執着か、恋着か



青葉城西にお礼の挨拶をし、学校を後にした。
校門前に武田先生がバスを持ってきてくれるそうなので、私たちは各々先程の試合の事を考えながら、校門へと向かっていた。校門まであと数メートルというところで、澤村先輩が話し始めた。

「武田先生はああ言ってくれたけど、いくら日向と影山のコンビが優秀でも、正直周りを固めるのが俺達じゃあまだ弱い。……悔しいけどな」

確かに最初のレシーブが上がらないと攻撃には繋げられない。これから強くなるとしても、レシーブは簡単に上手くなるようなものでも無い。
烏野ってリベロとか居ないのだろうか。居てくれたら、今日の及川先輩のサーブも少しは攻略しやすかったと思うのに。むぅと頬を膨らませていると、

「おお〜、流石主将キャプテン!。ちゃんも分かってるね〜〜」

声がする方を見れば、校門に寄りかかりながら、微笑んでいる及川先輩がいた。そう言えば、さっき青葉城西の人達と挨拶をした時に、及川先輩居なかった気がする……。まさか、何か言う為にずっとここで待っていたのだろうか…。大事な話とかかな?。
なんだと思う?とひーくんを見上げれば、何故か彼はムッとした顔をしていた。

「ひーくん…?」
「沙智、隠れてろ」
「へ?、きゃ!!」

グイッと手を引っ張られて、ひーくんの後ろに隠される。なんか"俺の背中から出るな"っていう圧が強い。……元々ひーくんと及川先輩ってライバル同士で、特にひーくんは及川先輩を勝ちたい相手でもあり、怖い人って思っていた事は知ってた。そして、あんまり私と及川先輩が仲良くしている場を見ると、今日みたいに怒鳴ったり、不機嫌になったりしていた。だけど、何だか今日は一段と及川先輩の事を怖がっていて、私と関わって欲しくなさそうだ。
ひーくんが嫌がる事を進んでやりたいとは思わない。さっきは誰の事を言っているのか分からなくて、普段通りに及川先輩と話しちゃったけど、怒られてしまったし、大人しくしていよう。ひーくんの背中にくっつきながら、事の成り行きを見守る。

「なんだコラ??、やんのかコラ??」
「なんの用だっ、やんのかァコラァ」
「そんなに邪険にしないでよ〜。挨拶に来ただけじゃ〜ん?」

田中先輩とその先輩にくっつく翔くんが、及川先輩を睨みつけているが、当の本人は効いてない様で、翔くんへニッコリと笑いながら話しかけ始めた。

「小っちゃい君、最後のワンタッチと移動攻撃ブロード凄かったね!」
「え゛っ、あっえっ、えへへっ」
「今日は最後の数点しか戦えなかったけど、次は最初から全開で戦ろうね。サーブも磨いておくからさ」

チラリと蛍くんを見ながら言う及川先輩。
今日は最後しか出ていないけど、また次青葉城西と戦う機会が合ったら、あのサーブが最初から炸裂する事になる。やっぱり早く何とかレシーブを何とかしないと、全国なんて夢のまた夢になってしまう。
握っていたひーくんのジャージに更に皺が寄った。

「君らの攻撃は確かに凄かったけど、全ての始まりのレシーブがグズグズじゃあ、直ぐに限界が来るんじゃない?。強烈なサーブを打ってくる奴は何も俺だけじゃないしね」

そう言う及川先輩の声が何だか、段々此方に近づいてきている気がする。か、帰るのかな…!、バレないようにしないとと、身体をこれでもかってくらい縮ませて隠れる。が、及川先輩の足音は何故かひーくんの目の前で止まり、

「IH予選はもう直ぐだ。ちゃんと生き残ってよ?。俺は、クソ可愛い後輩を公式戦で同じセッターとして、正々堂々叩き潰したいんだからサ」
「っ!」
「そんで、お姫様は貰っちゃうから、ね♡」
「ぴゃっ!?」

ひーくんに宣戦布告をしていたと思っていたら、何故か彼の背後を覗き込んで、私にウインクしてきた。吃驚して声が出てしまったけど、今日はもう及川先輩とお話しないって決めてるので、ぷいっとそっぽを向いておく。というか、"お姫様"って何!?。またあの変な渾名のことだろうけれど、恥ずかしいから辞めて欲しいのに!。それに、"囲われた"とかじゃなくて、私は好きでひーくんと一緒に居るんだから!!。

「あ〜らら。振られちゃった。まぁいいや……一朝一夕で上達する物じゃないレシーブを、大会までにどうするか楽しみにしてるね」

そう言って、今度こそ及川先輩は私たちの元から去っていった。本当、唯烏野に……ううん、ひーくんに宣戦布告をしたかっただけ、みたいだった。

だとしても、烏野に対して喧嘩を売られたのは事実であり、弱点を突かれたのも事実。みんな、口を閉じて、怖い顔をしている。
ひーくんも繋いでいた手が、痛いほど握り締められた。私はずっといるよ、一緒だよって言葉を掛けたいけど、空気が重すぎて声が出ない。
そんな時だった。澤村先輩の低く、怖い笑い声が。

「………ふふっ」
「主将!?」
「大地さん!?」
「…確かにIH予選まで時間は無い。けど、そろそろ戻って来る頃なんだ」
「「「??」」」
「?何がですか?」

2年生以上の先輩たちは、澤村先輩の言葉に続くように口々と「そうだった!」「彼奴が戻ってくる!」等と言う。1年生の私たちはなんの事か分からなくて、首を傾げ、代表して翔くんが澤村先輩に質問をした。

澤村先輩は私たちを見渡し、そして自信満々な顔でにいっと笑うと、




「烏野の"守護神"」





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