泣いてしまう程の幸福を

ピピと目覚まし時計の音が聞こえた。薬を飲んでないから、睡眠が浅く、音が頭に響く。頭が痛い。でも、痛みを感じるって事は意識があるってこと。ちゃんと私、起きれたんだ。そう思っていると目覚まし時計の音が止み、肩を揺すられる。優しい大好きな声。りんちゃんとカヴァスに起こされるのも好きだけど、やっぱりひーくんに起こされるのが1番いいかもしれない。

「沙智、起きろ」
「………ひー、くん」
「起きれたな、偉いぞ」
「んふふ………おはよ、ひーくん」
「はよ、沙智」

身を起こしたひーくんに引っ張られるように私も起き上がる。喉は痛くないし、身体も痛くない。少しだけ頭痛がするけど、これくらいなら我慢出来る。今日もひーくんと一緒に居られる。

「母さんが沙智の朝飯作ってると思うけど、どーする。食えるか?」
「ひーくんのママのご飯好きだから食べるよ」
「分かった。無理すんなよ」

頭を撫でた後、ひーくんがベットから降りたので、私も慌てて降りる。少し乱れたシーツを直し、掛け布団を敷き直す。昨日りんちゃんに渡された洗顔セットと歯ブラシセットを持ち、ひーくんに着いていく。洗面所でとりあえず顔だけ綺麗に洗って、櫛で髪を梳かす。隣で顔を拭いているひーくんがじっと見ており、後で結んでねと言うと、今日も可愛くすると一言残して洗面所を出ていった。鏡に映る自分の顔が赤くて、冷やす為にもう一度顔を洗った私は悪くない。


「おはようございます、ひーくんママとパパ」
「沙智ちゃん、おはよう」
「おはよう、沙智ちゃん。よく寝れたかしら?」
「はい、ひーくんのお陰でぐっすりでした」

新聞を読んでいるひーくんパパとキッチンでご飯を作っているひーくんママに挨拶をする。美羽ちゃんは職場に近い所に家を借りている様で、最近滅多に会えなくなってしまった。ちょっと寂しい。
本来なら美羽ちゃんの席である所に座り、隣にひーくんが座る。そうするとひーくんママが次々と朝ごはんをテーブルに並べていく。毎日やっている事だからか、迷いがなく早い。凄い、憧れる。私もひーくんママのような奥さんになりたいなって思う。

「沙智ちゃんには卵粥用意したからね!。食べ切れなくても飛雄が食べてくれるから、無理しないように」
「はい。でも、ひーくんママのご飯は好きだから、ちゃんと食べます!」
「もう可愛いわねぇ!。飛雄、沙智ちゃんみたいな可愛くていい子、そうそう居ないんだからちゃんと捕まえておくのよ!」

既に食べ始めていたひーくんは、口の中に入っていたご飯を飲み込むと、

「沙智とはずっと一緒にいるって決めてるから」

そう言うとまた直ぐに朝ごはんを食べ始めてしまった。小さい頃に約束した。ずっと一緒にいる。大好きな彼と。ただそれだけで。

「大好きなひーくんとずっと一緒に居れるなら、私はずっと幸せだね」
「あぁ。沙智を幸せにすんのは俺だから」
「ふふっ。頂きます」

パクリと湯気が出ている卵粥を口に入れる。優しい味。やっぱりひーくんママのご飯は美味しいなぁ。

「我が息子ながら恥ずかしい事をすんなり言える精神は、何処で鍛えたんだろうな……」
「多分思った事を其の儘口にしているだけだと思うけれど………飛雄、カッコイイわね、うん」



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昨日は出来なかったこと。ひーくんと隣を歩くこと。其れが出来ただけで、今日はとてもいい日になる気がする。
朝5時に体育館集合なため、冷たい新鮮な空気が胸いっぱいに広がる。気持ちいい朝だ。

「ご機嫌だな」
「えへへ。何時も気がついたら学校だから、一緒に歩けるの嬉しいの」
「俺は何時もの行き方も好きだけどな」
「迷惑じゃないの?」
「沙智の世話すんのは好きだからいい」

と、そうこうしている内に校門を抜け、第二体育館が見えた。そこには既に昨日居たオレンジ色の髪の男の子が待っていた。私達も早く来たかなと思ったけど、其れより早いなんて。この子は何時から待っていたんだろう。待たせちゃって悪い事をした。謝らないとと口を開けたその時だった。

「遅せーぞ、影山ァ!何し、て……って、昨日の女の子!!!!」
「うるせェぞ、日向ボケェ!!」
「ふ、2人とも声が大きいよ…!」

内緒の練習だと昨日ひーくんに聞いたのに、こうも2人の声が大きいと内緒どころじゃない。注意をすれば、2人とも素直に悪いと言うので、意外と波長が合うんじゃないかと思ってしまう。何となくコレを言ったら、火に油を注ぐ気がして、胸の奥に閉まっておく事にした。

「えっと、私は1年3組の白崎沙智です」
「あ、えっと、俺は日向翔陽、1年1組…!」
「日向くん?もひーくんと一緒のバレー部なの?」
「ひ、ひーくん!?いや、あの、そうです!!」
「ド下手くそだけどな、此奴」
「んだとコラァァ!!」
「ひーくん、喧嘩しない!日向くんは静かに!」

もー、全然話が進まない!。


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