は"なんで"と言っていた。何でって何故お前が其れに気が付かないんだ。寧ろ俺らが何時までも我慢できる、お前のトスを信じていると思っていたのか。ベンチに下げられた影山を見たくなくて、何となく応援席に目を向けた。

背の高い中学生っぽい男に慰められる様に、大粒の涙を零している沙智王様の宝がそこに居た。

沙智は良く言っていた。
『ひーくんは凄いセッターなんだよ』と。
なぁ、沙智。コート上の王様こんな奴の何処が凄いんだよ。


バシャバシャと嫌な記憶ごと汚れを落としていく。あの時監督に伝えた言葉も彼奴のトスを見限ったことも沙智を泣かせたことも俺は間違ってもなければ、後悔もしていない。アレで良かったんだ、あれらが最善で、別の道に進むきっかけになったのだ。だから、

「金田一」

名前を呼ばれ、振り返れば影山が居た。
よく見たムスッとした、何を考えてんのか分かんねぇ顔を此奴はしているが、言いたいことは想像が付いていた。

「……お」
「謝ったりすんなよ!!!俺も謝んねえ!!」

影山の言葉を遮るように声を張り上げる。
俺は間違ったことをしていない。そして、此奴もあの横暴のトスは、此奴にとっての最善な攻撃手段であったことは分かっていた。唯其れに俺達は着いていけなかっただけなのだと。
出来ない、着いていけないと認めるのが悔しかった。その悔しさがいつの間にか、スパイカー俺らに打たせようとしないトスへの怒りへと変わってしまったことに。

そして、今日、あのコート上の王様が俺らにはしなかった、スパイカーに合わせてトスを上げていた。あの影山が他人に合わせる。あのちっせぇ5番にはそうさせる程の能力があると監督は言ってはいたが、多分それは違う。影山は元からやろうと思えば、誰かに合わせる事は出来ていたはずだ。でも、中学の時にはそれはしなかった。
此奴の自己中でプライドの高さもあるかもしれねえが、きっと此奴も俺らでは先に進めない、勝てないと見限っていたんだと思う。
どっちが先かなんて分からない。俺かもしれないし、此奴かもしれない。もっと言えば同時だったかもしれない。だとしても、此奴は俺を見限ったとしても、俺はもっと出来る、勝てるってことを此奴に知らしめたい!!。ああ、本当に!!!!!。

「お前は俺ん中では、これからも横暴な王様で、ムカつく奴で、最高にぶっ倒したい相手だ!」
「……おう」
「だから謝んな!」
「おう」
「"ナカナオリ"なんかしねえ!。別に元々仲良くねえしな!」
「おう」
「そんで、次は俺達が勝つ!!」
「………次も「あ、ひーくん!」!?」

能天気な呼び声が響いた。この声もこの呼び名も、彼奴しか有り得なくて、タイミング悪すぎる。でも、こういう事は中学の頃からよくあった気がする。俺と影山で言い争っていると、今のような馬鹿みたいな声が割り込んできたり。思い出して、溜息を吐いた。

「ひーくん、タオルあったよ…って、勇太郎くんだ!」
「沙智、お前空気読めないだろ」
「影山と同意。今、俺ら大事な話してたんだぞ」
「え!そうなの…?ご、ごめんなさい……」

笑顔でパタパタと近づいてきたが、俺の言葉にしょんぼりと俯いてしまった。そんな沙智を甘やかす様に影山は「お前にも聞いてて欲しかったから、気にすんな」と頭を撫で始めた。

「………私も?」
「おう。……金田一」
「おう」
「次、戦う時勝つのは俺達だ。…帰るぞ、沙智」
「え、もう!?わ、私まだ勇太郎くんと英くんとお話したい……!」
「公式戦とかで会えるだろ。我慢しろ、ボケ」
「うぅ………って、今ひーくん、俺達って!」

影山と沙智はあの頃と変わらないまま、指を絡めて去って行った。其れを俺はじっと見詰めていた。

『勝つのは"俺達"だ』

あの1人で戦うことを選んだ影山が、"俺達"と言っていた。其れを俺たちが言ってやる、言わせることが出来なかった。まだ入部して数週間のくせに3年間共にした俺らにはなし得なかったこと。

「悔しくて……仕方、ねぇな」

呟かれた台詞は誰に届くこと無く、落ちて、消える。

沙智。少なくとも今日の変人速攻の要、完璧にスパイカーに合わせたトスは、すげぇと思ったよ。
絶対本人にもお前にも言ってやらねーけどな!!!。というか、彼奴ら、

「あ、金田一。やっと見つけた」

靴音を鳴らしながら、影山達が消えた角から今度は国見が現れた。やっと見つけたって事は誰かに呼ばれてんのか、其れとももう片付けやんのかとか聞きたいことはあったけど、

「まだ影山たち、付き合って無さそうだったぞ」
「うぇ、マジ?本当いい加減に」






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