「負け惜しみは止せ!カッコつけて言ってもムダだ!」
「プークスクス」
「違いますよっ!!カッコつけてません!。実際今日4強に勝ったじゃないですか!」
「まぁな!。あの青城に2-1!」
田中さんの後ろに隠れて、俺を笑う日向の胸倉を掴みながら吠えると、田中さんは今日の勝利を思い出してか満足気な顔で頷いた。
別に白鳥沢に落ちただけで負けが決まった訳じゃねェのに、負け惜しみとか言われると腹が立つ。沙智の期待に応えられなかったのは悔しかったが、さっき俺が言ったようにどの学校に入っても、やる事は変わらないし、対戦相手も同じ高校生だ。勝てない理由なんてないんだ。
「翔くんの囮のおかげで田中先輩たちが、フリーで決められたのがおおきかったよね。流石翔くん!」
「え、えへへ。そんな、天才だなんて」
「そこまで沙智は言ってねェぞ、ボケ!」
「ふふっ。翔くんって存在感が有るから、みんな注目してたよ?。青城の人たちも、その応援の人たちも」
「うぇ!?そんなに!?」
確かに体育館に居た青城の生徒たちが、「あのちっさい奴」とか言っていた気がする。流石に遠すぎて、何を言っていたかまでは分からなかったが、コート上だけでなく応援席の奴等まで日向の光に集まっていたのだ。此奴、本当に磨けば1級品の囮になる。だが、
「得点と同じくらい失点もしてんだから、沙智に褒められたとしても満足すんなよ」
「1セット目、盛大にやらかしたもんな」
「なんでそういうこと言うんだよ!」
俺と田中さんが日向にそう言っていると、もっとフォローしてやれ!と菅原さんから野次が飛んできた。フォローって……沙智がさっき迄褒めてたんだから、もう充分じゃないのか??。
首を傾げながら考えていると、澤村さんが小さな声で「そうなんだよ」と話し出した。
「俺たちにはまだ色々足りてなくて、今日の勝利もギリギリだった」
「い、いっぱい練習しますっっ!」
「あっうん!個人のレベルアップも大事だな!。でも……今の烏野は根本的にメンバーが足りてないんだよ」
「守備の要の"リベロ"と、
連携攻撃が使えない時でも1人で敵の3枚ブロックと勝負できる"エーススパイカー"」
ずっと気になっていたことだった。
澤村さんも菅原さん、田中さん、他の先輩たちも、全国を本気で目指して居るのは、練習を共にする事で伝わっていた。だが、本気で目指しているくせに大事なポジションであるリベロもエースも不在なのはどうしてかと。田中さんもかなりのパワーがあるから、3枚ブロックと勝負出来そうではあるが、誰もエースとは呼ばないし、本人もその意識は余りにも薄い。リベロもこのチームで1番レシーブが安定しているのは澤村さんで、澤村さんも今回の練習ではリベロと名乗らなかった。それと、無理をして倒れた烏養監督の意思を引き継ぐ、
「監督又はコーチも足りてませんよね?。武田先生は技術面では初心者って仰ってましたし、練習中も多分昔烏養監督から教わった内容ですよね?」
隣に立った沙智が澤村さんに問い掛ける。
沙智の言う通り、基本練習の指示は澤村さんから出されており、時折清水さんのノートを見ながら練習内容を決めている場面を何回か見た。多分あのノートに今まで烏養監督がやっていた練習が残されているのだろう。伝統のように練習内容を続け、後輩に伝えていくのも大事だが、俺たちに合わせた練習を取り組まないと意味が無い。
其れに今日の練習試合で感じたが、やっぱり采配を取れる監督が居ないのは結構キツい。今回は沙智と澤村さんのお陰で、月島を下がらせ、澤村さんの守備範囲を広げ、何とか及川さんのサーブを取るという作戦を思いついたが、監督の様な存在が居たら、もっと早く作戦を立てれたかもしれない。
「あぁ。少なくともその3人が、今の烏野には足りてないんだ」
「え、エースならおれが!」
「お前は"最強の囮"だっつってんだろ!」
「〜〜〜っ!!」
まだ日向の軽いスパイクでは3枚ブロックを撃ち抜くのは無理だ。精々今日のように躱すのが精一杯か。
まぁ、エースが取った1点も、囮の日向が取った1点も同じ価値と重さがある大事な1点であるのは変わりない。お前はお前が出来ることをやればいーんだよ!と日向を睨みつけながら思う。
「そう言えば澤村先輩、バスに乗る前に"守護神"が戻ってくるって言ってましたよね?。守護神って言うからにはリベロの人ですか?」
「うん」
そう言えばそんな事を言われた気がする。
チームの人から守護神なんて異名で呼ばれるってことは、相当上手い奴なんじゃねェのか。
でも、何でそんな人が今此処に居ないんだ。
俺がその疑問を口にする前に菅原さんが話し出す。
「
烏野は強豪じゃないさど、特別弱くもない。今迄だって優秀な人材は居たはずなのに、その力を繋げてなかった。……でも、また皆が揃って、そこに1年生の新戦力も加わって、その戦力をちゃんと全部繋げたら、」
「………夏のインターハイ…」
澤村さんが菅原さんに続くように、俺たちに向けて言う。
「『全国』がただの"遠くの目標"じゃなくて、"現実に掴めるもの"に……きっとなる」
「夏のインターハイ…!聞いたことある!」
「運動部に入ったら、必ずある大きな試合の1つだね。基本6月ぐらいから始まるはずだよ」
「へー!沙智ちゃん、物知り!」
えっへんと胸を張っている沙智を横目に、さっきから気になっている事を口に出す。
「そのこれから戻ってくる人は、今までどうしてたんですか?」
だが、聞いてみたものの菅原さんと田中さんは苦い物を食べたような顔をした。なんだ?聞いちゃいけないことだったのか……?。謝った方がいいのか、これと焦りだしていたら、重たい口を開けた田中さんが
「1週間の自宅謹慎と約1ヶ月の部活禁止だったんだ」
「「!?」」
説明してくれたが、その内容は斜め上の話で思わず沙智と一緒になってびくりと驚いてしまった。怪我とかじゃねェのかよ!。いや、怪我しろ!って訳じゃねェけど、自宅謹慎に部活禁止って…その人は一体何をやらかしちまったんだよ!?。
「ふ、不良!不良!?」
「に、にぃとににみたいな事してるの…守護神さん…」
「いや流石にあの人達みたいに暴れ尽くしてはいないだろ……、そうですよね!田中さん!」
「いや、どういう意味だよ、影山。……彼奴は不良じゃないんだが、ちょっとアツすぎるだけなんだよ。良い奴なんだよ、マジで」
田中さんも相当アツい人だと思うが、それを越えると言うのか守護神は。どんだけだよ……。俺たちの引きぎみの態度を無視して、田中さんは自慢げに話を続ける。
「彼奴はな、烏野で唯一天才と呼べる選手だ!」
田中さんはそう断言し、澤村さんも菅原さんも続くように頷いた。3人が天才と認めるアツすぎる守護神。一体どんな人なんだろうか。
「まぁ、今ではクソ生意気影山が入ってきたから、"唯一"じゃ無くなったけどな」
「……………」
むず痒い。自惚れではあるが、天才と言われることは何度かあった。でもそれはチーム外の奴らからが大半で、田中さんのように真っ直ぐに伝えられたのは初めてのこと。むず痒くはあるが、嫌な気持ちではない。寧ろ、この感覚には身に覚えが……。
ジャージの裾を引っ張られ、下に視線を下ろせば、優しく微笑む沙智。あぁ、そうだ。身に覚えがあって当たり前だ。ずっと傍にいた沙智が1番俺に
期待を向けていたんだから。
ちゃんと応える。お前と先輩の気持ちに。
だから、お前はこれからも俺を
期待してろよ。
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