とあるMの観察


私は模部山もぶやま。下の名前はプライバシー故、伏せさせて貰おう。知らない人は居ないだろうと思う、数字の名前のアイスクリーム屋さんで働く店員である。店を構える場所が駅の近くなため、社会人も学生も沢山やってくる。特に小さなお子さんを連れたお母様方や子ども達の集団、そして学生カップルが多い。彼氏いない歴=年齢の私にとっては羨ましくもあれば、初々しくアオハルだなぁとほのぼのしてしまう。今日も今日とて、私は沢山のお客さん、子ども、カップルを捌ききった、おやつの時間が過ぎた頃。そのカップルは現れた。

「いらっしゃいませ〜」

自動ドアが開くと鳴る音楽と同時に声を掛けると、そこには180くらいある長身の男の子と150も無さそうな小さな女の子がやってきた。
2人とも綺麗な顔立ちをしており、お互い共に学校ではモテてそうな雰囲気。男の子は切れ長の瞳にサラサラとした黒髪で王子様っぽいし、女の子もぱっちり大きな瞳にふわふわした髪でお姫様って感じだ。2次元、3次元ともに綺麗な男の子と可愛い女の子に目がない私にとってはかなりのタイプ、良し、推そう。
多分初めて見た2人だから、初来店だろう。とりあえず名前は分からないから、王子様とお姫様と呼ばせてもらう。

推しの初来店ににこにこしていると、王子様の方は小さく「涼し」と呟いていた。外、暑いもんね。存分に涼んでいって!。と、見ているとこの2人、ぎっちり恋人繋ぎをしていた。外は暑いって言うのに、手を離さないなんて……可愛い。絶対手汗でベタベタになっているだろうに、そんな事気になんないくらい離したくないんだろう。やっぱり可愛い。

「ひーくん、此処がアイスクリーム屋さん?」
「おう。今日の検査頑張ったら寄ってやるって約束してただろ」
「ふふ、ありがとぉひーくん」

ひーくん!!!!!!!!!!!(声デカ)。
180もある王子様の渾名がひーくんなの!?!?。顔的にひー様の方が近そうなのに、そんな可愛い渾名なんだ………というか、その渾名で呼ぶのを許しているんだ………ふぇぇえ。お、王子様…いやひー様と呼ばせてもらおう…ひー様はお姫様の事なんて呼んで、

「んで、沙智はどれにすんだ」

沙智!!!!!呼び捨て!!!!キタコレ!!!!。
お姫様改めて沙智ちゃん♡って呼ばせてもらおう。可愛い女の子の名前は可愛いんだ。沙智ちゃんのお名前を付けたご両親には感謝しなきゃ、ありがとうございます!!。

私が感謝を捧げていると、2人で小さいメニュー表を見ていた。メニュー表はその1枚だけって訳ではなくて、もう数枚は置いてあるのに、敢えて2人で見える。な、仲良し〜〜〜〜〜。2人の仲良しっぷりを目に焼き付けようとじっと観察をしておく。

「この辺、沙智が好きないちごだな」
「いちご……この青いのが1番人気なの?」
「みてーだな。でもそれ、口の中がパチパチするから止めとけ」
「でも、美味しいんでしょ?」
「炭酸も飲めねェんだから、大人しくいちごのにしとけ」
「はぁい」

炭酸も飲めない沙智ちゃん、Priceless。
ひー様も沙智ちゃんの好みをはっきりと分かっているのだろう。さっきからコレとコレはお前は気に入ると意見している。沙智ちゃんもそれに反対する訳でもなく、ふんふんと聞き入れている。いい関係性だなぁ。

「じゃあ、このショートケーキのにする」
「ん。カップでいいな?」
「うん!。ひーくんはどうするの?」
「………沙智は何と何で迷ってたんだ?」
「んと、このキャラメルのやつとショートケーキで迷ってたけど、ひーくんが1番最初にオススメしてくれたのがショートケーキのだったから、今日はこっち!」
「……俺も決まったから、注文してくる。沙智は座って待ってろ」
「わ、私、払え「ご褒美だから俺が払う」…う」

ひー様はそれを最後にメニュー表を元にあった場所に仕舞い、私の方へ歩いてきた。
沙智ちゃんも割り勘にしようとお財布を出そうとしてたけど、ひー様は奢る気満々らしい。まぁ、此処のアイスくらい奢ってくれる彼氏が良いなぁと思うけど、鼻から奢られる気満々の彼女もどうかと思ってしまうので、2人の対応が私の好みドンピシャである。
とってもSUKI。
唇をかみ締めながら悶えていると、「すみません」とひー様の声がかかる。ヤバい、仕事モードにならないと!。

「は、はい!ご注文をお伺い致しますっ」
「このショートケーキとキャラメルを1番小さい奴で」
「スモールですね」
「ッス」

いや、待って。キャラメルって沙智ちゃんが2番目に食べたかったやつだったよね?。え、結局2つ共彼女に食べさせたくて買ってあげるの、ひー様…!。沙智ちゃん良かったね!2つとも食べれるよ!って言いたいけど、グッと我慢だ…。私はまだ仕事中!!。

「か、カップとコーン、何方に致しますか?」

どっちにするか聞いてたから知ってるけど、一応聞いておく。まぁ、返事は、

「両方カップでお願いします」

ですよね!。その後お金を頂いて、懇切丁寧にアイスを盛り、お渡しをした。お釣りを返した時もアイスを渡した時もひー様は小さくお辞儀をしながらお礼を言っていた。今時お礼を言えない大人や子どもが多いけど、ひー様のご両親はちゃんと教育しているみたいだ。ありがとうございます、ひー様のご両親様!。貴女方のおかげで私の萌はチャージされてます!!。

両手にアイスを持ったひー様は、しっかりとした足取りで沙智ちゃんの元に戻っていた。沙智ちゃんも改めてひー様にお礼を言っており、この子もちゃんとお礼を言える子なんだ、ご両親に感謝を(以下同文)。

「あれ、ひーくんのやつ……」
「甘いもの食べたかっただけだ」

沙智ちゃんがひー様が買ったものを見たらしい。そうだよ、君が買うの迷ったキャラメルのやつだよ!!。絶対ひー様は、両方とも沙智ちゃんに食べさせたかったんだよ、だってご褒美だもんね!!(声デカ)。
私の想いが通じたのか(違う)、ひー様の丸わかりの嘘に沙智ちゃんはくすくす笑う。

「ありがと、ひーくん」
「俺が食べたかっただけだから、礼はいい」
「ふふっ、ひーくんのツンデレさん」
「チッ!!………オラ、変なこと言ってねェで早く食べろ。アイスだから溶けちまうぞ」
「はーい」

少し顔を赤くしたひー様が促すと沙智ちゃんも、それ以上揶揄うことなくアイスを食べ始めた。
彼女にとって初めてのショートケーキ味のアイスだ。お味の方はどうだろう、好きになってくれてリピートしてくれると私が助かる。
小さなお口でもぐもぐしてる沙智ちゃんを私とひー様が見守る。そして、彼女の瞳がきらりと煌めいて

「美味しい〜!」
「良かったな。こっちも食べろ」
「んっ」

ひー様は掬ったキャラメルのアイスを沙智ちゃんに食べさせた。色々なカップルが"あーん"する現場を見てきたけど、どのカップルも照れがあって恥ずかしそうに食べたり、食べさせたりしていたが、この2人は慣れているような…恥などなく普通に"あーん"していた。もしかして日常的に行っている行動なのでは……!。

「ん、ん……こっちも甘くてすき。ひーくんも一緒にケーキ食べてよ。あーんして」
「あ………甘いな」
「甘いの食べたかったんでしょ」
「……………………おう」

すっかり自分が言った設定を忘れていたのか。多分ひー様、普段はそんなに甘いもの食べないんだろうな。まぁ、こう言うのも良くないとは思うけど、180もあって体格もいいひー様が甘いものを食べるところが浮かばない。肉とか男らしいもの食べてそう。

そうこうしている内に2人は交互にアイスを食べせ合って、ご馳走様をしていた。スモールだもんね、そりゃあ食べ切るのも早いよね。うう、もっと拝んでいたかったなぁ。来た時と一緒で2人はきっちり恋人繋ぎをして、ゴミを捨て、スタスタと自動ドアへと向かっていった。名残惜しいけど、ただの店員が引き止める訳にもいかず、今日1番の笑顔で「またのご来店お待ちしております」と声を掛けると、

「ご馳走様でした!。美味しかったですっ」
「また来週来ます」

微笑みながらそんな言葉を残して、2人は店を出ていった。2人の笑顔に撃ち抜かれた私が言えることはひとつ、そうたったひとつだ。



来週休み貰ってたけど、シフト変わって貰おう。




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