Dear my everything.

ひーくんの毎夜の日課の筋トレと練習試合の結果と反省をノートに纏め終え、私もカヴァスのブラッシン等も終え、お互いお風呂にも入って、後は寝るだけになった今。
今日は朝から色々あったから、ベッドに入った瞬間にどっと疲れが来た。薬を飲まなくても寝れそう。ひーくんに電気を消してもいいか聞こうとしたら、

「沙智、仲直りのヤツやってねェ」
「あ、お家に帰ったらって約束だったね」

起き上がって、隣に座っているひーくんに抱きつけば、彼も私の方を向いて抱きしめてくれた。コレで今度こそ仲直りだ。ひーくんに抱きしめられたおかげで、更に眠くなってきた気がする。肩に頭を乗せて、「おやすみ、しよ?」とお願いしてみたが、ひーくんの返答は無く、

「っ!?」

唇が重なった。
私がバスでひーくんにやったような、触れるだけのキス。たったそれだけであの時の全部食べられてしまったかのような荒々しいひーくんのキスが鮮明に思い出された。恥ずかしくて、逃げるように距離を取るが、背中に腕がガッチリと回っており、たったの20cm程度の距離しか取れなかった。

「もう1回」
「あ、ぅ」
「してェ。ダメか?」
「あ、あの……なんで…」
「ん?」
「なんで、きゅう、に、…なの?。わたしが、ちゅってした、から……?」

顔が紅くなる。熱い、恥ずかしい。聞いたのは私なのに、羞恥でどんどんと声が小さくなってる気がする。ひーくんに伝わっているだろうかと、俯いていた顔をチラリと上げると、

「ぴゃっ!…って、きゃ!?」

ひーくんの真顔に驚くのも束の間、其の儘後ろに倒されて、ひーくんが私を馬乗りになった。さ、さっきより逃げ出せなくなってる気が……!!。上を見上げても、未だに真顔のひーくんがいて怖くて仕方ない。でも、この状況を救ってくれるのはひーくんしか居ないのも確かなのだ。此処は勇気をだして話しかけるしかない。

「あ、あのひーくん…うごけ、」
「沙智」
「は、はい」
「好きだ」
「!」
「好きだ、沙智。大好きだ。このまま溶けて消えてひとつになりたいって思うくらいに」

真顔だったひーくんの顔が、甘く優しい顔になった。ゆっくりと頬から唇を宝物の様に触れられる。多分、私のなんでキスをするのかの答えを伝えたのだろう。だけど、答えと言うより"お願い"みたいだ。きゅーと胸が熱い。ふわふわと幸せな気持ちが浮かんでくる。
私も彼に応える様に手を伸ばして、彼の頬を撫でる。

「………優しくしてね」
「お前、ホントずるいよな」

呆れるような言い方なのに、表情は優しい。だって、"いいよ"なんて言うのは、恥ずかしいんだもん。でもね、コレだけはちゃんと言えるよ。

「ひーくん。私を幸せにしてくれてありがとう」
「っ!」
「私もひーくんと、」
「もう黙れ」
「んんッ……!」

バスでは初めてだからだったのか、優しく口の中を暴かれる様に探られたのに。
話の途中で噛み付かれる様にキスをされ、急な展開で開いてしまった唇をいい事に、ひーくんの舌が口内へ侵入してきた。もうひーくんの舌で触れていない所はないと言えるほど、隈無く舐め回され、最後に私の舌と絡ませて、じゅるじゅると吸われていく。余りの暴れっぷりに着いていけず、酸素がどんどん足りなくなってきた。

「ん…っ、ふっ…ぁうんんッ」

顔を逸らして息を吸おうとしたら、駄目だと言わんばかりに、顎を手で掴まれ、逸らすことが出来ず、バスの時みたいに胸を叩いて限界を伝えたくても、此方もいつの間にかに両手は私の頭上にあり、ひーくんの片手でベッドに縫い付けられていた。
そして罰の様にさっきよりキスが激しくなり、舌をひーくんの舌で引っ張り出されて、口の外で交わっている。舌から流れ込んできたどちらのものか分からない唾液に溺れそうになる。息が苦しい、溺れちゃう、もう限界と耐えきれず目を開けると、彼の黒い瞳と目が合った。その瞳は初めて見た気がした。優しいんだけど、荒々しい、獣のような……。

「っ、はぁっ……ふっ、目、蕩けてる。可愛い…」
「んっ、はぁ……ん、はぁっ、んぐ」

口の中に溜まっていた唾液を飲み込んで、息を整える。溺れちゃうかと思った。肩で息をしていると、グイッとまた急に身体を引っ張られた。ひーくんは力が入らない私を良いように、胡座をかいた自分の上に私を座らせた。少しだけ私の方が視線が高くなる。
何時もなら「視線が高ーい」とか何とか声をかけるけど、酸欠の脳では正常な判断が下せなくて

「沙智、舌出せ」
「………んぅ?」
「そう、いい子。そのままお前の唾液を俺に流して」
「……ぁう…」

つーっと私の舌を伝って、ひーくんの口の中に私の唾液が流れていく。それをゆっくりとひーくんは飲み込むと満足そうな顔で、私を見上げた。

「さっき俺のを飲ませて、今沙智のを飲んだんだ。俺のが沙智の1部になって、沙智のが俺の1部になった。はっはは、気持ちいい、最高だ。……なァ、沙智」
「………んぅ?」
「もっと溶けて、気持ちよくなろうな」

そう言って、ひーくんはまた私の口に噛み付いてくる。舐められて、吸われて、飲まれて、時に噛まれて。痛みで悲鳴が上がるが、その声すらひーくん食べられてしまう。

グチュグチュと響く水音。
荒い息遣いと零れる吐息。
束の間の休憩時間に囁かれる甘い声。

甘い空間とキスのせいで蕩けきった私には、もう為す術はなかった。ひーくんがくれるもの、全部が美味しくて、甘くて、気持ちがいい。ひーくんも私と一緒で気持ちよさそうに、私を食べてくる。

度重なる酸欠に、自分の容量を超えるような快感と疲労感のせいで、頭がくらくらする。このまま眠っちゃいそうだ。それが伝わったのか、

「………無理させたな。もう寝ろ」
「…ん……ひ、ぃくん」
「おう」

もう眠い。でも、これだけは言いたいの。
最後の気力を出して、

「……………だい、す………き」

ちゃんと聞こえたかな。心配だから、明日また言ってみよう。…おやすみなさい、ひーくん。









乱れた沙智の着衣を整え、口元を汚している唾液綺麗に舐めとる。

「可愛い可哀想な俺の沙智」

「愛してる、永遠にずっと一緒にいような」

ほんの少しでも離れたくなくて、隙間がなくなるくらい抱きしめる。
勝手に何処かへと行ってしまわないように。




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