あの影山が女の子と手を繋いでいる………。
体育館に向かう2人の背中を見詰めながら、愕然とした。え、あの口が悪くて、人の心を抉るような言葉を投げかけ、ド下手くそ!!と罵るあの影山が、女の子と手を繋いでる……、え、何で。女心とか全く分からなさそうだし、というか人の気持ちも空気も読めない影山に??。俺も妹の夏と手を繋いで歩く事はあるけど、同い年の女の子と手を繋ぐなんて……。え、もしかして、影山って……彼女持ち………???????。え、やだ、そんな現実見たくない。
「開かねェ」
「ひーくん、鍵借りてないの?」
「秘密の特訓だから借りれる訳ねェだろ」
「自信満々に言うことじゃないよ…。じゃあ、窓とか開けたりしといたの?」
「練習する前に体育館追い出されたからやってねェ」
「ひーくん、本当に練習するつもりだったの?」
「おう」
鍵と扉をガチャガチャしながら言い合っている間も、あの2人は手を繋いでいる。普通に手を繋いでいる訳じゃなく、こう指を絡めて握っている。漫画で見た事ある、恋人繋ぎって奴だ。しかも女の子、白崎さんは影山の事を可愛らしく【ひーくん】と呼んでる。どう見てもそんな可愛い渾名で呼ばれる顔じゃないのに!!。
やっぱりこれは付き合っているよな、恋人同士なんだよな、リア充って奴だよな!?。つーか、何で彼女も練習に連れてきてんの、此奴!自慢かっ!自慢したいのか、影山ァ!!!。確かにどの角度から見ても可愛い女の子である白崎さんを自慢したい気持ちは分からなくもないけど!。
白崎さんは、ふわふわとひとつに結われた髪に、大きなぱっちりした目、白い華奢な身体つき。どっからどう見ても可憐な美少女だ。というか、クラスの奴等が噂してためちゃくちゃ可愛い女の子って、白崎さんの事なんじゃないか?。そんな女の子があの王様とにこやかにお手手繋いで話してる。意味がわからない。
「おい、日向。入れそうな窓探すぞ」
「いや、はっ!?見つかったらやべえだろ、バカか!」
「流石に空いてる窓はないんじゃないかなぁ…」
白崎さんの手を引きながら、体育館の窓を確認しに行こうとする影山。此奴、やっぱりバカだろと改めて思っていると、
「やっぱキッツイな、5時は。未だ暗えよ」
「田中さん!?」
欠伸をしながら、昨日朝練の時間を教えてくれた田中さんが居た。ヤバっ、勝手に体育館を使おうとしてたのバレたのか!。だが、田中さんはニヤリと怖い笑みを浮かべて、ジャージのポケットから小さな鍵を取り出した。チャリンと音を鳴らし、
「7時前には切り上げろよ?」
はっ!!!!!!。
「田中さあああん!!」
「あざス!!」
「わはは!なんて良い先輩なんだ、俺!。田中先輩と呼べ!」
「「田中先輩!!」」
田中先輩と何度も呼ぶと田中先輩は、嬉しそうに高笑いをする。よっしゃー、これで練習が出来る!体育館に入れる!バレーが出来るぞ!。鍵を開けるために扉に近づく田中先輩の後ろでソワソワと待っていると、影山の後ろに隠れていた白崎さんがひょっこり顔を出して、
「ひーくんの先輩?」
ポツリと小さな声を出した。早朝で、俺たちもソワソワと静かに田中先輩が鍵を開けるのを待っていたため、彼女の声はそれなりに響き、田中先輩の耳にも届いた。その証拠に田中先輩の耳はダンボの様に大きくなり、ギュンと此方に顔を向けてきた。その姿にちょっとビビったらしい白崎さんは、ひっ!と声を上げ、再び影山の背中に抱き着くように隠れてしまった。
「今、女子の声、聞こえたんだけど」
「……おい、沙智。挨拶」
「うっ、あいさ、つ」
影山は自分の背中に隠れる白崎さんを見つめ、白崎さんも少し涙目だけど、影山の目をじっと見詰め、また影山の背中から顔を出しながら、
「し、白崎沙智です……よ、よろしくお願いしますっ」
小さくお辞儀をしながら、白崎さんは挨拶をした。そして、田中先輩は
「は、はわわわわわ、可愛ええええええ!!」
天を仰ぎながら、座り込んでいた。一体何が。
「えっと、あの、田中せんぱ、い」
「はい!!!!!」
「ひぇ……あの、鍵ありがとうございます。ひ、ひーくんと日向くん、練習したくても体育館使えなくて、困ってたので。えっと、だから、田中先輩は2人の救世主、ですね!」
「くぁwせdrftgyふじこlp!?!」
「田中先輩っ!?」
日本語を忘れてしまった田中先輩。大丈夫ですか!と田中先輩の周りをウロウロしていると、田中先輩の手から零れ落ちた体育館の鍵を影山が拾い、其の儘体育館の鍵を開けた。そして、行くぞと白崎さんの手を取りながら体育館の中に入っていった。流れる様なリードに思わず見蕩れていると、
「おい、日向」
「あ、はい!」
「影山とさっきの天使ちゃんは恋、カッ……そう言う関係なのか………」
天使ちゃん??。白崎さんでいいんだよな。
そういう関係って恋人かって事…だと思うけど、そうだよな?。手、繋いでたし。影山、白崎さんには何か優しいし。
「えっと、俺も白崎さんのこと今日初めて顔合わせたンスけど……。影山と白崎さん、ずっとこう…手を繋いでました」
自分の手で影山たちがやってた所謂カップル繋ぎを見せると、田中先輩の顔が一瞬表情が抜け落ち、そして
「後輩に先越されたああああああああぁぁぁ!!!!」
「ぴっ!。…今の田中先輩の声……?」
「だな。沙智、ステージで練習見てるか?。見るなら運ぶぞ。1人でステージ登れないだろ」
「んー……ボール拾い位は出来るから頑張る」
「分かった。あんまり前に出るなよ」
「はーい。ひーくん、今日もかっこいい姿見せてね」
「おう」
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